地震の発生から1週間となる15日夕方で注意の呼びかけは終わる予定ですが、南海トラフ巨大地震は以前から高い確率で起きるとされているため引き続き注意が必要です。
気象庁によりますと、8月8日午後4時半すぎ、日向灘の深さ31キロを震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宮崎市の宮崎港で50センチの津波を観測するなど、九州から四国の各地に津波が到達しました。
またこの地震で宮崎県日南市で震度6弱の揺れを観測したほか、震度5強を宮崎県と鹿児島県で観測しました。
気象庁は引き続き地震から1週間ほどは最大震度6弱程度の地震に注意するよう呼びかけています。
この地震を受けて気象庁は、南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。
マグニチュード7以上の地震が発生した後、7日以内にマグニチュード8以上の地震が発生する頻度は数百回に1回程度だとしたうえで、必ず巨大地震が発生することを伝えるものではないとしています。
8月8日の地震以降、日向灘や大隅半島東方沖では地震が起きているほか、「深部低周波地震」と呼ばれる小規模な地震活動が紀伊半島に加え伊勢湾でも発生し、付近のひずみ計でも変化が観測されています。
また日向灘や九州南東沖で「浅部超低周波地震」と呼ばれる小規模な地震を観測しているということです。
さらに宮崎県南部を中心に地殻変動が観測されているほか、5日ごろから、熊野灘に設置された観測機器で地殻変動が原因とみられる水圧の変化が観測されたということです。
これらはいずれもふだんから繰り返しみられている現象で、南海トラフ地震の想定震源域では、地殻変動や地震活動にこれまでのところ特段の変化は観測されていないとしています。
巨大地震に備えて防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に対して、地震発生から1週間は地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけています。
具体的には家具を固定したり避難場所や家族の安否確認の方法をチェックしたりするほか、お年寄りや体の不自由な人、小さな子どもがいる家庭や施設では避難に時間がかかることも想定されるとして、必要に応じて自主的な避難も検討するよう呼びかけています。
こうした国による注意の呼びかけは、地震の発生から1週間となる15日午後5時に終わる予定です。
ただ南海トラフ巨大地震は、これまでも、今後30年以内に70%から80%の高い確率で起きるとされているため引き続き注意が必要です。
専門家 “想定震源域では着実にひずみためている”
地殻変動や地震のメカニズムに詳しい京都大学防災研究所の西村卓也教授は、GPSなど衛星による観測データを基に8月8日に日向灘で起きたマグニチュード7.1の地震を受けた大地の動き=地殻変動を分析しました。
地震の翌日から12日にかけては震源に近い宮崎県南部を中心に最大1センチ程度、大地が東側へ動いていて、周辺では地震活動に注意が必要だとする一方、南海トラフの想定震源域では目立った地殻変動は確認されませんでした。
その一方、西村教授は南海トラフ地震の想定震源域では着実にひずみをためていることに注意してほしいとしています。
南海トラフ地震の想定震源域では、四国や紀伊半島などでは年間4センチ前後のひずみがたまり続けているとみられています。
およそ80年前に南海トラフで起きた地震のあとから毎年このペースでひずみがたまっているとすると、すでにマグニチュード8クラスの地震を引き起こすエネルギーがあると指摘しています。
西村教授は「今回の日向灘地震そのものの影響は次第に小さくなるが、南海トラフ全体ではひずみがたまり次の地震への準備が進みつつあるので、近い将来、巨大地震が発生することに変わりはない。地震の具体的な予測は難しく、ほとんどの場合、臨時情報が出ないまま巨大地震が起こる可能性の方が高い。今回見直した地震への備えを今後も続けていってほしい」と話しています。
《各地の対応は》
愛媛 宇和島市
「南海トラフ地震臨時情報」の発表を受け、愛媛県宇和島市にある被災地での炊き出しや生活困窮者の支援を行う団体は、食料などの備蓄品が津波の浸水想定区域に保管されていることから、マンションの5階に移動させるなどして災害時にも確実に備蓄品を届けられるよう対策を進めています。
被災地での炊き出しや生活困窮者の支援を行う愛媛県宇和島市のNPO法人は、米やレトルト食品、マスクなどの備蓄品を保管していますが、保管場所となっている事務所は津波の浸水想定区域にあります。
このため、今回の「臨時情報」の発表を受けて、NPO法人は、災害時にも食料などを確実に届けるため、保管場所を変更することを決めました。
