竹田球団社長は、大谷選手と10日東京都内でおよそ30分間面談し、本人から「来シーズンから大リーグに活躍の場を移したい、入団前からの夢を実現したい」という申し出があったことを明らかにしました。
これを受け、球団としてポスティングシステムを利用した移籍を認めることを決めたと説明しました。
ポスティングシステムをめぐっては大リーグ機構とNPB=日本野球機構の間で見直しの協議が進められてきましたが、今後1年間は現行の制度を継続することで大筋合意しているということで、日本ハムは正式に決まったあと申請の手続きを進めることにしています。
また球団によりますと、大谷選手は11日、東京・内幸町の日本記者クラブで会見を開き、このオフでの大リーグ移籍を決断した理由などを明らかにするということです。
栗山監督は「日本ハムでプレーした5年間、本人がいちばん頑張って結果を出したことに感謝している。とにかく世界一の選手になることを信じている」とエールを送っていました。
二刀流で大活躍
大谷翔平選手はプロ5年目の23歳。身長1メートル93センチ、体重97キロで、投手と野手の「二刀流」でプレーする右投げ左打ちの選手です。岩手県の花巻東高校の時に投手として、球速160キロ、打者として、高校通算56本のホームランをマークして注目され、平成24年のドラフト会議の直前には大リーグ挑戦の意向を表明しました。
しかし、ドラフト1位で指名した日本ハムから、大リーグでプレーするという大谷選手の夢を後押しし、投手と野手の「二刀流」で育成するという異例の提案を受け、入団を決意しました。
日本ハムでは、1年目から「二刀流」でプレーし、2年目には、投手として防御率リーグ3位の2.61、チームトップの11勝を挙げ、球速では当時のプロ野球最速に並ぶ162キロをマークしました。
野手としては、主に指名打者として出場し、打率2割7分4厘をマークし、ホームラン10本を打ち、プロ野球史上初めて同じシーズンに二桁の勝利とホームランを達成しました。
3年目はバッターとしては打率2割2厘、ホームラン5本でしたが、投手としては先発投手陣の柱として22試合に登板し、15勝5敗、防御率2.24の成績を残し、「最多勝」、「最優秀防御率」、「勝率第1位」の3つのタイトルを獲得しました。
4年目には、投手として10勝、防御率1.86、プロ野球最速の165キロをマークしました。打者としては自己最多のホームラン22本を打ち、史上初めて投手と指名打者の2つの部門でベストナインに選ばれました。
そして、5年目のシーズンを前に大谷選手が希望すれば、ポスティングシステムを使った大リーグ挑戦を認めることを球団から伝えられていました。
昔からの夢 移籍決断の背景
プロ野球・日本ハムの大谷翔平投手が、大リーグ移籍を決断した背景には、入団前から憧れてきた世界で、みずからの力を投打にわたって発揮したいという強い思いがあります。
大谷投手は、岩手県の花巻東高校3年生の時に、プロ野球のドラフト会議を前に大リーグ挑戦の意向を表明し、日本ハムに入団したあとも「大リーグへの夢は変わっていない」と述べ、憧れてきた世界でみずからの力を投打にわたって発揮したいという気持ちを持ち続けてきました。
プロ4年目となった昨シーズンのオフに、球団が今シーズンのオフ以降の大リーグ移籍を容認した時にも、「行きたいと思った時に自分の意思を尊重して応援してもらえるのはうれしい」と話していました。
ことしに入ってからは、大リーグ機構と選手会が去年11月に合意した新しい労使協定によって、23歳の大谷投手が移籍する場合は、年俸は制限されると報じられ、当初は移籍時期の判断に影響が出る可能性もあるという見方が出ていました。
それでも、日本ハムの栗山英樹監督は「翔平の夢はお金の問題ではない」という見解を示し、大谷選手も関係者に「意思は変わっていない。できれば早く行きたい」とこのオフに、大リーグに移籍したいという気持ちを示し続けていました。
ことし9月中旬からは、日本の弁護士を通じて大リーグの球団との交渉にあたる代理人を探し始め、今月上旬までに複数の日本選手を抱えるネズ・バレロ氏を代理人に選び、移籍に向けた準備を着々と進めていました。
ポスティングシステムとは
「ポスティングシステム」は、日本のプロ野球の選手がFA=フリーエージェントの権利を得る前に、大リーグに移籍することを可能にした制度です。
この制度を使うには、所属する日本の球団の承認が必要で、まず、日本の球団が、選手を譲り渡すのに伴って、大リーグの球団から受け取る「譲渡金」の金額を設定します。
その後、「譲渡金」の金額が大リーグの全30球団に通知され、これを支払って選手を獲得する意思があるすべての大リーグ球団が、直接、選手と交渉することができます。選手との交渉期間は、大リーグの球団が通知を受けた翌日から30日間です。
この間に、入団で合意に達した大リーグの球団は、譲渡金を日本の球団に支払いますが、交渉期限までに合意に達しなかった場合は、日本の球団に譲渡金や罰金などを支払う必要はなく、選手は次の11月まで再び制度を利用することができません。
日本のプロ野球の選手が、海外も含めて自由に移籍先を探せるFA=フリーエージェントの権利を得るには、9シーズンの1軍出場選手登録が必要ですが、この権利を持たない選手でも、ポスティングシステムを使えば大リーグに移籍することが可能になります。
これまでに、ポスティングシステムを利用して大リーグに移籍した日本選手は、平成12年オフのイチロー選手をはじめ、松坂大輔投手、ダルビッシュ有投手、田中将大投手、そして、おととしのオフの前田健太投手など13人にのぼっています。
大谷 米国でも報道過熱気味
アメリカでは、大谷選手が来シーズン、大リーグの球団に移籍するという前提で、すでにニューヨークやロサンゼルスの新聞が大谷選手に関する特集記事を掲載するなど注目を集めています。
