「岳父がくふは、初代しょだい吉右衛門きちえもんの芸げいを、芝居しばいを守まもって、全身ぜんしん全霊ぜんれいをかけて芝居しばいに打ち込うちこみました。そして先人せんじんたちの教おしえを守まもって、血ちと汗あせと涙なみだの結晶けっしょうを、さらによいものにして後世こうせいに伝つたえ、現代げんだいの歌舞伎かぶきを進化しんかさせてくれました。その思おもいを胸むねに込こめて、教おしえを守まもって後世こうせいに伝つたえられるように、われわれも研けんさんしていきたいと思おもっています」

「他人たにんにも厳きびしいんですけれど、とにかく自分じぶんにも厳きびしいかたで、本当ほんとうに芝居しばい以外いがいは律りっして生活せいかつをしていました。私わたしがことしの3月つき、明智あけち光秀みつひでを教おしえていただいて、そのあと、千秋楽せんしゅうらくを迎むかえて『よくやってくれた』と。そのときは、ご自分じぶんが倒たおれる2日にち前まえだったので、きっとつらかったと思おもうんですよ。でも、自分じぶんのことより、ひじを骨折こっせつして手術しゅじゅつした私わたしのことを心配しんぱいしてくれて『あと、千秋楽せんしゅうらくまで2日にちだから頑張がんばるぞ』って、強つよいことばをかけてくれました。尊敬そんけいする、とても優やさしい父ちちでした」このとき、大粒おおつぶの涙なみだが菊之助きくのすけさんのほおを伝つたいました。

丑之助うしのすけさんも、吉右衛門きちえもんさんの死しを伝つたえると、菊之助きくのすけさんに抱だきつき、心こころにぽっかりと穴あながあいたような様子ようすだったということです。

そのうえで、吉右衛門きちえもんさんの思おもいを代弁だいべんして、次つぎのように呼よびかけました。

「突然とつぜんに倒たおれてしまったので、ファンの皆みなさんにお礼おれいを申し上もうしあげられないままだったのが、岳父がくふも大変たいへん心残こころのこりだったと思おもいます。この場ばを借かりて、岳父がくふの芝居しばいを愛あいして下くださった皆様みなさま、本当ほんとうにありがとうございました。岳父がくふのこと、中村なかむら吉右衛門きちえもんのことを忘わすれないでください」。

菊之助きくのすけさんは、吉右衛門きちえもんさんの死去しきょについて、その場ばでは伝つたえられず、2日にち後ごに伝つたえたということです。

そして「丑之助うしのすけの誕生たんじょう日びの日ひに“じいたん”は亡なくなったから、毎年まいとし“じいたん”に感謝かんしゃしてお祈おいのりしよう。そして誕生たんじょう日びを迎むかえようねと約束やくそくしました」と話はなしました。

吉右衛門きちえもんさんのひつぎには、家族かぞくで書かいた手紙てがみ、舞台ぶたいの写真しゃしん、そして、丑之助うしのすけさんが描えがいた絵えなどを入いれたということです。