レースをいちばん近ちかくで見みていた日本にっぽん代表だいひょうのコーチ、土ど江こう寛ひろし裕ひろしは東京とうきょうの金メダルきんめだるにつながる手応てごたえを感かんじていた。

（スポーツニュース部ぶ 記者きしゃ 山本やまもと脩おさむ太ふとし）（※文中ぶんちゅう、敬称けいしょう略りゃく）

“37秒びょう43”が意味いみするもの

カタールのドーハで行おこなわれた陸上りくじょうの世界せかい選手権せんしゅけん、男子だんし400メートルリレーの表彰ひょうしょう式しき。銅メダルどうめだるを獲得かくとくし表彰ひょうしょう台だいに上あがった日本にっぽん代表だいひょうは、多田ただ修平しゅうへい、白石しらいし黄き良りょう々、桐生きりゅう祥さち秀しゅう、そしてサニブラウンの４よん人にんだった。

日本にっぽんが決勝けっしょうでマークしたタイムは“37秒びょう43”。

リオデジャネイロオリンピックで銀メダルぎんめだるに輝かがやいた時ときの記録きろく（当時とうじのアジア記録きろく）を０ぜろ秒びょう17更新こうしんするアジア新しん記録きろくで、２に大会たいかい連続れんぞくの銅メダルどうめだるだった。

日本にっぽん代表だいひょうのコーチ、土ど江こう寛ひろし裕ひろしはこう評価ひょうかする。

「37秒びょう４よんってとんでもない記録きろくなんですよ、確たしかに３さん位いではあるんですけど。ちょっと前まえの世界せかい記録きろくと変かわらないと思おもっています。いい形かたちで2020年ねんに向むけて結束けっそく力りょくを高たかめられる結果けっかです」

伏線ふくせんは前日ぜんじつの予選よせん

このメダルには、伏線ふくせんとなったレースがあった。前日ぜんじつの予選よせんだ。

コーチの土ど江こうは、これまで代表だいひょうのリレー経験けいけんがないサニブラウンを初はじめて起用きようしたのだ。日本にっぽん最速さいそく100メートル９きゅう秒びょう97の記録きろくを持もつサニブラウン。

しかしほかの選手せんしゅに比くらべてバトンパスの経験けいけんが浅あさいため、サニブラウンに託たくしたのはアンカーだった。

重要じゅうようなポジションだが、バトンパスという意味いみでは「受うける」動作どうさだけで最もっともリスクが少すくない走はし順じゅんとも言いえる。

３さん走はしは、今いまの代表だいひょうで最もっとも経験けいけん豊富ほうふな桐生きりゅう祥さち秀しゅう。

実際じっさいのレースは、ミスなくバトンがつながり、予選よせんのタイムはこの時点じてんでシーズンベストとなる“37秒びょう78”。全体ぜんたい３さん位いのタイムで決勝けっしょうに進すすんだ。

土ど江こうコーチの危機きき感かん

一見いっけん、順調じゅんちょうに見みえたレース。

しかし、土ど江こうはサニブラウンの動き出うごきだしに「思い切おもいきりのよさが足たりない」と不安ふあんを感かんじていたという。

桐生きりゅうからサニブラウンへのバトンパス。

トップスピードで桐生きりゅうが駆け込かけこんできた一方いっぽうで、サニブラウンはスピードが上あがりきっていなかった。サニブラウンが思い切おもいきり飛び出とびだせなかったがために、２に人にんの距離きょりは詰つまってしまい窮屈きゅうくつに。タイムをロスしていたのだ。

レース後ご、土ど江こうはサニブラウンにリレーで最もっとも大事だいじなことを伝つたえた。

「なんでそっと出でたかというと、結局けっきょくリレーで１いち番ばん邪魔じゃまになるのって恐怖きょうふなんですよ。もしかして自分じぶんが逃にげちゃう（先さきに行き過いきすぎてしまう）かもしれないと。強つよい選手せんしゅであるほどそういう事ことは頭あたまによぎるんですよ。今回こんかいは予選よせんでそれがはっきり見みえたので、私わたしとしてもサニブラウンには、もっと桐生きりゅうを信用しんようしろと。思い切おもいきり出でても、必かならず桐生きりゅうはバトンを渡わたすよという話はなしをしました」

「信頼しんらい」と「自信じしん」

迎むかえた決勝けっしょう。

「しっかり思い切おもいきって出でる。信しんじて出でるのがいちばん大切たいせつ」

サニブラウンは、そう決意けついしてレースに臨のぞんだ。

土ど江えだけでなく、実じつは桐生きりゅうからも「自分じぶんを信しんじて出しゅつろ。必かならずつなぐから」と言いわれていたというサニブラウン。予選よせんとの違ちがいは明あきらかだった。

桐生きりゅうを信しんじ思い切おもいきりよく全力ぜんりょくで飛び出とびだしたサニブラウン。

そこに走はしりこんだ桐生きりゅうがバトンパス。スピードを保たもったままのスムーズなバトンパスで、サニブラウンの加速かそくにつなげた。

フィニッシュラインを駆け抜かけぬけたサニブラウンが目めにしたのは37秒びょう43、アジア新しん記録きろくの文字もじ。

土ど江こうは、会心かいしんのレースに記録きろく以上いじょうの手応てごたえを感かんじていた。

「いくらバトンの練習れんしゅうをしても“信頼しんらい”って生うまれないんですよね。決勝けっしょうという世界せかいのいちばんトップのレベルの所ところで１いち回かい組くんで成功せいこうしたっていう、あの自信じしんとお互おたがいの『こいつなら大丈夫だいじょうぶ』という信頼しんらい関係かんけいがとても大事だいじなんです」

東京とうきょうの金きんへ 日本にっぽんの可能かのう性せい

日本にっぽんの目標もくひょうは、東京とうきょうオリンピックでの金メダルきんめだる。

今回こんかい優勝ゆうしょうしたアメリカがマークした37秒びょう10は、リオデジャネイロオリンピックの優勝ゆうしょうタイムをはるかに超こえるタイムだった。

しかし、今いまの日本にっぽんには今回こんかいのメンバー４よん人にんのほかにも、９きゅう秒びょう台だいをマークした小池こいけ祐ゆう貴たか、10秒びょう00の山縣やまがた亮太りょうた、ケンブリッジ飛鳥ひちょうなど候補こうほ選手せんしゅはたくさんいる。

土ど江こうは史上しじょう最高さいこうレベルの争あらそいを続つづける短たん距陣じんをもってすれば、決けっして不可能ふかのうなタイムではないと考かんがえている。

「37秒びょう10というタイムを出だすには、日本にっぽんのバトンパスを持もってしても１いち人にん選手せんしゅの平均へいきん値ちで９きゅう秒びょう95は切きってこないといけない。でも今いまの日本にっぽん代表だいひょうは今回こんかい走はしったメンバーだけじゃなくて、山縣やまがたもいて、ケンブリッジもいて、飯塚いいづか翔太しょうたは本来ほんらい400メートルリレーのメンバーでもある。そこの中なかでの４よっつの席せきのいす取とりゲームじゃないですけど、そこの競争きょうそうが起おこっていることが日本にっぽんにとっては非常ひじょうにプラスの要素ようそになるのかなと思おもっています」

土ど江えの顔かおからは、オリンピックのプレッシャーよりも、世界せかい最高峰さいこうほうのタイトルにチャレンジできる高揚こうよう感かんのようなものを感かんじずにはいられなかった。