ノーベル平和賞 日本被団協 12日午後に会見へ
ノルウェーにあるノーベル平和賞の選考委員会は、日本時間の11日、ことしのノーベル平和賞に日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会を選んだと発表しました。
受賞理由について「核兵器のない世界を実現するために努力し、核兵器が二度と使われてはならないと証言を行ってきた」と評価しています。
日本被団協は、広島や長崎で被爆した人たちの全国組織で、およそ70年にわたり被爆の実相を伝え、核兵器廃絶を世界に訴える活動を続けてきました。
日本のノーベル平和賞受賞は、非核三原則を表明した佐藤栄作 元総理大臣が1974年に受賞して以来、50年ぶり、2度目です。
日本被団協は12日午後、都内で会見を開き、田中煕巳 代表委員らが受賞の受け止めや核廃絶などを改めて訴えることにしています。
広島と長崎に原爆が投下されてから来年で80年となりますが、世界では核の脅威が高まっていて、日本被団協は今回の受賞をきっかけに核兵器廃絶に向けた活動を強めていくものとみられます。
選考委員長「人類と核兵器は共存できない」
ノーベル平和賞の選考委員会のフリードネス委員長は11日、ノルウェーの首都オスロでNHKのインタビューに応じました。この中で、フリードネス委員長はことしの受賞者に日本被団協を選んだ理由について「核兵器は道徳的に受け入れられず、二度と使用すべきでないという私たちが『核のタブー』と呼ぶ国際規範を形づくる上で、被爆者の証言が重要な役割を果たすと見ているからだ」と述べました。
そして「ウクライナに対するロシアの脅威をみると、これは人類に対する脅威の問題となっている。核のタブーが軽んじられると、最終的には核兵器が再び使用されることにつながる可能性がある」と指摘しました。
その上で「来年は広島と長崎で核兵器が使われてから80年になる。この間、核兵器が使用されていないことは、人類を代表する形で被爆者によってなされた偉業だ」と述べ、被爆者たちのこれまでの活動をたたえました。
さらに、フリードネス委員長は「世界のすべての政治指導者に対し、人類と核兵器は共存できないというメッセージを送りたい。被爆者の痛みや苦しみに耳を傾け、『核兵器によって自分たちが経験したことをほかのだれも経験すべきではない』という彼らのことばを聞いてほしい」と訴えました。
また、被爆者や日本被団協に対して「何十年にもわたって継続してきたかけがえのない活動と、それを若い世代が引き継いでいることに感謝している」と述べた上で「世界中の国々の市民社会が核軍縮を政治課題として提起するため行動を起こすことを願っている」として今後、核軍縮の機運が高まることに期待を示しました。
推薦者 「世界が注目 希望に満ちた重要なサイン」
日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会は、海外からもノーベル平和賞に推薦されてきました。イギリス・ブラッドフォード大学の元研究員で、平和について研究を重ねてきたピーター・バン・デン・デュンゲン氏は、被爆者との交流を通じて親交を深め、2015年のノーベル平和賞に日本被団協を推薦しました。
デュンゲン氏は11日、NHKのインタビューに応じ「受賞がようやく決まったと知り、とてもうれしかったです。本当にふさわしい決定で、日本だけでなく、世界全体にとって、とても良いニュースです」と歓迎しました。
さらに、世界ではいま核兵器が使用されるおそれが高まっていると指摘し「私たちは核兵器と共存してきましたが、そのことに慣れてはいけません」と述べ、今回のノーベル平和賞は、核保有国だけでなく世界に警告を発する意義があると強調しました。
そのうえで「被爆者の証言や映像を日本だけにとどめず、世界の博物館で見られるようにすることが重要です。今回のノーベル平和賞は世界が注目しているという、とても希望に満ちた重要なサインだと思います」と述べ、核兵器の使用を防ぐため、高齢化が進む被爆者の経験を世界に向けて発信し、共有していくことが重要だと訴えました。
核軍縮に詳しい識者 “核不使用のメッセージ伝えたかった”
