当時とうじ、三島みしまと行動こうどうをともにしてみずから命いのちを絶たった若者わかものがいました。25歳さいだった森田もりた必勝ひっしょう（まさかつ）。

「命いのちを懸かけて、弟おとうとは何なにを訴うったえたかったのか」

91歳さいになる兄あにがNHKのインタビューに応おうじました。

三重みえ県けん四日市よっかいち市しに住すむ森田もりた治おさむさん（91）。

三島みしまとともに自決じけつした森田もりた必勝ひっしょうの16歳さい上じょうの兄あにです。

治おさむさんは中学校ちゅうがっこうの教員きょういんを10年ねん以上いじょう務つとめたあと労働ろうどう組合くみあいの支持しじを受うけて県議会けんぎかい議員ぎいんに当選とうせんし、24年間ねんかん活動かつどうしました。

両親りょうしんが早はやくなくなり、5人にんきょうだいのいちばん上じょうだった治おさむさんが親代おやがわりだったといいます。

治おさむさんは、「戦後せんごまもない当時とうじ、食べ物たべものが思おもうように手てに入はいらず私わたしが農業のうぎょうを始はじめてきょうだい全員ぜんいんを食たべさせてあげないといけなかった。父親ちちおやの代かわりとなって弟おとうとを育そだてたが性格せいかくは明あかるく活発かっぱつな子こどもだった」と振り返ふりかえっています。

森田もりたは早稲田わせだ大学だいがくに進すすみますが受験じゅけんの際さいには治なおさんが上京じょうきょうして付き添つきそいました。

治おさむさんは、その時ときの様子ようすをはっきりと覚おぼえています。

「学生がくせい運動うんどうが激はげしかった時期じきで、キャンパスの正門せいもんはバリケードによって封鎖ふうさされていたが、弟おとうとは『このようなことが許ゆるされていいのか』と学生がくせいの教育きょういくを受うける権利けんりが奪うばわれている状況じょうきょうに憤いきどおっていた。当時とうじの体験たいけんが弟おとうとの考え方かんがえかたを変かえたのではないか」と話はなしています。

森田もりたは大学だいがくで周まわりの学生がくせい運動うんどうに反発はんぱつするかのように右翼うよく・民族みんぞく派はの運動うんどうにのめり込のめりこむようになり、その後そのご、三島みしまと出会であって「楯たての会かい」に加くわわりました。時ときには、三島みしまよりも過激かげきな考かんがえを主張しゅちょうすることがあったといいます。

中学校ちゅうがっこうの教員きょういんとして組合くみあい活動かつどうをしていた治おさむさんは弟おとうとと思想しそうは異ことなっていましたが、国くにを思おもう気持きもちは同おなじだったはずだと考かんがえています。

「右みぎとか左ひだりとかいう思想しそうの問題もんだいとは関係かんけいない。弟おとうとは日本にっぽん国こくを憂うれえて現状げんじょうを憂うれえて、何なんとか少すこしでもよくしないといけないという気持きもちを持もって行動こうどうに出でたのだと思おもっている」

ただやはり、命いのちを絶たつのではなく生いきて自分じぶんの考かんがえを訴うったえてほしかったと今いまも思おもい続つづけています。

「どうしてそんなに急いそいだのかと。命いのちをかけてまで、どうしてそこまでやったんだと。命いのちを投なげうって訴うったえたということについては、認みとめてやらなければいけないと思おもいながらも、命いのちをどうして捨すてるのかという気持きもちだ。気概きがいを持もっていろいろな難局なんきょくにあたり解決かいけつの道みちを見みいだすべきではなかったのかと思おもっている」

専門せんもん家か「言論げんろんで訴うったえるべき」

三島みしま由紀夫ゆきお文学ぶんがく館かんの館長かんちょうで、近畿きんき大学だいがくの佐藤さとう秀明ひであき教授きょうじゅは、自決じけつした森田もりた必勝ひっしょうについて「若わかくて明あかるくまっすぐな性格せいかくだったので、三島みしまも森田もりたに引ひきつけられていた面めんがあったと思おもう。森田もりたは行動こうどうを起おこすことで日本にっぽんを変かえていきたいという思おもいが非常ひじょうに強つよかったのではないか」と分析ぶんせきしています。

一方いっぽうで、2人にんが自決じけつしたことについては「三島みしまや森田もりたが行動こうどうを起おこしたことは重おもく受け止うけとめるが、命いのちをかけることはあってはならないことで他たのやり方やりかた、つまり言論げんろんで訴うったえるべきだった」と指摘してきしています。

そして「50年ねんたった現代げんだいにおいて、ことばは軽かるくなってしまったが、だからこそ三島みしまや森田もりたが訴うったえた正直しょうじきさと言葉ことばの重おもみは今いまの私わたしたちに通つうじる面めんがあるのではないか」と話はなしています。