このうち、アメリカの有力紙、ロサンゼルス・タイムズは先月はじめに、3面にわたって「現代のベーブ・ルースと呼ばれる大谷翔平を大リーグは待っている」という見出しをつけた特集記事を掲載しました。このなかでは大谷選手の実績のほかに、大谷選手の生いたちや私生活の様子などを伝えています。
また、野球以外では、何をすることが好きかと質問された際に、「トレーニング」と答えたエピソードを交えて、大谷選手の野球に向き合う姿勢を伝えています。
このほか、ワールドシリーズの第7戦でドジャースの先発を務めたダルビッシュ有投手が、試合前日に行った記者会見でも、アメリカの記者が「大谷選手は大リーグで活躍できると思うか」という質問をして、ダルビッシュ投手から「絶対にいいプレーヤーなので悪い成績を残すとは思えない」というコメントを引き出すなど、大谷選手に関する報道はすでに過熱気味になっています。
外国人獲得に使える契約金に上限
大リーグ機構と大リーグ選手会の新たな労使協定によって、各球団が若い外国人選手の獲得に使うことのできる契約金には上限があり、アメリカのメディアは、大谷選手が契約する場合球団がどの程度の契約金を用意できるかを伝えています。
各球団は、契約金に上限が設けられている中で、ほかの外国人選手の獲得にこの枠内の契約金をすでに使っていて、残された金額が大谷選手の獲得に向けた資金になると見られています。
30球団の中で最も多くの契約金を用意できるとされているのがレンジャーズで、353万ドル余りで、日本円にしておよそ4億円。次いでヤンキースが325万ドルで、およそ3億7000万円と伝えられています。
このほか、収益が多い球団では、レッドソックスが46万ドル余りで日本円にして5200万円余り、ドジャースとカブスは30万ドルでおよそ3400万円とされています。
一方で、アメリカのメディアは、大谷選手は契約金が多いかどうかで球団を選ぶ可能性は低いと見ていて、大谷選手がどのチームへの加入を希望しているかに関心が集まっています。
大リーグ球団は二刀流容認
プロ野球で投打の二刀流で活躍してきた大谷選手について、大リーグでも同じようにプレーすることができるという考えを示す球団が多くなっています。
このうち、ドジャースの球団幹部のフリードマン編成本部長は、今月7日の記者会見で、大谷選手の大リーグへの移籍の動きを「注意深く見守っている」と述べたうえで、投打の二刀流でプレーすることについて、「1つのポジションでプレーするよりはけがのリスクがあると思うが、両方をできる才能を持っていれば、可能であると考えている。想像力を働かせて、体の回復に当てる日を設けるなど、スケジュールの調整が必要になるが、私たちは絶対にできると思っている」と話しました。
そのうえで、「そうした才能を持ち合わせた選手と契約ができれば、投打でプレーするための環境を作ることも楽しみになる」と述べて、大谷選手の獲得に動くことを示唆しました。
このほか、今シーズンまでヤンキースを率いていたジラルディ元監督が大谷選手が二刀流でプレーすることは可能であると発言するなど、大リーグでは肯定的な意見が多くなっています。
専門家「大リーグでも十分数字を残す」
大リーグの取材経験が豊富なNHKプロ野球解説の小早川毅彦さんは、バッターとしての大谷翔平選手について「大リーグでも十分数字を残して成績を挙げられると考えている。桁外れのパワー、飛距離、スイングスピードの速さから生み出される打球の速さを見ても、どの部門でもタイトル争いをできるくらいの数字を残すのではないかと思う」と話しています。
一方で、「大リーグのピッチャーのボールは結構重たいので、今のスタイルで大谷選手がボールを捉えると大谷選手のパワーでも打ち返すのは大変なのではないか。もう少し打つポイントを前にしないと苦労するのではないかと感じている」とも話しています。
また、NHK大リーグ解説の小宮山悟さんは「大リーグにも球の速いピッチャーはいっぱいいますが、コンスタントにその速さを維持して100球を超えるまで投げられるピッチャーというのは、世界中を見渡しても僕の知りうるかぎり彼しかいない。それを考えると本当に逸材なので、大リーグの30球団すべてがほしいと口にするのは当たり前だと思う。個人的にはすでにトップレベルと言ってもいいんじゃないかと思っている」と話しています。
「本人はうれしそうに『頑張ります』」
栗山英樹監督は「日本ハムでプレーした5年間、本人がいちばん頑張って結果を出したことに感謝している。僕だけでなく球団全員が彼の力を信じていたし、二刀流については一切ぶれることなく、絶対できると思った。とにかく世界一の選手になることを信じている」と話しました。そして、大リーグでどんな選手になってほしいかをたずねられると、「われわれのどぎもを抜くことをやってくれることを信じたい」と話していました。
また、日本ハムの竹田憲宗球団社長は、大谷翔平選手と10日会談したことを明らかにしたうえで、「来シーズンから、大リーグに活躍の場を移したい、日本ハムに入団する前からの夢の実現へ向けて挑戦したいという申し入れがあり、球団としてはポスティングシステムを利用することで承諾する結論に至った」と大谷選手の大リーグ挑戦を球団として認めたことを報告しました。
そのうえで、「夢の実現へ向けて一歩踏み出すことができたら、背中を押して上げるのが球団の方針で、北海道民、プロ野球ファンの皆さんにご理解頂きたい。日本の宝として、今後とも大谷選手を応援してほしい」と話しました。
さらに会談の際の大谷選手の様子について「目が輝いていて、今から世界に向けて羽ばたくぞという意気込みを感じた。本人はうれしそうにしていて、『頑張ります』と言っていた」と明かしていました。