それによりますと、同じ企業や団体で働く正社員と派遣労働者を除く非正規労働者の基本給について、職業経験や能力、業績や成果、勤続年数によって金額が変わることを容認しながらも、不合理な差を認めないとしています。
また、非正規労働者にも昇給や賞与の支払いを原則行うことを前提として、昇給額のうち職業能力の向上に基づいて支払われる部分や、賞与のうち会社の業績などによって支払われる部分については、不合理な差を認めないと明記しています。
一方、時間外や深夜・休日手当、通勤手当や出張旅費、単身赴任手当、慶弔休暇、病気休職などについては、正社員と非正規の間で差を設けることを原則として認めないと打ち出しています。
また、派遣労働者については、派遣元と派遣先双方との関係をそれぞれ考慮する必要があることから、有期雇用やパートの非正規労働者とは区別されていて、派遣先の労働者と職務内容などが同じであれば、派遣元の事業者は基本給や賞与などの賃金、それに福利厚生、教育訓練などの待遇を同じにする必要があるとしています。
政府は、示したガイドラインの案が実際に運用されるよう、今後、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の改正案の取りまとめ作業を進めることにしています。
増え続ける非正規労働者
総務省の調査によりますと、国内の非正規労働者の数は年々増え続け、去年1年間の平均では1980万人に上り、労働者全体の37.5%を占めています。
一方、厚生労働省によりますと、フルタイムで働く人の賃金を比べた場合、去年の平均で正社員は月給32万1100円だったのに対して、非正規労働者は20万5100円と、大きな差があります。
厚生労働省が所管する団体の5年前の調査では、賃金の格差の理由について複数回答で企業に尋ねたところ、「責任の重さが異なる」という答えがおよそ68%と最も多く、次いで「中長期的に役割や期待が異なる」と「正社員には一部質の異なる仕事がある」がいずれも34%、「ほかの事業所への異動がない」という回答も20%に上りました。
同一労働同一賃金「経営の負担になる」
同一労働同一賃金について、非正規の労働者を多く抱える企業では、人件費の大幅な増加につながり、経営の大きな負担になるとして、懸念の声も出ています。
東京都内で7店舗を経営する食品スーパーでは、およそ120人の従業員のうち80人がパートなどの非正規の労働者です。店での接客や商品の陳列など正社員と同じ業務も行いますが、時給は最低932円からで、賃金は正社員の7割程度にとどまっているほか、賞与もありません。
練馬区にある本店で現在、パート労働者に支払われている人件費は1日当たり平均およそ25万円ですが、仮に賃金を正社員と同じ水準まで引き上げると、1日当たりの人件費はさらに7万円余り増えることになります。1日当たりの売り上げが200万円台のこの店舗では、経営が成り立たなくなるおそれがあると言います。
スーパーでは、能力に応じて時給を加算したり、本人が希望する場合は正社員としての採用に切り替えるといった待遇改善策を進めていますが、同一労働同一賃金の導入には根強い懸念があるのが実情です。
食品スーパー「アキダイ」の秋葉弘道社長は「パートもできるかぎり昇給させるなど、必死でやっているが、これ以上人件費が上がったら経営は成り立たない。同じ仕事に見えても正社員は責任が全然違うので、どこかで差をつけないと、おかしなことになる」と話していました。
同一労働同一賃金 ものづくりの現場からも懸念
同一労働同一賃金に関するガイドラインの案について、一部の企業からは人件費の負担が増えるのではないかと懸念する声も上がっています。
東京・墨田区で50年にわたって操業している金属加工会社では、およそ40人の従業員の中に3人のパート社員がいます。時給はおよそ1000円で正社員の7割ほどですが、事務作業のほか製品の梱包、出荷など正社員とほぼ同じ業務を担っています。
正社員は将来にわたって会社に貢献することが見込めるとして、パートとは差をつけているということで、有給休暇の日数や役職手当ての額にも差があります。
この会社では同一労働同一賃金の導入を検討していて、パート社員の20代の女性は「私の部署では正社員もパート社員も仕事の内容にほとんど差はないので、みんな一緒の待遇になり給料が上がるのなら素直にうれしい」と話していました。40代の正社員の女性も「個人的には待遇を同じするのはいいことだと思う。待遇が一緒になっても今と変わらず仕事に取り組みたい」と歓迎していました。
ただ、制度を導入した場合、手当を含めてパート社員1人当たり1日平均でおよそ1万円の人件費が2000円から3000円ほど増える計算です。この会社では取引先からの注文に応じてパート社員を増やすことがあるため、人件費が大きく増加することも考えられるといいます。
浜野製作所の浜野慶一社長(54)は「同一労働同一賃金の考え方は正しいと思うが、人件費が高くなれば日本でものづくりをやめる企業も出てくるかもしれない。政府には施策の説明のほか、現場への影響をきちんと検証、検討してもらいたい」と話していました。
同一労働同一賃金 導入した電鉄会社では
政府の議論に先駆けて同一労働同一賃金を導入した企業の中には、一定の成果が挙がった一方で、賃金や人事の制度設計の難しさに直面しているところもあります。
広島市に本社がある広島電鉄は、7年前の平成21年に契約社員を廃止して、すべての社員を正社員とし、賃金体系を一本化する形で、同一労働同一賃金を実現しました。
かつて契約社員として入社した路面電車の運転士の井上巨猛さん(35)も、制度の導入に伴って正社員となり、給与と賞与が増えました。
正社員になった2年後に結婚して、子どもも2人産まれ、ことしはローンを組んで自宅を全面改築するなど、まとまったお金を使うこともできるようになったといいます。
井上さんは「契約社員のときには気持ちに余裕がなかったが、正社員になって働く意欲が非常に高まった」と話していました。
また妻の幸恵さんも「契約社員のままだと、経済的に2人の子どもを育てるのは難しかったと思うので、本当にありがたい」と話していました。
会社にとっては3億円の人件費の増加となりましたが、社員の働く意欲が高まったことで接客が向上し、乗客からの苦情が減るなどのメリットがあったということです。
一方で、会社は賃金や人事の制度設計で課題に直面しています。
会社では、新たな制度の下、昇給の基準を、それまでの年功序列から、業務の責任に応じた「職責」を軸としたものに変えました。
その結果、社員の中には、「職責」が上がらないため、何年たっても賃金が増えず、人事評価の在り方などに不満を持つ人も出ているといいます。
会社は、より公平で、納得の得られる制度を目指し、模索を続けています。
広島電鉄の椋田昌夫社長は「事故や苦情が減り、職場のぎすぎすしたところがなくなって、一体感が出るメリットがあった。今後は、不満がなるべく少なくなるよう微調整しながら、制度を修正していくことが必要だと思う」と話していました。
専門家「ガイドラインは議論の入り口」
日本総合研究所のチーフエコノミスト、山田久さんは「いきなり理想型の賃金制度にもっていくと、これまでの制度もあって混乱が生じてしまうため、今回は、まずは手をつけやすい部分から入ったという印象だ。あくまで完成形ではなく、議論の入り口だと思う」と話していました。
そのうえで、「日本では産業や職種ごとの労働事情がかなり異なるため、産業や職種ごとに分科会のようなものを設けて継続的に議論し、労使双方が納得できる賃金体系を作るべきだ」と指摘しました。
さらに、山田さんは「賃金格差の是正は、企業にとってコストの増加にはなるが、人手不足が続く中、非正規の労働者の定着率が上がればプラスであり、前向きに考えることが重要だ。また、政府にも、非正規労働者の待遇を改善させた企業に対し積極的に補助を行うような取り組みが求められる」と話していました。