この法律は第2次世界大戦中に日本などからの移民を拘束するために使われたことで知られ、法律の適用は国内で物議を醸しています。
トランプ大統領は15日、ことし1月にテロ組織に指定したベネズエラのギャング組織「トレン・デ・アラグア」がアメリカの領土への侵略や強引な侵入を試みているとして「敵性外国人法」を適用すると発表しました。
アメリカに帰化していない14歳以上のベネズエラ人のギャング組織のメンバーは敵性外国人として、拘束・追放するとしています。
敵性外国人法は1798年につくられた法律で、戦時中に敵国の出身者や市民を裁判所での手続きを経ることなく拘束したり国外退去にしたりすることを可能にします。
この法律が過去に適用されたのは3回のみで、第2次世界大戦中には日本などからの移民を拘束するために使われました。
今回の発表についてアメリカの有力な人権団体「アメリカ自由人権協会」は「日系人の強制収容の正当化など、戦時中のこの法律の適用は当然ながら根強い批判を招いてきた。それを平時に国内法を回避する手段として適用するのは根本的な間違いだ」と批判していて、法律の適用はアメリカ国内で物議を醸しています。
全米日系人博物館が非難の声明
アメリカのロサンゼルスにある日系人の歴史を伝える施設、全米日系人博物館はトランプ大統領がことし1月にテロ組織に指定したベネズエラのギャング組織「トレン・デ・アラグア」に対し敵性外国人法を適用したことを受けて非難する声明を出しました。
声明では「1941年、ルーズベルト大統領はこの法律を利用して日本、ドイツ、イタリア人を拘束し、適正な手続きなしで収容した。さらに、1942年には大統領令を出し、12万5000人を超える日系人の大規模な収容につながった」と説明したうえで「法の執行機関と司法制度は犯罪に対処するための適切な憲法上の手段であり、犯罪の疑いがある者が、出身の国を理由に適正な手続きを拒否されてはならない」と指摘しています。
そして日系人の強制収容などの歴史を挙げ、「私たちはこのようなことが決してほかの人々に繰り返されてはならないとの誓いのもと設立されたが、きょうの出来事は、その約束が脅かされ、歴史は繰り返さないと確信を持って言えなくなったことを思い知らせるものだ」と警鐘を鳴らしています。
アメリカの「敵性外国人法」とは
アメリカの敵性外国人法は敵国の出身者や市民を裁判所での手続きを経ることなく拘束したり国外退去にしたりすることを可能にしますが、この法律を適用できるのは宣戦布告が行われた戦争中や外国による侵略を受けているときに限定されています。
公共政策などを研究するニューヨーク大学のブレナン司法センターによりますと、過去にこの法律が適用されたのは1812年の米英戦争と第1次世界大戦、そして第2次世界大戦の3回です。
このうち真珠湾攻撃の直後の1941年にはルーズベルト大統領がこの法律に基づいて日本、ドイツ、イタリアからの移民を敵性外国人として拘束するよう指示しました。
日系アメリカ人団体によりますと、当時拘束された日系人はおよそ3か月で2000人を超え、多くが移民1世の日系アメリカ人の地域や団体の指導者だったということです。
第2次世界大戦の終わりまでにこの法律に基づき、日本、ドイツ、イタリアからの移民や家族、あわせて3万人以上が収容施設に入れられました。
また第2次世界大戦中はこれに加えておよそ12万人の日系人が別の大統領令によって強制的な立ち退きを命じられ、各地の収容所に送られています。