核軍縮や軍備管理に詳しい一橋大学の秋山信将 教授は日本被団協のノーベル平和賞受賞について「核の非人道性を訴える地道な活動が核兵器を使用しないという、核の不使用の規範を国際社会に確立する重要な基盤となったことが評価されたと同時に、世界各地で紛争が起き、その中で核兵器の使用の懸念が高まる中、国際社会に対して改めて核兵器不使用の歴史を継続すべきであるというメッセージを平和賞の選考委員会としては伝えたかったのではないか」と話していました。
その上で、今回の受賞が国際社会の核軍縮にもたらす影響について「核保有国が核戦力を増強する傾向は変わらないと思うが、核兵器不使用の国際規範が高まっていけば核兵器を使用する心理的なハードルが高まると考えられるほか、NPTなど国際的な核軍縮の議論の場では被団協のノーベル平和賞受賞は1つの大きな声にはなると思う。国際社会における核不使用の規範を求める声に対して核保有国はどのような説明責任を果たしていくのかという点については注目すべきだ」と話していました。
また、今後の核軍縮の進め方について「厳しい安全保障環境の中でも核兵器の使用を避けるための国家間の信頼醸成や核保有国間のコミュニケーションなどできることを積み重ねていくことが重要だと思う。お互いの安全保障上の懸念を払拭していくことが核の役割の低減や核兵器そのものの削減につながっていく」と話していました。
《海外の反応》
国連 グテーレス事務総長「誇りを持って被爆者とともに立つ」
ことしのノーベル平和賞に日本被団協が選ばれたことについて、広島と長崎を訪問したこともある国連のグテーレス事務総長は「心から祝福する」とする声明を発表しました。
この中でグテーレス氏は「被爆者のたゆまぬ活動と不屈の精神は、世界の核軍縮運動の原動力となっている。私は数年にわたり、被爆者と数多く会ったことを決して忘れない。彼らの記憶に焼きついた生々しい証言は、核の脅威が歴史書の中だけにとどまるものではないことを世界に思い起こさせる」としています。
そのうえで核兵器を使用する可能性を示唆するロシアのプーチン大統領の発言などを念頭に「核兵器は依然として人類に対する明白な現実の脅威であり、国際関係をめぐる日々の発言の中にも再びあらわれている。世界の指導者たちは今こそ、被爆者と同じように澄んだ目で、核兵器をありのままに見るべきだ。核兵器は安全も保護ももたらさない死の装置だ」と警鐘を鳴らしました。
そして「核兵器の脅威をなくす唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することだ。国連は誇りを持って被爆者とともに立つ」として核廃絶を世界に呼びかけました。
国連 中満事務次長「世界に対する強烈なパンチ メッセージ」
国連で軍縮部門のトップを務める中満泉 事務次長が11日、ニューヨークの国連本部で記者団の取材に応じました。
中満事務次長は「被爆者の方たちのさまざまな努力があったからこそ、国連でもいろいろなことができる。軍縮のための機運を盛り上げるために強力なメッセージを国際社会の場で発信していただいて、私たちにとってはエネルギーをたくさんくれる存在だ」と話し、受賞が決まった喜びをともにしていました。
そして核兵器をめぐる現状について「ウクライナ戦争の関連でも、そしてガザでの紛争の関連でも核兵器の使用をちらつかせるような無責任な発言がある」と危機感を示すとともに「核兵器が本当に使用されてしまうかもしれないというリスクが高まっているなか、被爆者という当事者の方々へのノーベル平和賞は世界に対する強烈なパンチ、メッセージだと受け止めている」と話し、今回のノーベル平和賞の意義を強調しました。
そのうえで「現在の国際安全保障環境は一朝一夕で核の廃絶ができる状況ではない」としながらも「受賞のニュースを聞いて再び心に誓ったのは、これはやはり世界全体に対するメッセージだろうということで国連を含めて、これからもしっかりと考えて行動しなければならないと感じた」と話し、国連として核廃絶に向けて取り組む決意を新たにしていました。
オーストリア外務省 軍備管理軍縮局長がコメント
核兵器禁止条約の成立に尽力し、おととし開かれた初めての締約国会議で議長も務めたオーストリア外務省のアレクサンダー・クメント軍備管理軍縮局長はNHKの取材に対して「核兵器禁止条約は被爆者の存在なくしてはあり得なかった。核兵器による脅威や脅し、そしてここ数十年で最も高い核紛争の危険性を目の当たりにしている今の世界で、被爆者たちのメッセージはますます重要となっている。私は核軍縮に取り組む中で、高齢でありながら行動的でたくましく、自分たちが耐えなければならなかった体験から世界を救おうと尽力する被爆者の方々と何度も会い、刺激を受けた」とコメントしています。
