WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は2022年6月8日の会見で危機感を示しました。
サル痘はもともと、アフリカの一部の国で感染が報告されていましたが、2022年5月以降は欧米各国でも広がっています。
ヨーロッパでは5月上旬、イギリスでサル痘の患者が報告されたのが最初で、スペインやポルトガルなどでも相次いで患者が確認されました。
また、カナダやアメリカでも同じ時期に患者が確認されました。
確認された患者は増加し、6月8日時点ではサル痘が定着していた地域以外の28か国で1200人以上の患者が確認されています。
発疹は、典型的には顔面から始まって体じゅうに広がります。 徐々に膨らんで水疱(水ぶくれ)になり、うみが出て、かさぶたとなり、発症から2~4週間で治癒するということです。 多くの場合は、軽症で自然に回復しますが、肺炎や敗血症などの合併症を引き起こすことがあり、年齢が低いほど重症化する可能性があるとされています。
1958年、ポリオワクチン製造のために世界各国から霊長類が集められた施設にいたカニクイザルで最初に発見されたためです。 しかし、通常の状態でこのウイルスを持っている自然宿主はサルではなく、げっ歯類だと考えられています。 人への感染は1970年にコンゴ共和国で最初に確認され、その後、中央アフリカや西アフリカの熱帯雨林地域で散発的に感染が広がりました。 2003年にはアフリカからペットとして輸入された小動物を通じてアメリカにウイルスが持ち込まれ、71人が感染しました。 アフリカでは現在もサル痘の感染が頻繁に起きていて、WHOによりますと2022年1月以降、コンゴ民主共和国やナイジェリアなど8か国で、疑い例を含めた感染者数は1536人に上り、72人が死亡しています。 また、ナイジェリアなど西アフリカと、コンゴ民主共和国など中央アフリカの地域では別々の系統のウイルスが広がっているとされています。 中央アフリカでみられるサル痘の方が重症化しやすく、致死率は数%から10%程度に上ると報告されています。 近年、アフリカ以外で確認されたケースはすべてナイジェリアからの帰国者が発症するパターンで、年間に数人程度、確認されていました。 アフリカ以外では死亡した人は報告されていません。
また、感染した人の発疹や体液、かさぶた、患者が使った寝具や衣類などに接触したり、近い距離で飛まつを浴びたりすることで、誰もが感染する可能性があると指摘されています。
一部の専門家はヨーロッパ各地で開かれた大規模なイベントを介して感染が広がった可能性を示唆していて、今後、夏に向けてこうしたイベントがさらに増えるとみられることから各国は注意を呼びかけています。 一方で、感染経路が特定できない、いわゆる「市中感染」とみられる患者や、女性の患者も確認されているとして、特定のグループの人々の病気としてとらえずに警戒すべきだとしています。 WHOはサル痘にかかった人と密接に接触したことのある人は誰もが感染するリスクがあるとして「病気を理由に不当な扱いを受ける人がいてはならない」としています。 WHOは症状が出ている人は検査を受け、他の人との密接な接触を避けて、医療機関にかかるよう呼びかけています。 今懸念されているのが、サル痘がこれまで見られてこなかったヨーロッパなどに定着することです。 WHOは定着を食い止めるため、患者の追跡、隔離を強化するよう各国に呼びかけていますが、イギリスやスペインなどでは感染の連鎖に歯止めがかかっていません。 ECDCは「可能性は非常に低い」としたうえで、ヒトからヒトの感染が続けば、いずれ動物に感染してヨーロッパに定着する可能性を指摘しています。
日本国内で最後に接種が行われたのは1976年で、そのときに子どもだった今の40代後半以上の世代は接種を受けていて、サル痘に対する免疫がある可能性があります。 天然痘のワクチンは、日本には効果が高く副反応も小さいとされるワクチンがあり、テロ対策の一環として国家備蓄されています。 サル痘に対する薬の開発は進められていますが、今のところ特効薬のような治療はなく、各国では対症療法で対応しています。
