オオカミと娘むすめ

ある寒さむい冬ふゆの晩ばん、巡礼姿じゅんれいすがたの母娘ははむすめが村むらに一夜いちやの宿やどを求もとめてやってきました。ところが、この村むらには「よそ者ものは村むらに泊とめるな」という掟おきてがあり、誰だれひとりとして母娘ははむすめを家いえに迎むかえ入いれようとはしませんでした。

最後さいごにやってきた家いえのオババは、母娘ははむすめにおにぎりを渡わたし、「村むらはずれの龍雲寺りゅううんじ（りゅううんじ）ならきっと泊とめてくれるじゃろう」そう言いいました。ところが、寺てらの和尚おしょうは母娘ははむすめに冷つめたく「よそ者ものなど泊とめられない」と言いい捨すてて、さっさと中なかへ引ひっ込こんでしまいました。

母娘ははむすめは凍こおえるような寒さむさの中なか、本堂ほんどうの下したに潜もぐり込こみました。この母娘ははむすめは父親ちちおやに先立さきだたれ、親類しんるいに騙だまされて無一文むいちもんになり、秋田あきたの親戚しんせきを頼たよって巡礼じゅんれいしている途中とちゅうでした。翌朝よくあさ、和尚おしょうが本堂ほんどうの下したを覗のぞき込こむと、哀あわれな母娘ははむすめの姿すがたはどこにもありませんでした。

しばらくして、和尚おしょうは隣となりの村むらの法事ほうじで遅おそくなった帰かえり道みち、狼おおかみに襲おそわれて死しんでしまいました。さらにしばらく経たった頃ころ、村むらのマタギ（猟師りょうし）熊平くまひらが、狼おおかみに襲おそわれました。その時とき、一人ひとりの少女しょうじょが狼おおかみを制せいし、熊平くまひらは命いのちからがら逃にげ帰かえってきました。

またしばらくたったある晩ばん、警鐘けいしょうがなり響ひびき村むらに狼おおかみの群むれが現あらわれました。和尚おしょうを食くい殺ころし、熊平くまひらを襲おそったあの六頭ろくとうの狼おおかみでした。狼おおかみが今いまにも襲おそいかからんとするとき、「五郎ごろう、おやめ！山やまにお帰かえり」と一人ひとりの少女しょうじょが現あられました。しかし、狼おおかみを狙ねらっていた熊平くまひらの弾たまが少女しょうじょを撃うち抜ぬいてしまいました。

少女しょうじょは「この村むらには、私わたしを助たすけてくれた親切しんせつなオババがいるのよ…」そういって息いきを引ひき取とりました。このとき、村人むらびとは初はじめてこの少女しょうじょがあの時ときの巡礼姿じゅんれいすがたの娘むすめだったことを知しったのでした。

狼おおかみは、娘むすめの遺体いたいをひきずり崖がけの上うえに持もっていくと、三日三晩みっかみばん、遠吠とおぼえを繰くり返かえし、そのまま石いしになってしまいました。それからというもの、月夜つきよの晩ばんには崖上がけじょうの石いしから狼おおかみの遠吠とおぼえが聞きこえるようになり、村人むらびとは旅人たびびとに親切しんせつにするようになったということです。