昔、ある所に大日の坊(だいにちのぼう)という座頭さまと、いたこの女房と、ちょほ子という娘が、三人で暮らしていました。
ある日、神楽舞(かぐらまい)の格好をした男が「ちょほ子を嫁にくれ」と、家にやってきました。それでちょほ子は、男の住む山奥の村へ、嫁に行く事にしました。
男と結婚したちょほ子は、山の畑で仕事をする男たちのために、お弁当を届けることになりました。その際、嫁ぎ先のお婆さんから「畑へ行くときは、太鼓を叩き鳴らして行くように」と、いつも念を押されていました。
ある時、常に「太鼓を打ち鳴らして歩く」事に疑問を持ったちょほ子は、太鼓を叩かずに畑へ行ってみました。すると、驚いたことに男たちはみんな狐の姿をしていました。ちょほ子は、自分が狐に騙されて嫁に来た事を知り、実家に帰ってこの事を両親に話しました。
両親は、狐たちに報復することを計画し、大きな袋を用意して、狐婿の村人たちを実家に呼び出しました。狐婿たちは「ご馳走が食べられる」と大喜びで、大勢でやってきました。
ちょほ子の家では、狐が好きそうなご馳走やお酒が沢山用意してあり、狐たちはすっかり酔いが回ってきました。やがて、しっぽが飛び出したり顔が狐に戻ったりしたまま、いい気分で宴会を楽しんでいました。
夜も更けた頃、大日の坊が三味線を弾きながら「宴会の最後には、袋に入るのがしきたりだ」と歌いました。すっかり警戒心を解いていた狐たちは、用意してあった大きな袋に、全員入って行きました。
そこへ、待ち構えていた村人たちが、よってたかって槌(つち)で袋だたきして、狐たちを皆殺しにしました。それでも、何とか逃げ出した狐もいたらしく、しばらくするとまたこの周辺に、狐がでるようになったそうです。