カナダなど一部の国では医療従事者や、患者と接触した人などへの接種が始まっています。
イギリスの保健当局が6月2日に公表した報告書では、ワクチンの接種の希望を聞かれた医療従事者の69%が接種を希望したのに対し、患者と接触した人では14%しかワクチンの接種を希望しなかったとされています。 報告書では「根絶という目標を達成するためには、患者の迅速な発見や感染経路の追跡が必要不可欠だ。定期的な検査などワクチン以外の対策についても検討すべきだ」としています。
厚生労働省は5月20日と6月1日に都道府県などに対し事務連絡を出し、疑わしい患者があれば報告し、指定医療機関への入院体制を確保するよう求めています。 またサル痘の検査は水疱に含まれている液体などから新型コロナウイルスと同じようにPCR検査で調べられますが、現時点で確定診断ができるのは国立感染症研究所に限られています。
ここまで急速に患者が増えるとは思わず、WHOも想定していなかったと思います。 感染した1人が4人に感染させるペースで広がっている。 人から人にはそんなにうつらないと言われていたので不思議な状況です。 Q.感染拡大の背景には何があるのでしょうか? 患者と暮らす家族にも感染が広がっていると指摘されています。 発疹や患部に触れたり、患者が着ていたシャツや寝具に触れて、感染が成立しているということだと思います。 Q.感染力は従来よりも強まっているのでしょうか? 従来よりも強い感染力があるとはまだWHOもCDCも考えてないようです。 濃密な接触での感染拡大が起き、患者と同じ家に住む人に広がっているという状況です。 飛まつ感染や空気感染でどんどん広がっていることはないと思います。 また、天然痘では発熱や悪寒などインフルエンザのような症状が最初に出て、数日たって発疹が出てきますが、今回のサル痘では発熱や悪寒がなく元気だったのに突然発疹が出てる患者さんが多く報告されています。 知らない間に感染を広げてしまっていることも考えられます。 患者さんもその患者さんを診た医師もサル痘と気付かず、少しずつ感染が広がり、大きな集会で一気に広がったと指摘する専門家もいます。 Q.ウイルスが感染力が強まるように変異している可能性はあるのでしょうか? あり得ることですが、その仮説に見合う遺伝子の変異は見つかっていません。 またサル痘ウイルスは「ポックスウイルス」の一種で、DNAの配列が長く、そう簡単には変異は入らないという性質もあります。 Q.日本国内に流入するおそれはあるのでしょうか? およそ30か国で1000人を超える感染者が出ているので、当然、潜伏期間中の感染者が日本に入ってきて発症するリスクはあります。 海外からの観光客の受け入れが再開し、感染した人が海外から来て発症するということもありえると思います。
もし国内で感染者が出た場合、濃厚接触者の方を含めて検査が必要になってきます。 いまは国立感染症研究所でしか検査ができませんが、各自治体にある地方衛生研究所で検査ができるよう準備が進められていると思います。 医療機関では海外から入国した人で発熱や発疹が出た人はサル痘を疑うべきだと思います。 Q.ヨーロッパなど海外に行く人が注意する点はありますか? 取引先などとディスカッションしたり、会話したり、食事するぐらいの程度では感染するリスクはほとんどないです。 ただ、あいさつのときにハグしたりキスしたりすることがありますが、そういった接触は避けたほうがいいと思います。 Q.どの程度、警戒すべきなのでしょうか? 今のところはそれほど心配する必要はないんじゃないかなと思いますが、これから先、どうなるかは分からない部分があります。 ただ、現時点で市中感染するおそれはないと考えています。 海外から来る人が増えていく中で流入のリスクは高くなるはずなので、まずは水際での対策、発熱や発疹がある人がいたら空港検疫で見つけて検査につなげていくことが大切です。 その場では分からず、その後、症状が出た人については、医療機関を受診してもらい適切な検査や治療を受けてもらう必要があります。
発疹が特徴的な「サル痘」 重症化するケースも
感染経路は?
天然痘ワクチンに高い効果
欧米ではワクチン接種の動きも
日本では報告なし
今後は?予防法は?