過去最大の引き上げ額 新しい最低賃金は
最低賃金は、厚生労働省や各地の労働局の審議会を経て毎年、都道府県ごとに決められます。
新しい最低賃金は今月1日から順次、全国で適用されていて13日までに東京都や大阪府など43の都道府県で適用されます。
今後は
▽佐賀県が今月17日
▽山形県が今月19日
▽岩手県が今月27日
▽徳島県が来月1日に引き上げられます。
今年度は時給が全国平均で51円引き上げられ、現在の方法で決めるようになった2002年以降最大となりました。
引き上げ額が最も大きかったのは
▽徳島県の84円で
次いで
▽岩手県と愛媛県の59円
▽島根県の58円などとなり
27の県で51円以上の引き上げとなります。
ほかの20の都道府県での引き上げ額は50円でした。
また、引き上げ後の時給は全国平均で1055円となり
▽最も高いのは東京都の1163円
次いで
▽神奈川県の1162円
▽大阪府の1114円などとなります。
一方で
▽最も低いのは秋田県の951円
次いで
▽岩手県、高知県、熊本県、宮崎県、沖縄県の952円
▽青森県、長崎県、鹿児島県の953円などとなっています。
最も高い東京都と最も低い秋田県の差は212円です。
厚生労働省は、経営者側に対し労働者の賃金が最低賃金を下回らないよう呼びかけるとともに、賃上げや設備投資を行った中小企業や小規模事業者などへの助成金を設けていて支援しています。
全国で最大の引き上げとなった徳島 地元のラーメン店は
これまで全国で2番目に低かった徳島県の最低賃金は、今回の改定で全国で最大の84円引き上げられ、来月から時給980円になります。
アルバイトやパートを多く雇用する県内のラーメン店の運営会社では、今月から前倒しで時給の引き上げを始めましたが、物価高のなか価格への転嫁は簡単ではなく厳しい経営を迫られています。
徳島名物の「徳島ラーメン」の店を県内で10店舗展開する徳島市の会社では、従業員の8割余りにあたる200人以上が、アルバイトやパートとして働いています。
この会社では来月からの最低賃金の引き上げを前に、これまで950円以上だった時給をすでに今月から1050円以上に引き上げて対応しています。
人手不足の中で人材を確保する必要があるためです。
徳島市内の店舗で働くアルバイトの40代の女性は「少しの引き上げでもちりも積もれば山となるのでとてもありがたいです」と話していました。
ただ、この会社では時給の大幅な引き上げの影響で、全体の人件費が5%上昇しました。
これまでの物価高で麺などの材料費や光熱費などが上がり、ラーメンの価格を去年10月にすでに100円値上げしていて、これ以上の価格転嫁は難しいのが現状です。
このため、今回の最低賃金の改定で上昇した人件費は利益からの持ち出しで対応せざるを得ず、厳しい経営を迫られています。
ラーメン店の運営会社「東大」の萩野茂樹人事部長は「最低賃金の引き上げ額は50円くらいを予測して心構えはしていたが、84円の引き上げにはびっくりした。経営的には厳しいところだが、すぐに価格転嫁すれば、お客さんが足を運びづらくなる。仕入れの見直しのほか、やはりサービス・商品の魅力の向上で売り上げを上げて対応するしかない」と話していました。
さらに最低賃金の引き上げで時給が上がり続けるなか、アルバイトやパートの従業員がいわゆる「年収の壁」を意識して働く時間を抑え、人手不足につながることも懸念しています。
萩野人事部長は「収入が上がれば働ける時間が制限されるアクセルとブレーキを両方踏んでいる状態だ。国などは『年収の壁』を解消する施策をあわせて考えてほしい」と話していました。
78.8%が「行政の支援必要」
最低賃金の異例の大幅な引き上げの影響は、徳島県内の多くの中小企業に広がっています。
徳島県が今回の最低賃金の改定の影響について、県内113社を対象に緊急のアンケートを行った結果、全体の57.5%が経営の影響について「大いにある」と回答しました。
また、行政の支援の必要性について全体の78.8%が「必要である」と答え、このうち補助金や支援金、給付金などの財政的支援を求める回答が最も多かったということです。
県によりますと、企業からは「取引先に価格転嫁に応じてもらえても、反映されるのは6か月後でその間の支援が必要だ」という声も寄せられたということです。
これを受けて県は今月、賃上げの財源不足などに対する激変緩和措置として、時給930円未満から980円以上に引き上げた県内の中小・小規模事業者などを対象に
▽正社員1人当たり5万円
▽非正規社員1人当たり3万円の一時金を、50万円を上限に支給する独自の支援策を定めました。
また、賃上げについて国の助成金の活用など制度の相談を受け付けるワンストップ窓口も、ことし12月上旬に設けることを決めました。
最低賃金上がるも「将来不安」
名古屋市で母親と2人で暮らす30代の女性は、市内の郵便局で時給制の契約社員として働いています。
愛知県の最低賃金は今月、時給1027円から1077円に引き上げられ、これに伴い、女性の基本給も時給1050円から1100円に上がりました。
女性は週5日、1日8時間ほど働くので、1か月当たりにおよそ8000円アップする計算になります。
同じ職場で16年余り勤務していて基本給とは別に時給190円が加算されます。
この加算額は上限に達しているため、女性は最低賃金が上がらなければ今後、給料が増える見通しがないと考えています。
女性は「最低賃金が引き上げられて助かりますが、食費だけではなく日用品などの価格もどんどん上がっていて、時給が50円上がっただけでは埋められないように感じます」と話します。
女性は1か月の手取りが現在およそ17万円で、トラックドライバーとして働く50代の母親の収入と合わせて家計をやりくりしています。
コメなどの食料品の値段が高くなるなか、最近1か月の家庭の食費は去年と比べて1万円ほど増え、女性は複数のスーパーを巡って安い食材を探したり、安いときに買い込んで冷凍したりして、食費を抑えようとしています。
しかし、貯蓄をする余裕がなく、将来に不安を感じています。
女性は「今は私と母で生活費を折半してなんとかやっていますが、母が年を取ってトラックドライバーの仕事を辞めてしまうと生活ができなくなる可能性もあり、心配です。生産者のことを考えると物価が上がるのはしょうがないとも思いますが、今の物価をよく見て最低賃金を今後、決めてほしいです」と話していました。
専門家「経済状況に合わせた最低賃金設定を」
労働政策に詳しい東京大学公共政策大学院の川口大司教授は「最低賃金が上がると、それに近い賃金で働いている人の生活水準が上がっていくことは期待できると思う。ただ、雇用主にとっては負担が増えるので、人を雇う代わりに機械を入れたり、ビジネスそのものを取りやめたりして雇用が減ることも懸念される」と指摘しました。
そして、ことしは最低賃金が大幅に引き上げられたことを踏まえて「雇用や物価への影響などを慎重に検討して、今後の政策を議論する必要があり、47都道府県ごとの経済状況に合わせた最低賃金の設定につなげていくべきだ」と話しています。
最低賃金10年で257円引き上げ
最低賃金を今年度までの過去10年でみると、2015年度から2019年度まで、全国平均の時給で18円から27円引き上げられました。
新型コロナの影響で経済状況が悪化した2020年度は1円の引き上げでしたが、次の年からは4年連続で過去最大の引き上げとなり
▽2021年度は28円
▽2022年度は31円
▽昨年度が43円
▽今年度が51円でした。
その結果、昨年度、全国平均が1000円を超え、今年度は1055円となりました。