初会合には、安倍総理大臣、菅官房長官らのほか、メンバーに起用された、経団連の今井敬名誉会長、慶應義塾の清家篤塾長、東京大学の御厨貴名誉教授など合わせて6人が出席します。
初会合では、座長や座長代理を決めるほか、皇室制度に関するこれまでの政府見解や課題などについて政府側から説明が行われ、今後の議論の進め方などが協議される見通しです。
そして、今後、月に2回程度会合を開き、当面、憲法や歴史、皇室制度などの知見を持つ専門家15人程度から、天皇の国事行為や公的行為などの在り方、負担を軽減する方策として、憲法上定めのある「摂政」の設置や、国事行為の委任に関する考え方について、意見を聴く方針を確認する見通しです。
このほか、専門家からは、退位に関する考え方や、退位できるようにする場合、どの天皇にも適用できる制度とすべきか、それに退位後の天皇の身分や活動の在り方などについても意見を聴くものとみられます。
有識者会議では、課題や問題点について論点を整理し、その内容を国会や国民に示したうえで、世論の動向も見極めながら、来年春ころまでの提言の取りまとめに向けて検討を本格化させることにしています。
また、政府は会議で一定の方向性が出た段階で、衆参両院の議長のもとで、与野党の幹部を交えて意見を交わすことなども検討しています。
生前退位に向けての課題
天皇陛下の生前退位のためには、皇室典範を改正して「生前退位」を制度化することや、天皇陛下に限って特別に法律を制定することなどが考えられます。
「生前退位」を制度化する場合には、年齢や心身の状態に条件を設けるかや、天皇の意思表示が必要かなど、退位の「要件」をどう定めるかが大きな課題になります。また、天皇がどのようにして意思を表し、それをどう確認し、誰が退位を認めるのかなどの「手続き」についても、退位の強制を防ぐという観点から議論の対象になりそうです。
一方、特別に法律を制定する場合でも、退位後の天皇の位置づけなど多くの検討が必要になります。
歴史上、譲位した天皇には「太上天皇」の尊称が贈られ、「上皇」という通称で呼ばれてきましたが、新たに呼称を決めなければなりません。
新しい天皇との関係や、どのように公務に関わるのかも課題になります。
さらに、お住まいの場所や、生活のための予算、それに宮内庁の組織や体制などの検討も必要で、大がかりで精緻な仕組みづくりが求められます。
また、現在の皇室制度では、皇太子さまが天皇陛下に代わって即位されると、皇太子が不在となるため、秋篠宮さまをどのように位置づけるのかも検討の対象となってきそうです。
有識者は
日本近現代史が専門の静岡福祉大学の小田部雄次教授はNHKの取材に対し、「古来、皇室では半分近くの天皇が生前に退位している例があり、近代になって減ってしまったという伝統がある。ご高齢になった時に退位してもいいような道を作ってさしあげるのが、現代社会の新しい伝統だ」と述べました。そのうえで小田部教授は、法整備の在り方について、「特別措置法が『早く陛下をお楽にするという意味で有効だ』ということには反対しない。ただ、特定の1例だけを許すような法律が法治国家としていいのか、弊害を残さないかは不安だ」と述べました。
最高裁判所の元判事で、過去に「皇室典範に関する有識者会議」の座長代理を務めた園部逸夫氏は「天皇の位をお譲りになるというお気持ちを尊重したほうがいい。天皇陛下のご意思になるべく早く沿うための制度を作るということが大事であり、この問題について論争ばかりしていては、かえってご意思に沿わないことになるのではないか」と述べています。そのうえで、「皇室典範の改正は今の天皇だけに限らずその次やその次の代までずっと規定することになり、対応する皇室典範を作るには相当の時間がかかる。特別措置法である特定の天皇について考えるほうが、先の先までいろいろ議論をする必要がないのでよいのではないか」と述べました。
皇室制度や憲法が専門の麗澤大学の八木秀次教授はNHKの取材に対し、「生前退位は、即、次の世代の即位の拒否につながるもので、制度として認めてしまうと、皇室や天皇制度の存立が危うくなる。今の天皇陛下に限って、一代限りの特別措置法を制定しようという見解もあると思うが、特別措置法とはいえ次の世代の前例になる」と述べました。そのうえで、八木教授は「皇室制度をどう維持・存続させるかの視点が必要だ。天皇の公務を整理して減らすなり、ほかの皇族方に肩代わりしていただくといった解決策もあるし、国事行為の臨時代行で十分に対応できると思う」と述べました。
