こうした現状を受け、東京都は先月上旬から、築地市場内にある移転サポート相談室で、業者からの相談に応じる体制を強化していて、この1か月ほどに寄せられた内容を取りまとめました。
それによりますと、相談件数は、水産物の仲卸業者を中心に300近くに上り、このうちおよそ4割が移転延期に伴う負担への補償に関する内容だということです。
市場業者の団体によりますと、業者の多くは、豊洲市場にすでに冷凍庫や水槽を設置し一部を稼働させているほか、新たに従業員を雇っているところもあり、費用負担が日に日に増しているということです。
さらに、築地市場での営業が長期化する中、老朽化した築地の設備の修理や更新も必要な状況となり、当初は想定していなかった負担も発生しています。
このため、補償について「対象の範囲はどうなるのか」とか、「いつごろ補償してくれるのか」といった問い合わせが多いということです。
さらに、繁忙期となる年末の資金繰りを懸念する相談も増えているということで、経営の先行きに不安を持つ業者の実情が浮き彫りになっています。
都では今後、業者へのヒアリングなどを行ったうえで、今月中旬にも設置する有識者による検討会で、補償の範囲や金額などの枠組みを決める方針で、財源をどう確保するのかも含め、補償の行方が当面の焦点となります。
卸業者 老朽化と新施設でかさむコスト
築地市場で最大手の水産物の卸会社は、豊洲市場への移転が見通せなくなった今も、連日買い付けに訪れる多くの仲卸業者でセリ場が活気づいています。
しかし、老朽化した築地市場では、柱が海水で腐食してなくなっている箇所があるなど、安全面に不安があるといいます。
現状のままなんとかしのいで、豊洲市場への移転日を迎えたいと考えていましたが、先行きが不透明な今、新たにコストを負担しなければならない事態となりました。
移転を見据えて対応せずにいた、築地の老朽化した設備への対策として、新たに少なくとも1000万円を支出することを決めたのです。
会社の担当者は「地震で倒れるということになると、人がけがすることも絶対ないとはいえない。安全性を考えればやらざるをえない」と話しています。
さらに、この会社のグループが、豊洲市場に70億円余りを投じて建設した最新の冷凍施設にも、本来なら負担しないはずのコストが生じています。
この冷凍施設では、移転の延期が決まる前から、当初の11月7日の予定日に向けて冷やし込みを続けてきました。マイナス60度から25度にまで下げた22の冷凍室は、電気を止めると結露で断熱材に支障をきたし、施設そのものが使えなくなるおそれがあるため、運転を続けざるをえないのです。
このため営業できない状況にもかかわらず、毎月600万円の電気料金と300万円の借地料を負担しなければならないといいます。
会社では、延期に伴う損害を補償するよう、東京都に対し強く求めたいとしていて、大滝義彦社長は「われわれも経費を最小限に抑えながら、最大限努力しているが、経営問題もあり、都に要求せざるをえない」。と話しています。
仲卸業者 風評にも危機感
築地市場で最大手の水産物の仲卸を営み、100人の従業員を抱える会社の社長の山崎康弘さんは、もともと豊洲への移転に慎重な立場でしたが、移転が決まってからは、従業員を新たに5人採用したほか、さまざまな設備を購入するなど準備を進めてきました。
3億円をかけて豊洲市場での営業権を取得したのをはじめ、すでに1200万円の水槽や400万円の冷蔵庫などを購入し、11月7日の開場を待つだけでした。
盛り土をめぐる問題で移転の先行きが見えなくなった現状に、これまで事実と異なる説明をしてきた東京都に対する憤りが強まったといいます。
山崎さんは「断腸の思いで豊洲への移転を決めたにもかかわらず、このような事態となった。投資した費用は10万20万ではないので、都の責任でいったん全部買い上げるべきだ」と訴えています。
また、山崎さんの会社では、国内の大手スーパーをはじめ、アメリカなど海外の業者とも取引をしていて、豊洲市場の土壌汚染対策についてさまざまな情報が伝わる中、取引先から厳しい声を聞くといいます。
山ざきさんは「『魚は買えなくなるよ』とか、『仕入れできなくなるから』とか、そういう話が正直出ている。今のままでは、築地のブランドが豊洲でも通じるということにはならない。安全・安心な場所で魚を売りたい」と話し、広がる風評にも危機感を募らせています。
場外市場の店にものしかかる負担
築地市場に隣接して400余りの店舗が軒を連ねる「場外市場」でも、豊洲への移転に合わせて投資した業者が見られ、今は負担に耐えながら、築地での営業を続けています。
創業145年の老舗の包丁店は、マグロを扱う築地の店舗が主な取引先で、柄から刃先までの長さが2メートルほどあるマグロの解体用の包丁から、一般の料理包丁まで数多くの商品が並びます。
仲卸業者などから研ぐごとに依頼される包丁は1日に数十本に上り、7日朝も早くから職人が包丁を研いだり、買い物客に商品の説明をしたりするふだんどおりの様子が見られました。
この包丁店では、豊洲市場への移転後も、築地の場外の店舗は残しながら、多くの取引先が豊洲での営業を始めるのに合わせ、豊洲市場内にも新たな店舗を借り受けました。そのための整備費用のほか、新たに購入した包丁を研ぐ機械の購入代金、さらに機械のメンテナンスなどの費用が重くのしかかりますが、今は負担に耐えながら、築地での営業を続けています。
包丁店の小川由香社長は「お得意様の仕事が滞らないようにすることと、お客様への対応がおろそかにならないようにすることがいちばん大事と思います。いろいろ気にすると前に進まないので、きちんとした仕事を日々粛々とこなしていきたいです」と話していました。