アメリカ経済は雇用の拡大や賃金の上昇によって、ことし6月までの3か月間の成長率が年率でプラス4.2%の高い伸びを記録しました。
このためFRBは、現在1.75%から2%の範囲にしている政策金利の引き上げを議論します。
金融市場では追加の利上げを行うという見方でほぼ一致しています。FRBが利上げを決めればことし3回目となります。
ただ好調な景気の先行きにはリスクもあります。トランプ政権が24日に発動した中国からの輸入品に関税を上乗せする制裁措置は、生活に身近な日用品も対象になり、値上がりによって消費に悪影響が及ぶおそれが指摘されています。
またFRBが利上げを進める中、国際的な資金が金利の上がるアメリカに向かい、アルゼンチンやトルコなど新興国が急激な通貨安に見舞われ、経済が混乱しています。
金融市場は、こうしたリスクを踏まえ、FRBが今後の金融政策について、どのような想定を示すかに注目しています。
アメリカの利上げ 新興国では急激な通貨安に
アメリカが利上げを進める中、世界の資金は金利のあがるドルに向かっています。
このため、いま新興国の通貨が売られています。特に巨額の赤字や対外債務など、問題を抱える国の通貨が集中的に売られています。
ことしに入ってから今月20日までの間に各国の通貨がどこまで値下がりしているかを見ると、アルゼンチンの通貨ペソが51.2%、トルコのリラが38.7%下落しています。
またインドのルピーが11.7%、インドネシアのルピアが8.6%、フィリピンのペソが7.6%下落しています。
急激な通貨安は輸入品の値上がりを招くため、物価の高騰で国民生活を直撃します。
新興国の中央銀行は通貨安を食い止めるため、アメリカに追随する形で利上げを迫られています。
アルゼンチンでは中央銀行が4月下旬以降、5度にわたる利上げで政策金利を60%まで引き上げる異例の事態となり、IMF=国際通貨基金に金融支援を要請しています。
トルコも今月13日、中央銀行が主要な政策金利を17.75%から24%へと大幅に引き上げました。
アジアの新興国でも、インドが先月2回連続の利上げで政策金利を6.5%に引き上げたのをはじめ、インドネシアがことしに入って4回利上げし、政策金利を5.5%に、フィリピンが3回の利上げで政策金利を4%に引き上げました。
しかし必ずしも通貨の下落に歯止めはかかっておらず、新興国に混乱が広がれば、世界経済の新たな波乱要因になりかねないという不安も広がっています。
通貨価値”半減”のアルゼンチンでは
アルゼンチンではことしに入って通貨ペソの価値がドルに対して半分以下に落ち込み、不動産取り引きに深刻な影響が出ています。
自国の通貨ペソに対する信頼が下がっているため、アルゼンチンでは、住宅の購入やアパートの保証金にはドルでの支払いが求められるようになっています。
しかしペソが半値に下がってしまったため、ドルに両替するにはこれまでの2倍の負担がのしかかります。
現地の不動産会社は「このままドル高が進んでしまうと、誰も家を買うことができなくなる」と話しています。
ドルを用意できず住む家を追われる人も出てきています。ホテルのフロントマンとして働く54歳のカルロス・チャベスさんです。
月収は日本円でおよそ10万円。アルゼンチンでは平均的な月収ですが、カルロスさんは「仕事は気に入っていますが、今の給料では生活していけません」と嘆いています。
カルロスさんはことし4月から家族と離れ、簡易宿泊所で暮らしています。
以前、暮らしていたアパートの契約を更新する際、ドルで保証金を支払えず、引っ越しせざるを得なくなったのです。
簡易宿泊所なら保証金がいらず、週払いの家賃はペソで支払えます。しかし部屋はとても狭いためひとりで暮らしています。
取材した日に、やむなく親戚の家に身を寄せている娘のイバナさんが宿泊所を訪ねてきました。
「お父さんが恋しい」と涙する娘をみながら、カルロスさんは「この経済状況が続く限り、家族と一緒に暮らすことは望めません」と話していました。
インドネシアでは「国民食」が値上がり
インドネシアでは通貨ルピアがことしに入ってドルに対して9%近く下落しています。
通貨が安くなると輸入品の価格が上昇してしまうため、食卓に影響がおよび始めています。
インドネシアの人たちが特に心配しているのが国民食「テンペ」の値上がり。大豆を発酵させてつくるテンペは街の食堂の定番メニューです。油で揚げたりスープに入れたりと、さまざまな料理に使われます。
日本円で100グラム10円ほどの手ごろな値段で販売され、インドネシアの貧しい人たちにとっては貴重なタンパク源となっています。
ただ、原料の大豆は国産だけではまかなえず、アメリカ産を大量に輸入しています。
ジャカルタにある食品会社は、アメリカ産の大豆を使って1日125キロのテンペを作っていますが、通貨安でアメリカ産の大豆は値上がりしています。
去年の年末に1キロ7000ルピアでしたが、いまは8000ルピア近くに。
このため食品会社はやむをえず1袋113グラム入れていたテンペを85グラムに減らして販売しています。実質的に30%以上の値上げです。
会社では「このまま大豆の値段が上がり続けると利益を出すのが難しくなる。そうなったら工場を一時的に閉鎖しないといけなくなるかもしれません」と話しています。
毎日のようにテンペを食べる消費者からは「テンペはおいしくて安い貴重な食べ物なので値上がりすることに不安を感じています」という声が出ています。
インドネシアの中央銀行は物価の上昇をもたらす通貨安を食い止めようと、ことしすでに4回の利上げをしていますが、通貨安に歯止めはかかっていません。
今月26日から金融政策を決める会合を開きますが、国民生活への影響を抑えるために、さらに利上げに踏み切るのではないかと見られています。