なかでも、核兵器廃絶の道半ばで亡くなった谷口稜曄さんの名前を挙げ「2014年に長崎でお会いしたときのことは鮮明に覚えている。背中にやけどを負った少年時代の谷口さんの写真は、核兵器の非人道性を物語る最も象徴的なイメージの1つだ。多くの苦しみを経験した谷口さんの謙虚で前向きなエネルギーは信じがたいものだった」と振り返りました。
その上で「ノーベル賞はその活動に対する評価であり、谷口さんやほかの被爆者に感謝するものであることをうれしく思う」と結んでいます。
ウクライナ高官「ロシアに対する非公式の警告を象徴」
ウクライナのポドリャク大統領府顧問は11日「ことしのノーベル平和賞は、私たちがどんな世界に生きているかを明確に示している。これは、国際政治における目標を達成するために、核兵器による脅迫を積極的に行っているロシアに対する非公式の警告を象徴するものだ」と述べ、ウクライナへの軍事侵攻をめぐって、核兵器の使用をちらつかせてきたロシアへのメッセージだという見方を示しました。
米有力紙 被爆者や平和公園の写真掲載し報道
アメリカの有力紙は被爆者や広島市の平和公園の写真を掲載するなどして伝えています。
このうち、ニューヨーク・タイムズの電子版は、被爆者の写真を掲載したうえで「被爆者の多くは、核兵器が2度と使用されることがないように原爆によって引き起こされたトラウマなどを広く世界に伝えることをライフワークとしている」などと伝えています。
また、ワシントン・ポストの電子版も、広島市の平和公園や原爆が投下されたあとの広島を映した写真を掲載した上でノーベル平和賞の委員会が示した受賞理由を紹介し「日本被団協は、何千もの証言を提出し決議や公開アピールを発表し毎年、代表団を国連やさまざまな平和会議に派遣し核軍縮の緊急性を世界に訴え続けてきた」と伝えています。
◇平和賞選考の委員会 フリードネス委員長 受賞理由【全文】
ノーベル平和賞を選考する委員会のフリードネス委員長は、日本時間の11日午後6時から日本被団協の受賞理由を発表したあと、記者団の質問に応じました。
Q.いま、軍事的な衝突が世界各地で起きている中、委員会が世界の指導者たちへ発信するメッセージは何か?
フリードネス委員長
「被爆者のメッセージや証言は核兵器を使うことがいかに容認できないものかを思い起こさせる重要なものだ。私たちは被爆者の声を聞くべきだ。すべての指導者が核兵器は2度と使われてはならないという被爆者の痛ましい話に耳を傾けることを望む」
Q.なぜことしの受賞者を日本被団協に決めたのか?
「世界の情勢や紛争を見ると、核兵器は2度と使われてはならないという規範を守るために、核使用のタブーを守ることがいかに重要であるかが分かる。日本被団協と被爆者は、この文脈で非常に重要であり、すべての国が核兵器を使用しない責任がある」
Q.日本被団協の方とは連絡を取ったのか?どのような反応があったのか?
「残念ながらまだ連絡をとっていないが、すぐに連絡をとりたい」
Q.ことしは世界各地で紛争が起きていて特別な年だと語っていたが、なぜ、ことしは特別なのか?
「多くの場所で紛争が起きていて、世界中の多くの人々が暗い空を見ていると思う。
しかし、今回の平和賞を通じて、状況をかえたい。私たちは共同体であり核兵器の脅威は人類すべてに及ぶ可能性があるからだ」
Q.核兵器を巡る主張、特にロシアによる主張は、今回の決定に影響したのか?
「核兵器を使用するという脅しが、国際的な規範である核使用のタブーに圧力をかけているのは明らかだ。核使用をめぐる国際的で強力なタブーを守ることは、人類にとって極めて重要だ」
Q.委員会は、実際の紛争で核兵器が使われる脅威が現実的になってきているとみるべきだと判断したのか?
「核のタブーを減退させるような言動は人類にとって危険だ。ことしの平和賞は、この核のタブーを守る必要性に焦点を当てたもので、特に核保有国にはすべての責任がある」
Q.原爆投下からおよそ80年が経ち時間とともに被爆者の数は減少している。被爆者のメッセージを世界に届けるために、ことしの平和賞にどのようなことを期待するか?
「私たちは、日本の新しい世代が1945年8月の出来事を伝えていく責任を担っていると認識している。新しい世代が証人たちとともに、核使用のタブーを守るために、世界中の人々を鼓舞して教育することができるかが極めて重要だ」