国土交通省は、岡山、広島、愛媛の3つの県で工事に対応できる業者の情報をホームページで公開していますが、NHKが倉敷市に事業所がある37社に取材したところ、半数以上の21社が「被災者からの注文は受けられない」と答えました。
理由として、ほぼすべての社が人手不足をあげています。
被害を受けた住宅が多いことに加えて、全国で相次いだ災害の復旧工事や東京オリンピックに向けた建設工事の影響もあるとみられています。
国土交通省に情報を提供した業界団体の1つは「業者の仕事の機会を奪うことがないよう、一括して『対応可能』と回答している」としています。
一方、国土交通省の担当者は「ホームページには、業界団体からの情報をそのまま掲載していて、詳しい事情は把握していない」と話しています。
注文受けきれず 業者の事情
倉敷市にある三宅隆司さん(37)が経営する建設会社も、人手が足らず、新たな注文を受けるのは難しいといいます。
倉敷市真備町出身の三宅さんの会社には、豪雨の直後から知り合いの紹介などで修復の依頼が殺到しました。
会社には、三宅さんを含めて大工は3人しかいませんが、すでに10件の注文を抱えています。水につかった住宅の修復は、壁をはがしたり、断熱材を交換したりと一般的なリフォームより大規模な工事が必要で、1件を終えるのに半年ほどかかるといいます。
これまでに4件の工事に着手しましたがまだ1件も終わっておらず、10件すべてを終えるには少なくとも2年はかかる見通しです。
できるだけ多くの注文を受けたいと、県内外の知り合いの業者に大工を派遣してもらえないか相談してきましたが、人手不足はどこも同じで、応援の大工は確保できないといいます。
そのため、修復工事の相談があるたびにいつ、工事を始められるかやいつまでに終えられるかは全く見通しが立たないと説明しているということです。
三宅さんは「ふるさとの復興ためにできればすべての注文を受け、すぐに直してあげたいのですがとても応じきれません。この状態が続けば町から住民がいなくなってしまうのではないかと不安を感じます」と話していました。
国交省のHP「対応可能」のはずが…
国土交通省は、豪雨発生直後の去年7月下旬からホームページで被災した住宅の修復工事に対応できる業者の情報を公開しています。
業界団体から月に1回ほどのペースで集めた情報を掲載しているということで、被災者からの注文に対応可能かどうかを「○」、「△」、「×」の3つに分けて表示しています。ところが先月中旬、「対応可能」として「○」印がつけられていた倉敷市内の内装工事業者に取材したところ、「注文には対応できない」と答えました。
担当者は、「修復工事を希望する人があまりにも多い。県外の工務店に大工の応援を頼んでいるが、ほかの業者からも応援の依頼が相次いでいるようで確保できない」と話していました。
また、同じように「対応可能」とされていた倉敷市内の建築業者は「いま受注している工事を終えるだけでもことし秋ごろまでかかかってしまうので、とても新たな注文は受けられない」と答えました。
このほか、「すべての工事を終えるには1年以上かかる」と答えた業者も複数あり、多くの業者が深刻な人手不足を理由に被災者からの注文を断らざるをえない現状が浮き彫りになっています。
さらに、「対応可能」とされながら、注文を受けられないと答えた業者の中には、「国土交通省のホームページで自分の会社が紹介されていることを知らなかった」とか、「橋の修復工事が専門で、そもそも住宅の修復工事は行っていない」というところもありました。
自宅を直せない住民は
業者が見つからず、自宅の修復にめどが立たないことから、ふるさとに戻るのをあきらめることを考え始めた人もいます。
倉敷市真備町で整骨院を営む森永竜之さん(45)は、去年7月の豪雨で職場と自宅を兼ねた建物が2階まで水につかり、全壊と判定されました。
真備町で生まれ育った森永さんは、「また水害に襲われるかもしれない」という思いは消えませんが、多くの患者が待つ職場や、娘が通う小学校のある真備町で暮らし続けたいと、自宅を修復することにしました。
しかし、豪雨から半年がたっても、修復してくれる業者が見つかりません。これまでに10社ほどに相談しましたが、「順番待ちでいつ工事を始められるかわからない」とか、「いま受けている注文だけで手いっぱいで新たな工事はできない」などと断られ続けているといいます。
「自宅を直して、ふるさとに戻りたい」という願いはかなわないまま、真備町から20キロほど離れた岡山県浅口市にある「みなし仮設住宅」で新年を迎えました。
森永さんは、このまま業者が見つからなければ真備町に戻ることを諦め、違う場所に自宅を再建することも考え始めています。
森永さんは、「自宅を修復するのがこんなに難しいとは思っていませんでした。みなし仮設住宅の入居期限は原則2年なので、すでに4分の1がすぎ、あせりを感じています。真備町に戻りたいのに戻れないのはつらいです」と話していました。
人口減少加速のおそれ
倉敷市のまとめによりますと、住民基本台帳に基づく先月末時点での倉敷市真備町の人口は、2万818人となっています。
西日本豪雨直前の去年6月末には2万2797人でしたが、その後、先月まで6か月連続で減少していて、この半年で2000人近く減ったことになります。
自宅を修復したくても業者が見つからないという状況が続けば、ふるさとに戻ることを諦める人が増えて人口の減少が加速するおそれがあり、早急な対策が求められています。