事務所の近くにあるマンションの5階に新たに倉庫を設置したうえで、来週にもこの倉庫に備蓄品を移動させるということです。
NPO法人の松島陽子代表理事は「ふだんから生活に困っている人は災害時にはもっとひっ迫した状態になる。備えが必要と言われても難しい人もいるので、大変なときにも渡せるよう備蓄を進めておきたい」と話していました。
愛媛 新居浜市
南海トラフ地震の臨時情報が出される中、愛媛県内の医療的ケアが必要な子どもの家族の中には、災害時の医療機器の電源確保に不安を募らせている人もいます。
愛媛県新居浜市の田村康至くん(1)は去年5月、保育園の給食のりんごをのどに詰まらせる事故で意識不明となり、人工呼吸器やたんの吸引が欠かせない状態となりました。
両親は、災害時の停電に備えるため市から10万円の補助を受けて非常用電源を購入しましたが、自己負担はおよそ40万円に上りました。
ただ、非常用電源を使ってもすべての医療機器を稼働させられるのは1日ほどに限られ、避難先で電源が確保できるか不安を募らせているということです。
父親の田村敦さんは「避難所は最寄りの体育館ですが、災害時の電源の確保も不安です。個人の備えでは限界があるので行政にサポートしてほしい」と話していました。
医療的ケア児の支援に詳しい愛媛県立医療技術大学の豊田ゆかり特命教授は「医療的ケア児が避難先で生きていくために必要な医療や福祉のサービスを反映した避難計画を作成し、関係者間で共有して実践的な訓練を行うことが大切だ」と話しています。
香川 直島
現代アートの島として外国人観光客にも人気の香川県の直島では、町が外国人向けに作った英語版のハザードマップで避難経路などを確認するよう呼びかけています。
瀬戸内海に浮かぶ直島は、芸術家の草間彌生さんをはじめ著名な芸術家のアート作品が数多く展示され、国内外から年間60万人以上が訪れる人気の観光地です。
直島町では南海トラフ巨大地震が起きた場合、最大で震度6強の揺れと宮浦港で高さ3.1メートルの津波が想定されていることから、7年前に町役場が外国人向けに英語版のハザードマップを作りました。
「南海トラフ地震臨時情報」の発表以降、町には観光客からの問い合わせが数件寄せられているということで、ホームページに掲載しているハザードマップで避難場所や避難経路を確認するよう呼びかけています。
直島町役場総務課の豊田塁さんは「観光施設での案内やハザードマップを参考に、まずは高台に避難してほしい。外国人の方は情報の理解にどうしても時間がかかるので、できるだけ早く伝えられる周知方法を検討していきたい」と話しています。
徳島 牟岐町
徳島県南部の沿岸部にある牟岐町は南海トラフ地震で最大13.4メートルの津波が想定されています。
町は8月8日に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことを受け、翌日までに津波の浸水域にある役場から防災用の備品を災害時の拠点になる小学校に移したほか、公用車を高台に移動させました。
しかし3連休が明け、通常業務への対応も必要なため昼間は公用車の一部を役場に戻し、地震に備えて公用車を使ったら、すぐにガソリンを補充して4分の3の残量を確保し、休日の前は満タンにするなど新たなルールを作ったということです。
一方、臨時情報の発表直後は6人で泊まっていた夜間の警戒態勢も危機管理の責任者1人と当直2人に縮小し地震に備えながら業務を継続する方法を模索しています。
牟岐町の白木健治危機管理監は「通常業務とバランスをとりながらも危機感が必要という難しい状況だが、対応できるようにしたい」と話していました。
高知 土佐清水市
8月8日の臨時情報の発表を受けて、高知県土佐清水市は市内全域に「高齢者等避難」の情報を出すとともに、避難所を開設して避難する人を受け入れています。
沿岸部に住む83歳の女性は日中は自宅で過ごしますが、夜間は津波からの避難がより困難になるとして、自宅で夕食や入浴を済ませたうえで夜に避難所に向かう生活を続けています。
12日は午後9時前に、夏休みで帰省していた娘や3人の孫と一緒に避難所となっている公民館に避難しました。
そして、翌朝7時ごろ、必要なものだけをまとめて自宅に戻り、テレビを見たりお茶を飲んだりして、ふだんどおりの日常生活を送っていました。
女性は「日中は自宅の掃除もしたいし、友人も来るので家を長い間空けたくはありません。とは言うものの、夜に地震が発生したら暗くて避難に時間がかかるのではないかと不安なので、夜だけ避難所で過ごします」と話していました。
大阪市
大阪・天王寺区にある「大阪国際交流センター」では「南海トラフ地震臨時情報」について事前に登録してあった大阪などに暮らす外国人に対してメールを送ったほか、SNSを通じて周知しました。
