リニア中央新幹線は静岡県内の南アルプスの地下でトンネル工事が計画されていますが、大井川流域の水資源や生態系への影響を懸念する静岡県がJR東海の着工を認めず、2027年の開業が難しくなっています。
そうした中、大井川流域の茶農家など106人が30日、JR東海に対して静岡県内での工事の差し止めを求める訴えを静岡地方裁判所に起こします。
茶農家らは、「工事によって水の量が減るなどの影響が出かねない。そうなれば生活を根底から脅かす非常事態だ」などと訴えています。
原告の1人で茶農家の柴本俊史さんは「大井川の水は生活に欠かせないもので工事によって南アルプスに穴が開くのは心が痛い。訴えに参加し、嫌だと意思表示したい」と話しています。
リニア中央新幹線をめぐっては、JR東海や国に対して工事の差し止めや認可の取り消しを求める裁判がこれまでにも山梨や東京で起こされています。
JR東海「地域の懸念を払拭(ふっしょく)していきたい」
大井川の流量への影響について、JR東海は、トンネル工事によって水がトンネルに流れ出し、特に対策をしなければ、河川の流量が最大で毎秒2トン減るという試算を示したうえで、流れ出た水はポンプで吸い上げて全量を大井川に戻すとしています。
また、静岡県が懸念を示している地下水への影響について、JR東海は、今月27日に開かれた国の専門家会議の中で、トンネル工事を行っても地下水の水位の低下は上流域にとどまり、中下流域の地下水の水源は上流域の地下水ではないため、「トンネル工事で出た湧水を川に戻せば、影響は極めて小さい」と説明しています。
JR東海の金子慎社長は、28日開いた中間決算の記者会見で、「地域の人たちの懸念を解消していくことは大事だ。関心事項としていちばん大きいのは水がちゃんと使えるのかということであり、懸念に対し、必要なことは確認をし、説明をしたい」と述べ、流域の市や町に丁寧に説明しながら、地域の懸念を払拭していきたいという考えを強調しました。
水をめぐる経緯
リニア中央新幹線は品川と名古屋の間で2027年の開業を目指していますが、静岡県内の8.9キロの工区は着工できておらず、計画どおりの開業は難しい情勢になっています。
静岡県はトンネル工事が行われる南アルプスを源流とする一級河川、大井川への影響を懸念し、着工を認めていません。
大井川の流域では、およそ62万人の生活用水として利用されています。
また、静岡県は全国1位の茶の生産量ですが、そのおよそ5割を支える茶畑が大井川流域に集中しています。
JR東海は、トンネル工事によって水がトンネルに流れ出し、特に対策をしなければ、河川の流量が最大で毎秒2トン減ると試算していて、流れ出た水はポンプで吸い上げて全量を大井川に戻すという方針を示しています。
これに対し、静岡県は全量を戻すことができない工事の期間があり、水が県外に流出するおそれがあるほか、中下流域の地下水の量や水質への影響が懸念されるなどと反論し、協議はこう着状態となりました。
事態の打開に向け、ことし4月、国土交通省が主導する形で専門家会議が設置されましたが、現在も工事の水資源への影響などをめぐって議論が続いています。