日本近現代史が専門の日本大学の古川隆久教授はNHKの取材に対し、「絶対に反対というわけではないが、生前退位は戦後直後の天皇の責任をめぐる議論などいろいろな政治的な事情で望ましくないということになって、今の法令では想定されていない」と述べました。そのうえで、古川教授は「一般の皆さんが『かわいそうだから早く』という気持ちになるのはわかるが、冷静に考えた上で判断するのが望ましい。例えば、さまざまな公的な行為をほかの皇族の方々が代行されるという形にすれば、全然、法的な措置も必要ではないし、そういう形の対応も選択肢としては十分あり得るだろうと思う」と述べました。
竹下内閣から村山内閣まで7人の総理大臣の内閣で事務の官房副長官を務めた石原信雄氏はNHKの取材に対し、「明治憲法体制以降、生前退位が具体的な日程にのぼったことはなく、私が在職中は全く想定しなかった事態だ。ただ、天皇陛下のご年齢や健康を考えると、何年もかけて議論する問題ではなく、なるべく早く答えを出してほしい」と述べました。そのうえで、石原氏は「生前退位については、専門家の間でかなり意見の隔たりがあるが、事柄の性質上、国民の総意というか、おおかたの国民が納得するところでおさめなければならない。ほかの法案などのように国会で多数決で決める問題ではない」と述べました。
皇室典範の改正を検討した小泉内閣で内閣法制局長官を務めた阪田雅裕氏はNHKの取材に対し、「生前退位を可能にするということであれば、いちばんの課題は、どういう状況で退位するのかという要件の設定だ。一般的、客観的要件として生前退位を法律に書くとすれば、議論を集約するのに時間がかかる一方、特例法であれば、今上天皇の退位をどう考えるかということなので議論は相当集約される」と述べました。そのうえで、阪田氏は「どちらがいいかは私は分からないが、生前退位を一般化することがより適当なのか、あるいは、今上天皇に限ったほうがいいと考えるのか、有識者会議や国民の間で大いに議論されるべきだ」と述べました。
お気持ち表明後の天皇陛下
天皇陛下は、お気持ちを表明したあとも、これまでと変わりなく公務に臨まれてきました。
1週間後の8月15日には、皇后さまとともに、全国戦没者追悼式に臨まれました。お気持ちの表明後、多くの人たちの前に姿を見せたのはこの時が初めてで、天皇陛下は戦後70年の去年に続き「深い反省」という言葉を盛り込んでおことばを述べられました。
軽井沢などでの静養のあと、先月10日から3日間の日程で皇后さまと山形県を訪問し、「全国豊かな海づくり大会」の式典などに出席されました。
先月28日からは岩手県を5日間の日程で訪れ、東日本大震災で大きな被害を受けた大槌町の魚市場の復興状況を視察したり、仮設住宅などで暮らす被災者を励まされたりました。そして、震災のあと被災地で初めて開かれた国体・国民体育大会の開会式に出席されました。
先週には、国賓として来日したベルギーのフィリップ国王夫妻の歓迎行事に臨み、国王夫妻を茨城県に案内するなど、これまでと変わりなく公務に臨まれてきました。
宮内庁は
天皇陛下が表明されたお気持ちについて、宮内庁は「国民の理解が得られており、内閣官房に優先的に対応して頂きたい」として、検討が速やかに進むよう期待する考えを示しています。
宮内庁の風岡前長官は、お気持ち表明の直後に長官として記者会見に臨み、天皇陛下の発言について「憲法上の立場を踏まえ個人としての心情を述べられた」と説明しました。そして、「加齢による体力の衰えで務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと深く案じておられ、改めてご心労の大きさを痛感した」と話し、「お気持ちが広く国民に理解されることを願っている」と述べました。
その後、長官として最後に臨んだ先月の記者会見では、「天皇陛下が率直なお気持ちを述べられたことに対して、多くの国民の理解が得られている」として、「内閣官房に優先的に対応して頂き、できるだけ速やかに検討が進むことを願っている」と話しました。
また、後任の山本長官は「内閣官房と緊密に連携を取りながら、両陛下の活動の様子や皇室制度の運用の状況、歴史についてきっちり整理し、説明をしながら、しっかりと協力していきたい」と話しています。