わかりやすい言葉で伝えることを心がけ「近いうちに大きな地震が起こるかもしれません。地震にそなえて、準備をしておいてください」という内容を、日本語のほか、英語や中国語、韓国語に翻訳して伝えたということです。
これまで、センターでは外国人に向けて災害から身を守るためのポイントをまとめた冊子を8つの言語に翻訳し無料で配布してきましたが、南海トラフ巨大地震への対応を詳しく示したパンフレットは作っていなかったということで、今後、自治体と協力しながらパンフレットの作成など備えを進めたい考えです。
「大阪国際交流センター」の岸俊之事業担当課長は「南海トラフ巨大地震の臨時情報の発表は初めてで翻訳する私たちにもなじみがなかったので、どのように伝えればいいのか迷いもあった。臨時情報についてどう伝えていくのか、自治体などと協力しながらパンフレットの作成も含め対応を更新していきたい」と話していました。
大阪・道頓堀では南海トラフ地震の臨時情報について、外国人観光客から戸惑いの声などが聞かれました。
1週間前にフランスから訪れたという女性は「地震があったことは知っているが、何をすればいいのかは全くわからない。地震の際にどう行動すべきかを説明した英語のパンフレットがホテルを通じて配られたらいいと思う。いま地震が起きても叫ぶしかない」と話していました。
12日、オーストラリアから訪れたという男性は「臨時情報は日本に来る前に調べたので知っている。ただ、空港では地震についての説明はなく情報は更新されていない」と話していました。
1か月前に台湾から訪れたという男性は「強い地震が来るから気を付けないといけないということは知っている。地震が起きた時に避難の情報を多言語で伝えてくれるとうれしい」と話していました。
三重 紀宝町
「南海トラフ地震臨時情報」が出されたことを受け、三重県紀宝町では地震が起きた場合に速やかに避難できるよう、住民が避難場所の周辺で長く伸びた草を刈りました。
三重県の南にあり熊野灘に面する紀宝町では、南海トラフ巨大地震が起きた際、最大およそ11メートルの津波が到達すると想定されています。
臨時情報を受け、沿岸部の鵜殿区では、避難場所になっている防災用の備蓄倉庫に速やかに避難できるよう、住民が周辺の草刈りを行いました。
日ざしが照りつける中、参加者たちは草刈り機を使って長く伸びた草を次々に刈っていました。
防災倉庫にはコンロや水のほか、保存食や衣服なども保管しているということです。
草刈りを行った自主防災会の長田孝会長は「いつ地震が起きてもおかしくないということで緊張感を持っています。犠牲者ゼロを目指して安全に避難してほしい」と話していました。
静岡市
静岡市葵区の静岡県地震防災センターには、南海トラフ地震の臨時情報が発表されたあと、多い日にはふだんの6倍に当たる120人ほどの人が訪れているということです。
14日も、午前中から夏休みの親子連れなどが館内のツアーに参加し、南海トラフ地震の想定震源域やハザードマップの見方などについて説明を受けていました。
また、センターには震度4から震度7までの地震の揺れを疑似体験できるコーナーもあり、担当者が家に帰ったら家具の固定をするよう呼びかけていました。
2人の子どもと訪れた30代の男性は「臨時情報が発表され、防災について学ぼうと親子で訪れました。帰ってから家族で防災について考えたいです」と話していました。
小学4年生の女の子は「地震について勉強したいと思い、来ました。帰ったら家具がしっかり固定されているか確認したいです」と話していました。
センターでは、南海トラフ地震臨時情報について説明するパネルを設置し、避難経路や備蓄の確認など、日頃からの備えを再度確認するよう呼びかけています。
静岡県地震防災センターの油井里美所長は「臨時情報の発表のあと、防災意識が高まっていると感じています。備蓄の確認や家族の安否確認の方法など改めて考えてほしい」と話していました。
横浜市
家族連れなどでにぎわう横浜市の海水浴場では、ライフセーバーたちが緊急時の対応を確認しました。
緊急時の対応を確認したのは、臨時情報の対象地域となっている横浜市の「海の公園」の海水浴場です。
14日は、海水浴客が増える前の午前8時ごろから、ライフセーバー15人ほどが集まり、緊急時に、海水浴客を海抜6メートル以上の高台にどういったルートで誘導するか確認しました。
また、聴覚に障害がある人や遊泳中でサイレンが聞こえにくい人に対し、視覚的に警報や注意報が出たことを伝える「津波フラッグ」の使い方も確認していました。
友人の家族とともに訪れた40代の男性は「不安はありますが、せっかくの休みなので来ました。念のため海岸線から離れたところにテントを張っていて、津波が来たらどこに逃げるかも確認しています」と話していました。
「海の公園」の松岡文和園長は「今回、改めてスタッフと動きの確認をして、万全を期しております。南海トラフに限らず地震・津波への対策は引き続き進めていきたいです」と話していました。