2019年度は全国で5件にとどまっていましたが、2020年度は84件、昨年度は192件と40倍近くになっていて、コロナ禍で一気に増えたことが分かります。
相談を寄せるのは男女ともに30代と40代の割合が高く、目立つのは外国人を名乗る相手から最終的にビットコインなどの暗号資産による投資を持ちかけられるケースです。
ネット上の投資サイトを紹介され、指定の口座に送金したものの途中で出金できなくなり、相手とのメッセージのやり取りも突然、途絶えます。
「国際ロマンス詐欺」とも呼ばれるこの手口、国民生活センターは、使われる投資サイトはほとんど実態がつかめず、被害回復は容易ではないとしています。
実情に詳しいNPO法人の理事長、新川てるえさんは、被害相談が急増している背景について「コロナ禍で出会いの場が減る一方、ネットに出会いを求める人が増えたためではないか」と指摘していて、トラブルに巻き込まれないよう注意を呼びかけています。
去年の夏、ある男性とマッチングアプリを通じて知り合いました。 失恋、そして1人で子を育てることへの不安から、新たな出会いを期待していました。 韓国人と名乗ったその男性のプロフィール写真が魅力的だったと振り返る女性。 マッチングアプリとは別のSNSの連絡先を交換し、メッセージのやり取りが始まりました。
男性は同時に「昼は会社に勤め、夜は投資で稼いでいる」としたうえで、「きょうの取り引きで数十万円もうかった」などと、投資の魅力を女性に伝えるようになったと言います。
男性が勧めてきたのは暗号資産を使った投資でした。 あるサイトを紹介され「ここで自分の指示どおりに暗号資産を売買すれば、短期間で年収1年分が稼げる」と促されました。 女性がこのサイトを通じて5万円分の暗号資産を送金したところ、数時間で4000円の利益が出たということです。 「さらに投資すればもっともうかる」。 利益が出て相手を完全に信じるようになった女性は、子どもの教育費や老後の備えとして蓄えていた預金の全額に加え、借金までして600万円分の暗号資産を送金したということです。 女性は「子どもに金銭面で苦労をかけたくないという思いもあり、目がくらんでしまった。今思えば一目ぼれしていて、『言うことを聞いたら好きになってくれるかな』という気持ちも手伝って、完全にマインドコントロールされていた」と当時を振り返りました。 しかし、そのおよそ1か月後。 女性が投資した暗号資産を引き出そうとしたところ、サイトの運営者から税金の名目で200万円余りを請求されます。
男性にメッセージを送り問いただしたところ、突然、連絡が途絶えました。 投資サイトにもアクセスできなくなり、振り込んだ資金が戻ってくることはありませんでした。 「一瞬で財産を失ったうえ、借金だけが残ってしまい、目の前が真っ暗になった」と話す女性。自己破産せざるをえませんでした。 女性は「世の中うまい話はないし、人を信じすぎてはだめだと思いました。相手も憎いし子どもにも申し訳ない気持ちでいっぱいです」と悔しさをにじませました。
被害の実情に詳しいNPO法人「M-STEP」の新川てるえ理事長によりますと、これまでは、中東やアフリカの戦地で活動する軍人や医師を名乗り、数か月から1年ほどかけて恋愛感情を醸成させたうえ「軍を抜けるために活動資金が必要だ」などと言って金をだまし取る手口が一般的でした。 しかし近年は、恋愛関係にあると錯覚させる点は同じですが、現実的なストーリーを設定し、金銭の話を持ち出すまでの時間も短くなっているということです。 暗号資産による投資を持ちかけるのも特徴で、出会いから数週間でトラブルに巻き込まれるケースもあるとしています。 新川さんは「戦場や戦地から愛の言葉をささやく従来のストーリーでは、相手をだますための道具はウソのIDカードくらいしかなく、数週間で信頼関係ができる流れにはならなかった。今はIT化が進み、だますための投資サイトも周到に作れるし、暗号資産の普及もあって、短期間で金を取られてしまう環境が整っている」と話しています。 そのうえで「コロナ禍で在宅時間が多くなったことに加え、経済的な不安もあって、寂しさを埋めるだけでなくお金も増やしたいと思う人が増加していることも、被害が相次ぐ背景にあるのではないか」と指摘しています。
NHKは情報セキュリティー会社「トレンドマイクロ」の協力を得て、8つのサイトの分析を試みました。 いずれも一見、暗号資産の売買ができる正規の取引所を装っています。 しかし、サイトを運営する事業者の名前や所在地といった基本的な情報が記載されていませんでした。 また、外国語から日本語に「機械翻訳」したような不自然な表現が多いことも分かりました。 サイトの開設日が比較的新しいのも特徴で、次々にサイトを開設しながらターゲットを探している可能性があります。 サイトにこうした共通点があれば注意する必要があります。 日本国内の利用者を対象に暗号資産の交換業を営む場合、登録が義務づけられていて、金融庁のウェブサイトで公開されている業者名と一致するか確かめるのも有効な対策です。
情報セキュリティー会社の「ノートンライフロック」は、手口やターゲットになりやすい人の特徴を分析するため、AIが作成した架空の女性の顔写真を使ってSNSのアカウントを立ち上げ、実験を行いました。 その結果、1か月ほどの間に10件余りのアカウントからメッセージが届き、中には最終的に不審な投資サイトに誘導されたケースがあったということです。 相手の特徴として、自分を裕福そうに見せる「海外で仕事をしている」などと言って実際に会うことは避ける、知り合ってから間を置かずに愛情表現を始める、途中から金銭を要求したり送金方法を指定したりする、などの共通点がありました。 また、ターゲットになりやすいのは、プロフィール欄に家族やパートナーの写真の掲載がなく、独身に見える場合や高級品や車など経済的余裕を示す写真を投稿している場合でした。
30代女性 暗号資産を使った投資勧められ
暗号資産の普及やコロナ禍で手口が変化
詐欺に利用される投資サイトの特徴は
被害に遭わないために