国連のデュジャリック報道官は、アメリカの通告を受理したことを明らかにしました。そして、ポンペイオ国務長官が4日付けでグテーレス事務総長にあてた書簡を引用したうえで、協定の取り決めに従って来年の11月4日をもって正式にアメリカが離脱すると発表しました。アメリカ国務省は4日、パリ協定からの離脱を国連に正式に通告したと発表しました。
パリ協定は4年前の2015年、パリで開かれた国連の会議「COP21」で採択され、世界の温室効果ガスの排出量を2050年以降に実質的にゼロにすることを目標に掲げ、187の国と地域が締結しています。
トランプ大統領はおととし6月に離脱の方針を表明していましたが、離脱の手続きは協定の規定で発効から3年後の今月4日以降に始められることになっているため今回、正式な離脱の通告に踏み切った形です。
ポンペイオ国務長官は声明で「アメリカは今後も現実的で実用的な対策を続けていく」として、温暖化対策については技術革新や市場原理を重視する方針を強調しました。
トランプ大統領は、協定はアメリカの製造業を制約することになり不公平だと主張していて、来年の大統領選挙も見据え、石炭産業などみずからの支持層にアピールするねらいがあるとみられます。
地球温暖化については、国連が深刻な自然災害につながるおそれがあるなどとして各国に対策の強化を求めていて、最近では若者を中心とした機運の高まりもあって、国際社会全体での取り組みを求める声が強まっています。
こうした中、中国に次ぐ世界第2位の温室効果ガスの排出国、アメリカが離脱を通告したことに反発や懸念が強まることが予想されます。
一方、実際の離脱は協定の規定で通告から1年後の11月4日で、アメリカの大統領選挙の投票日翌日であることから、協定からの離脱は選挙の争点にもなりそうです。
パリ協定は2015年に採択
パリ協定は2015年にパリで開かれた地球温暖化対策をめぐる国連の会議「COP21」で採択された国際的な枠組みです。
187の国と地域が締結し、3年前の2016年11月4日に発効しました。
協定では世界の温室効果ガスの排出量を2050年以降、今世紀後半に実質的にゼロにすることを目標に掲げ、各国が削減目標を設定して対策を進めることを義務づけています。
協定をめぐっては、アメリカのオバマ前政権が温暖化対策に消極的だった中国やインドなどに働きかけて多国間の交渉をリードし、主導的な役割を果たしました。
これに対しオバマ前政権を批判するトランプ大統領は、就任前から協定からの離脱に言及し、就任早々、離脱を表明していました。
協定では発効の3年後から文書で離脱を通告できると定めていて、通告の受領から1年後以降に正式に離脱すると規定しています。
離脱の経緯は
トランプ大統領は、大統領に就任する以前から地球温暖化について「でっち上げだ」と主張して否定的な立場をとり、オバマ前政権の成果とされたパリ協定からの離脱を訴えていました。
大統領就任後は、オバマ前政権の温暖化対策を全面的に見直す大統領令に署名し、前政権が認めなかった原油パイプラインの建設計画の推進を指示するなど、環境保護よりも産業や雇用創出を重視する姿勢を鮮明にしました。
そして就任から4か月後のおととし6月、トランプ大統領はヨーロッパなどからの反対を押し切る形でパリ協定から離脱する方針を決めたと発表しました。
この時、トランプ大統領は「協定は中国が温室効果ガスの排出を増やすことを許している。アメリカにとってとても不公平だ」と主張して不満を示していました。
トランプ大統領の決定に対して国内外から反対の声が上がり、トランプ政権に批判的なカリフォルニア州などの一部の自治体や企業の間では、温室効果ガスの排出削減に独自に取り組む動きも広がっています。
しかしトランプ大統領は方針を変えず、先月、東部ペンシルベニア州での演説で「パリ協定は過度な規制でアメリカの企業を倒産に追い込んでいるのに、ほかの国の環境汚染は許している。外国を豊かにしながらアメリカ国民を罰するようなことはしないのがアメリカ第一主義だ」と主張して、パリ協定から離脱する方針を改めて強調していました。
国務長官「今後も現実的で実用的な対策」
アメリカは協定の規定で、国連がアメリカの通告を受理してから1年後に正式に離脱することになります。
ポンペイオ国務長官は4日、声明を発表して「アメリカは今後も現実的で実用的な対策を続けていく」として、温暖化対策については技術革新や市場原理の重要性を強調するとともに各国と協力して自然災害への備えも進めていくとしています。
一方でトランプ大統領に対抗する野党・民主党の候補はいずれも協定の重要性を訴えていることから、選挙で政権交代が実現すればアメリカが協定に復帰する可能性もあります。
民主党が批判声明「離脱はわが国の恥」
トランプ政権がパリ協定からの離脱を通告したことについて、野党・民主党は、全国委員会のトップを務めるペレス委員長の名前で声明を出し批判しました。
声明では「トランプ大統領は私たちの未来を放棄した。この決定は人類に対する侮辱でありわが国の恥だ。気候変動はわれわれの健康、安全、繁栄、そして地球の未来に対する差し迫った脅威だが、この大統領が気にかけているのは自分のことだけだ」と批判しました。
そのうえで「民主党は気候変動に立ち向かうためには大胆な行動が必要だと考えている。オバマ前大統領がパリ協定に署名したときのように、そして民主党がこれからも取り組んでいくように、トランプ大統領に真のリーダーシップとはどのようなものか示していく」としています。
専門家「米大統領選しだい。直ちに影響でない」
アメリカのトランプ政権が、パリ協定からの離脱を正式に通告したことについて、温暖化対策の国際交渉に詳しい東京大学の高村ゆかり教授は「実際の離脱は大統領選挙のあとになるので、トランプ大統領が再選されるかどうかでアメリカの方針は変わる可能性もある。今回の通告で、すぐに大きな影響が出るわけではない」と指摘します。
そのうえで「アメリカ以外の大きな排出国である中国やインドは、国内の大気汚染などを背景に再生可能エネルギーを増やすなど対策を進めているので世界的な取り組みの後退にはつながらないだろう」と述べ、温暖化対策への世界的な機運が高まっている現状では、影響は限定的だと分析しています。
また「トランプ大統領は石炭産業を後押ししているが、エネルギー政策を担うのは州などの自治体だ。多くの自治体がシェールガスや太陽光発電への転換を進めた結果、温室効果ガスの排出量は、1990年代の水準まで下がっていて、この流れは変わらないだろう」とも述べ、自治体レベルでの危機感の高まりや再生可能エネルギーのコスト減などを背景に、トランプ大統領の意向によらず、アメリカの温暖化対策は進むと分析しています。
そのうえで「アメリカは国内での石炭の使用量が減る一方、輸出を増やしている。とりわけアジア諸国への輸出の増加が顕著だ」と話し、トランプ政権のエネルギー政策によってアジア諸国での温暖化対策が後退する可能性を指摘しています。