不妊治療の当事者を支援するNPO法人「Fine」によりますと、現在の不妊治療は一人一人の体の状態に合わせて行ういわゆる「オーダーメード」で、病院に通う頻度や薬の量、種類などは人によって大きく異なります。
保険適用の拡大に際して設けられる条件によっては、治療の範囲が限定されてしまい、かえって妊娠する確率が低下するのではないかという懸念の声も上がっているということです。
NPO法人の松本亜樹子理事長は「保険適用の拡大は歓迎するが、一人一人の実情に合わせたきめこまやかな治療が継続されるか非常に心配している。保険適用を当事者の望む妊娠・出産に結び付けなければならない」と指摘し、柔軟な対応を求めています。
また、医療機関ごとの妊娠の成功率の開示も進んでいないなど、医療機関を選ぶ判断材料が十分提供されていないことも課題だといいます。中には複数の医療機関を受診することになる女性もいるということです。
松本理事長は「体外受精ができる医療機関は600以上あるが、細かいデータや治療成績などは一律には開示されていない。どこに行ったらいいか選びにくく数百万円も使うケースもある」と話しています。
さらに、治療で何度も医療機関に通うことになるため、治療と仕事を両立しやすい職場環境の整備も欠かせないとして、社会全体で妊娠を望む人を支える必要があると指摘しています。
国の支援制度の利用は伸び悩み
不妊治療に対する関心は年々高まっていて、治療の件数は増加している一方、国による支援制度の利用は伸び悩んでいます。
日本産科婦人科学会によりますと、「体外受精」が行われた件数は、2004年には11万件余りでしたが、年々増加し、2017年には44万件余りと4倍になりました。
不妊治療の「体外受精」によって生まれた子どもの数も、同じ期間に1万8100人余りからおよそ5万6600人に増えています。
2017年では、1年間に生まれた子どもの16人に1人となる計算です。
一方、国による支援制度の利用は伸び悩んでいます。
厚生労働省によりますと、不妊治療の費用を助成する国の支援制度の利用件数は、2015年度の16万件余りをピークに減少が続いていて、2017年度はおよそ14万件となりました。
不妊治療にどれくらいの費用がかかるのかについても、国による調査は1998年を最後に行われていませんでした。
厚生労働省はその実態調査を今年度行っていて、年度内にまとまる調査結果を踏まえて、保険適用の拡大などを検討していくとしていますが、菅総理大臣の方針を受けて検討が加速する可能性があります。
“治療費の総額100万円以上” 全体の半数に
不妊治療にはどれくらいの費用がかかるのか、当事者を支援するNPO法人「Fine」では複数回にわたってアンケート調査を行っています。
このうちおととしの調査では、通院開始からの治療費の総額が100万円以上かかったという回答が全体の半数を超えました。
詳しい内訳では、
▽300万円以上500万円未満が全体の12%、
▽500万円以上も7%いて、
全体のおよそ2割が300万円以上かかったと回答しています。
不妊治療の費用は高額化する傾向にあり、300万円以上かかったという回答の割合は、10年前、2010年の調査に比べて7ポイント増加しています。
働きながら不妊治療 16%が離職
厚生労働省が3年前に行った調査では、働きながら不妊治療を受けた人のうち、仕事と両立できずに離職した人は16%に上っています。
不妊治療と仕事の両立が難しいと感じる理由について複数回答で尋ねたところ、
▽通院回数が多いと答えた人が49%、
▽精神面で負担が大きいと答えた人が48%、
▽仕事の日程調整が難しいという人が36%いました。
一方、同時に行われた企業に対する調査では、不妊治療を受ける従業員に対する支援制度や取り組みがないと答えた企業が全体の69%に上っています。
不妊治療への保険適用 海外では
【フランスの不妊治療】
フランスでは、医師の診断で必要とされれば、人工授精と体外受精にも公的な保険が適用されます。適用されるのは、▽人工授精は6回、▽体外受精は4回まで。対象となる年齢は原則として女性の43歳の誕生日までです。1度妊娠したあとでも、医師が必要と判断すれば、それぞれ再び同じ回数受けることもできます。所得制限はありません。
【ドイツの不妊治療】
ドイツでは人工授精や体外受精などの不妊治療にも保険が適用されます。このうち、▽人工授精は治療の条件にもよりますが最大8回まで、▽体外受精の場合は3回までです。対象となる年齢は、女性は40歳未満で男性は50歳未満。結婚していることが条件で、治療計画を事前に提出することが求められますが所得制限はありません。