男はその場で警察に射殺され、トルコのソイル内相は、機動隊に所属する警察官だと明らかにしました。
現場を撮影した映像では、男は大使を襲ったあと、トルコ語で「アレッポを忘れるな。シリアを忘れるな。この弾圧に加担している者は誰もがつけを払わなければならない」と叫んだほか、アラビア語で「神は偉大なり」と繰り返していました。
内戦が続くシリアでは、アサド政権がロシア軍の空爆支援を受けて、反政府勢力の最大の拠点だった北部の主要都市アレッポのほぼ全域を制圧したばかりでした。
トルコの捜査当局は、こうしたアレッポをめぐる状況が事件の動機となった可能性があると見て調べています。
一方、事件を受けてトルコのエルドアン大統領は、ビデオによる声明で哀悼の意を表し、事件を強く非難しました。そのうえで、「プーチン大統領との電話会談で両国の関係を壊そうとする挑発だという認識で一致した」と述べ、テロとの戦いで協力していくと強調しました。
プーチン大統領「テロとの戦い強化」
ロシアのプーチン大統領は、ラブロフ外相や対外諜報庁の長官などと協議を行いました。
この中で、プーチン大統領は「明らかな犯罪、かつ挑発でありロシアとトルコの関係正常化や双方が前に進めようとしているシリアの和平プロセスの破壊を狙ったものだ」と述べました。
そのうえで、「大使の殺害に対しては、テロとの戦いを強化することで答えなくてはならない。ならず者どもは、これを身をもって感じるだろう」と述べ、内戦が続くシリアでの軍事作戦を強化する考えを示しました。
さらに、プーチン大統領は、ロシアで重大事件を担当する捜査委員会が刑事事件として捜査を開始したと述べたうえで、捜査委員会に対しトルコ当局の捜査に協力するため、特別チームを編成し、アンカラに向かうよう指示したことを明らかにしました。
トルコ外務省 友好に影落とすこと許さない
トルコ外務省は声明を出し、亡くなったカルロフ大使のトルコでの業績をたたえたうえでロシアの国民と政府に哀悼の意を表しました。
そのうえで、今回の事件を卑劣なテロ攻撃だと非難し、「事件が両国の友好に影を落とすことは許さない」として、テロとの戦いでロシアと協力していく立場を強調しました。
米国務省報道官「暗殺を非難する」
アメリカ国務省のカービー報道官は、トルコでロシアの大使が銃撃を受けて死亡したことについて、19日の定例の記者会見で「アメリカはカルロフ大使の暗殺を非難する」と述べ、アメリカとしても事態を看過できないとの立場を強調しました。
そのうえで「この卑劣な行為の捜査に乗り出したロシアとトルコに対して、アメリカは支援する用意がある」と述べて、捜査に協力する姿勢を示すとともに、容疑者についてはさまざまな報道があるものの、まずは捜査を進めることが重要だと指摘しました。
シリア政府も非難
ロシアから軍事支援を受けているシリアの外務省は、国営通信を通じ、「最も強い言葉で卑劣なテロ攻撃を非難する」とする声明を出しました。
そのうえで、声明では「この憎むべき犯罪は、テロと戦うために、あらゆる努力を尽くす必要があることを示している」として、アサド政権が「テロとの戦い」だとして国内で進める軍事作戦の正当性を強調しています。
シリアをめぐるロシアとトルコの立場
シリア情勢をめぐり、ロシアはアサド政権を一方のトルコは反政府勢力をそれぞれ支援して、真っ向から対立してきました。
そして去年11月、シリアで空爆作戦を続けていたロシア軍の軍用機を、トルコ軍が国境付近で撃墜したことで、両国の対立は深刻化しました。
しかし、ロシア政府が経済制裁を科し、トルコが経済的に大きな打撃を受けたこともあり、ことし6月、エルドアン大統領が事実上謝罪して関係の改善が進みました。
シリアのアサド政権に対する両国の立場は隔たったままですが、アサド政権がほぼ全域を制圧したアレッポに取り残された住民の避難を、両国の協力で実現させたほか、20日には、モスクワで、シリア問題の解決に向けてイランを交えた3か国の外相と国防相による会議を予定するなど協力が進んでいました。
一方でトルコ国内の世論は、アサド政権が自国民を弾圧しているとしてシリア難民に同情し、政権に批判的な意見が多くを占めています。