選挙では、急増する中東やアフリカなどからの難民や移民の受け入れの是非や、財政緊縮策によって削減された社会保障費をめぐる政策などが争点となっています。
事前の世論調査では、ルッテ首相が率いる与党第1党で中道右派の「自由民主党」が支持率で首位に立っているものの大幅に議席を減らす見通しで、これに対しイスラム教徒の移民の排斥などを掲げる極右政党の「自由党」は議席を倍増させる勢いです。
オランダでは、移民の増加が治安の悪化を招いているという不安や、福祉予算の削減によって社会保障などが切り詰められていることへの不満から、既存の政党への批判が高まり、極右政党への支持が広がっています。
一方で、排他的な政党の台頭はオランダ社会が掲げてきた「寛容の精神」に反するという危機感も根強く、「自由党」にどこまで支持が集まるかが焦点です。
投票は日本時間の15日午後3時半から16日の午前5時まで行われ、即日開票によって16日午前中には大勢が判明する見通しです。
欧州各国に影響も
オランダ議会選挙の結果は、ことし相次いで行われるヨーロッパの主要国の選挙にも、大きな影響を及ぼす可能性があります。
ことし4月から5月にかけて大統領選挙の投票が行われるフランスでは、移民の流入を抑えイギリスに続いてEU=ヨーロッパ連合からの離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約している極右政党「国民戦線」が、世論調査の支持率で首位を保っていて、5月の決選投票に進むのは確実と見られています。
ことし9月に連邦議会選挙が行われるドイツでも、難民の受け入れに反対する新興の右派政党「ドイツのための選択肢」が寛容な難民政策を続けるメルケル首相を批判し、支持を集めています。
またイタリアでも、来年予定されている議会選挙が年内に前倒しされる可能性がでていて、既存の政治を批判しEUや単一通貨ユーロに懐疑的な姿勢を示す新興政党「五つ星運動」がどこまで躍進するかが、注目されています。
ことし1月にはオランダの「自由党」やフランスの「国民戦線」などが合同で大規模な集会を開き、それぞれの国の選挙での躍進に向けて連携をアピールしました。
ヨーロッパでは去年、イギリスが国民投票でEUからの離脱を決め、近く離脱の条件などをめぐる交渉を始める見通しで、EUの求心力が揺らいでいます。
オランダで「自由党」が躍進すれば「反移民」や「反EU」などを掲げる各国の勢力にも追い風になると見られるだけに、選挙の行方は今後のヨーロッパの方向性も左右するものとして、世界の関心を集めています。
選挙の主な争点
これまでの世論調査では、届け出をしている28の政党のうち、ルッテ首相が率いる中道右派の与党第1党の「自由民主党」と、既存の政党を批判しイスラム教徒の移民の排斥などを掲げる極右政党「自由党」が、支持率で首位の座を争ってきました。
選挙の主な争点は、中東やアフリカからの移民や難民にどう対応するかで、自由民主党が難民や移民を受け入れる条件を厳格化する一方で、生活の基盤を築く支援は行うとしているのに対し、自由党はイスラム教が自由な社会の価値観と相いれないとして、難民や移民の受け入れを停止しイスラム教の礼拝所の閉鎖や聖典コーランの発禁などを主張しています。
また、これまでの手厚い福祉政策をめぐって、自由民主党が率いる現在の政権が財政緊縮策の一環として社会保障費の削減を進めてきたのに対し、自由党は弱者の切り捨てだと非難し以前の水準に戻すべきだと主張しています。
さらにEU=ヨーロッパ連合について、自由民主党は輸出が多いオランダにとって単一市場が多くの恩恵をもたらしているとして積極的に関与していく姿勢を示しているのに対し、自由党はオランダから主権を奪い域内の人やモノの移動の自由を定めた原則が移民や難民の流入を招いているとして、イギリスに続き離脱を目指すべきだと主張しています。
オランダ議会選挙の仕組み
オランダの議会は、上院である「第一院」と下院の「第二院」からなる2院制です。
今回選挙が行われるのは下院で、議員定数は150。任期は4年で、議会の解散などがなければ、選挙は4年に1度行われます。
下院は、法律や条約について優先的に審議できるなど、大きな権限を持っています。有権者は、オランダ国籍を持つ18歳以上の国民です。
有権者は「政党」ではなく各党が擁立した「候補者」を1人だけ選んで投票します。
ただ、どの候補者に投票してもその候補者を擁立した政党が得票する仕組みで、議席は、政党の得票数に応じて各党に配分される「比例代表制」がとられています。
議席は、各党が作成した名簿にしたがって上位の候補者から決まっていきますが、たとえ順位が下位であっても、得票が一定の割合を超えた候補者は議席を獲得することができます。
オランダの議会選挙では、政党が議席を獲得するのに必要な最低得票率が定められていないため少数政党が乱立しやすくなっていて、今回は戦後の選挙で最も多い28の政党から1100人余りが立候補しています。
政権発足までの流れ
選挙のあと議会の多数派を中心に新政権を発足させることになりますが、少数政党が乱立しやすく第1党が単独で過半数を獲得することもなかったため、連立政権を組むことが通例となっています。
議会は、首相経験者やベテランの議員などに、どのような連立政権の選択肢があるかを調査するよう依頼し、その結果をもとに各党の間で連立協議が行われます。
連立協議がまとまれば、首相と閣僚が指名され、新政権が発足することになります。しかし、第2次世界大戦後の1946年以降、新政権発足までにかかった期間は、平均で90日で、なかにはおよそ7か月、208日かかったこともあるなど、連立協議が難航することも多く、今回、新政権の発足までにどれほどの時間がかかるかも焦点となっています。
また、連立政権には、必ずしも第1党が参加するわけではなく、戦後3回、第1党が政権に加わらず野党となったことがあります。
今回の選挙で極右の「自由党」が仮に第1党になっても、ほかの政党が連立の可能性を否定しているため、連立与党となる可能性は低いと見られています。