この中で、男性が「私は、北朝鮮のキム・ハンソルです。キム一族の一員です。私の父は、数日前に殺されました。私はいま、母と妹と一緒にいます。状況がよくなることを願っています」と英語で話しています。
途中、自分のパスポートをカメラに向かって見せていますが、この部分は黒く塗りつぶされています。また、誰かに感謝する言葉も述べていますが、感謝している相手の部分は音声が消されています。
この動画が、いつ、どこで、どのように撮影されたかは明らかになっていませんが、韓国政府はNHKの取材に対し、この男性がキム・ジョンナム氏の息子のハンソル氏なのかどうか、確認を進めているとしています。
男性が、キム・ハンソル氏と確認されれば、キム・ジョンナム氏が殺害されたことを、家族が初めて、認めたことになります。
動画掲載した団体「最初で最後の声明」
動画を掲載した脱北者の支援団体を名乗る「チョルリマ民間防衛」はホームページで、キム・ジョンナム氏が殺害された事件に関して、「キム氏の家族が保護を求めてきたため、3人に会って、安全な場所に移動させた。これが、この件に関する最初で最後の声明であり、家族の居場所については公開しない」と説明しています。
そのうえで、今回、人道的な緊急支援を行ってくれた国として、オランダ、中国、アメリカ、それに名前を明かされることを望んでいないもう1か国の、合わせて4か国に対し、感謝の意を示しています。
中でも、韓国と北朝鮮、双方に駐在しているオランダ大使の名前を挙げ、「迅速で強力な対応をしてくれた」とたたえています。
一方で、いくつかの国には支援を断られたとして、遺憾の意を表明しています。
この団体について、詳しいことは分かっていませんが、ホームページには「北朝鮮の人々へ」と題したメッセージが掲載されていて、この中で、「脱出したかったり、情報がほしかったりする方は私たちが守ります。どの国でも行きたい場所へ送り届けます。すでに何人かを助けた私たちはどんな見返りも期待しません」と呼びかけ、連絡先のメールアドレスも載せています。
韓国統一省「もう少し確認必要」
インターネット上に掲載されたキム・ジョンナム氏の息子、ハンソル氏を名乗る男性の動画について、韓国統一省のチョン・ジュンヒ(鄭俊煕)報道官は8日の記者会見で、「キム・ハンソル氏に似ているということは誰でも考えることだが、もう少し確認が必要だ」と述べ、慎重に確認を進めていることを明らかにしました。
また、動画を掲載した、脱北者の支援団体を名乗る「チョルリマ民間防衛」については、「韓国統一省として把握していない団体だ」と述べるにとどめました。
さらにチョン報道官はキム・ハンソル氏の動向に関して、「機密事項のため、私からは言えない」として、確認を避けました。
キム・ハンソル氏の生い立ち
キム・ジョンナム氏の息子のキム・ハンソル氏は、1995年生まれで現在、21歳と見られます。
ピョンヤン(平壌)で生まれ、幼いころにマカオに移り住みました。ハンソル氏は2011年に、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナにあるインターナショナルスクールに留学しました。留学中の2012年には、フィンランドのテレビ局のインタビューに流ちょうな英語で応じ、父親について、「政治に関心がない」と述べました。
また、祖父のキム・ジョンイル(金正日)総書記や、おじのキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長については「会ったことがない」としたうえで、キム委員長が「どのように独裁者になったかは知らない」と述べました。
さらにキム・ハンソル氏は「父は私に『自分の人生を生きなさい』と話していた。飢えに苦しむ人々のことを考え、自分の恵まれた環境に感謝しなさいと教えてくれた」と述べ、将来は人道支援の活動に取り組みたいという考えを示していました。
その後、キム・ハンソル氏は2013年からフランスのエリート校、パリ政治学院で政治学を学びました。イギリスの大衆紙、「メール・オン・サンデー」は先月の紙面で、キム・ハンソル氏が去年9月からイギリスのオックスフォード大学の大学院に進学する予定だったものの、中国の当局者から、「北朝鮮がキム・ジョンナム氏とハンソル氏の2人に対する暗殺を企てている」と警告を受け、進学を諦めたと伝えました。
韓国の情報機関はキム・ハンソル氏について、現在、マカオで家族とともに暮らし、中国当局の保護を受けているという見方を示しましたが、その姿は確認されず、身の安全を懸念する声も出ていました。