政府・日銀が目標としてきた上昇率が2%を超えたのは、消費税率引き上げの影響を受けた2015年3月以来、7年1か月ぶりで、消費税の影響を除けば2008年9月以来、13年7か月ぶりとなります。
下のグラフは、企業どうしで取り引きされる原材料などのモノの価格を示す「企業物価指数」と、私たちが買うモノやサービスの値動きを示す「消費者物価指数」の伸び率の推移です。
原材料費の上昇のほか、急速に進んだ円安による輸入コストの上昇も指数を押し上げました。 これまでは原材料費が高騰しても値上げによる消費者離れを懸念して身近な商品の価格に転嫁できず、企業物価指数と消費者物価指数の上昇率には大きな開きがありました。 しかし、仕入れコストの高騰に耐えきれず、企業の間で商品を値上げする動きが相次いでいて、企業物価を追いかける形で消費者物価も上がり始めています。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によりますと、ことし3月の働く人1人あたりの現金給与総額は平均で28万6567円と、去年の同じ月と比べて1.2%増えたものの、物価の変動を反映した実質賃金は0.2%下回り、マイナスになりました。
「生鮮食品」も大きく値上がりしました。 まん延防止等重点措置が解除され外食需要が増えたことや原油高で輸送コストが高騰していることなどを背景に、まぐろは17.2%、さけは13%上昇しました。 このうち、さけは、ウクライナ情勢の緊迫化でノルウェーからの輸入品がロシア上空をう回して空輸せざるを得なくなり、輸送コストがかさんだことも値上がりにつながりました。 さらに、「エネルギー」の上昇も指数を押し上げました。
「エネルギー」の上昇幅は、3月と比べると政府の補助金などでガソリン価格が抑えられた影響でわずかに縮小したものの、引き続き消費者物価指数を押し上げる最大の要因となっています。 生活に欠かせない食品やエネルギーが中心の値上がりで、家計の負担が重くなっていることがうかがえます。
増田さんは今、夫と2人暮らしで、1日3食のおかず代を1200円までに抑えようとしていますが、相次ぐ食料品の値上げで予算を守れなくなっているといいます。増田さんの夫はあと少しで定年を迎えるため、老後に向けてできるだけ貯蓄したいと考えています。 このため支出を少しでも抑えようと、野菜はへたの取り方や切り方を工夫して使い切ることを徹底したり、生ゴミは肥料にして庭でインゲン豆や小松菜を栽培したりしているほか、車を使う頻度を少なくするなどの工夫を重ねています。 増田さんは「毎日使うモノの価格が上がるのは、家計を預かる身としては非常に厳しい。削れるものを削って細かく工夫をいろいろして家計を守っていきたいが、輸送費や円安による原材料の輸入価格の上昇などさまざまな要素が相まって今の値段になっているので、物価が高い状況がいつまで続くのか不安だ」と話していました。
下のグラフは、食品やエネルギーの値上がりによる年間の負担額が、コロナ前の2019年と比べてどの程度、増えるのかを2人以上の世帯で年収別に見たものです。
それによりますと、食品やエネルギーの値上がりによる年間の負担額は、年収によって6万4468円から9万8697円、増えることが分かります。 この負担の増加額を、年収に占める割合で見てみます。
値上がりによる負担率は年収が1193万円の世帯のおよそ3倍となっていて、生活必需品を中心とした物価上昇は所得が低い世帯ほど影響が大きくなることを示しています。
そのうえで「今の物価上昇は輸入品の値段が上がっているということにほぼ尽きるわけで、日本から海外に所得が移転していることと同じ意味を持ち、日本経済にとってみれば明らかにマイナスだ。家計にとってみても毎日使う電気代やガソリン代、それに食料品と、身近に実感しやすい品目が上がってきているので、長年デフレに慣れてきた日本からすれば戸惑っているところがある」と分析しています。 そして物価の先行きについては「原油高と円安のピークはことしの夏ごろだと思っているが、企業が価格に転嫁したり、物価に波及したりするのは少し遅れるので、2%台の物価上昇は年内いっぱい続くだろう。景気が失速しないようにするため貯蓄を引き出して消費に回すような国内の需要の喚起策を進めるとともに、企業側には物価の上昇分を賃金に反映させるように求めていくことも必要になる」と話しています。
このため、値上げに踏み切る牛タン専門店が相次ぎ、このうち弁当を中心に展開する仙台市内の会社もことし3月に弁当を2割ほど値上げしたほか、持ち帰り用の牛タンの販売を取りやめました。 ことしに入って2400円ほどで推移してきた牛タンの仕入れ価格は急速に進んだ円安によって先月から2700円ほどに上昇していますが、3月に弁当を値上げしてから客足が1割ほど落ちているということで、再度の商品の値上げには慎重になっています。 会社では円安に対応するためアメリカ産の牛タンに代わる国産の食材の取り扱いを広げています。1年前に始めた国産の豚のタンを使った弁当の販売を今後も継続するほか、この夏からはイノシシやエゾシカなど野生動物の肉「ジビエ」を低温熟成の技術で加工して販売し、リスクの分散化と経営の多角化を図ろうとしています。 「陣中」の福山良爾社長は「輸入の食材に頼るのはリスクが大きく、牛タン1本で会社を存続できるのか疑問を感じるようになった。円安が強みになる輸出を手がけることも視野に入れて事業を展開し生き残りを目指したい」と話していました。
さらに燃料価格の上昇で配送コストも大きな負担になっています。このため、製めん所では、少しでもコストを抑えようと、配送ルートを見直して、トラック1台あたりに積み込む商品の量を増やす工夫をしてきました。しかし、こうした工夫だけでは仕入れ価格の上昇分を吸収できず、先月めんの販売価格を値上げしました。 うどん1袋あたりの値上げ幅は2円から3円ほどですが、価格競争の激しい商品だけに、取引先の一部では値上げをきっかけに、販売量が減ったところもあるということです。 「マルバヤシ」の林本正也社長は「生産にかかわるもので、コストが現状維持なのは水道代くらいしか見当たりません。お客さんに身近な商品なので値上げの幅はなるべく抑えたいですが、多少なりとも値上げするところはさせてもらって、適正な価格で販売していきたいというのが正直な気持ちです」と話していました。
物価上昇 追いついていない“賃金”
“経済の好循環を伴っていない”
値上がりの中心は“食品”や“エネルギー” 家計の負担増加
食用油は36.5%上昇
「エネルギー」全体で19.1%上昇
所得が低い人ほど影響が大きく
専門家「『悪い物価上昇』になってしまっている」
仙台名物 牛タンも値上げ
原材料価格の高騰で値上げも
一方で専門家は「賃金が上がらずにコストだけが増える『悪い物価上昇』になってしまっている」と指摘しています。
いったいどういうことなのでしょうか?
上昇2%超 背景に“原油高騰”や“急速な円安”