この中でプチデモン州首相は、住民投票では独立賛成が大多数を占めたと報告し、「住民投票の結果、カタルーニャは共和国として独立国家になる権利を得た」と述べて、スペインから独立する正当性を強調しました。
そのうえで「スペインとの問題を解決するには対話が必要だ」とも述べ、住民投票は憲法違反だとしているスペイン政府との交渉も視野に今後数週間、独立を延期すると発表しました。
プチデモン州首相としては、独立の権利を主張しながら独立そのものは延期することで、独立支持派の住民の理解を得る一方、スペイン政府との交渉の余地を残すことを狙ったものと見られます。
しかし、地元のメディアは、スペイン政府の関係者がプチデモン州首相の演説を独立宣言と受け止めたと伝えていて、今後スペイン政府が態度を硬化させ、カタルーニャ州の自治権の停止も含めた強硬措置に乗り出す可能性もあり、双方の溝がさらに深まることが予想されます。
独立に賛成の大勢の市民が集まる
カタルーニャ州の独立に賛成する大勢の市民は10日夜、州都バルセロナにある州議会近くの広場に集まり、「カタルーニャを守ろう」と書かれた横断幕や州の旗などを掲げながら、プチデモン州首相の演説を待ちました。
広場には州議会の様子を伝える地元メディアの生放送が大型のスクリーンで映し出され、プチデモン州首相が議会に到着すると、集まったおよそ3万人の市民からは大きな歓声と拍手が上がりました。
ただ、プチデモン州首相がスペインから独立する正当性を強調したものの、スペイン政府との交渉を視野に今後数週間、独立を延期すると発表したことについては、落胆の声が多く聞かれました。
26歳の市民の女性は「私たちは皆、プチデモン州首相が独立を宣言すると思っていたのでがっかりしました。スペイン政府との交渉は時間を要するだけで、うまくいくとは思えません」と話し、独立を延期するという州首相の発表に納得できない様子でした。
一方で、19歳の市民の女性は「私も独立を望んでいますが、スペイン政府との交渉がなければ、暴力が繰り返されるおそれもあるので、交渉は暴力を避けるためのものだと考えています」と述べ、州首相の姿勢に一定の理解を示していました。
カタルーニャ 独立運動の経緯
スペイン第2の都市バルセロナを中心とするカタルーニャ州は人口750万余り、工業や観光業が盛んで、スペインのGDP=国内総生産のおよそ20%占め、国内最大規模の経済を誇ります。
サッカーのスペイン1部リーグの強豪で世界的な人気チームのバルセロナが拠点を置いていることでも知られています。
独自の言語と文化を持つカタルーニャ州では、長年スペインからの独立に向けた運動が続いてきましたが、2008年にリーマンショックが起きると、独立の機運は一気に高まります。
厳しい経済状況の中、国に納める税金に対してその恩恵を十分に受けていないといった不満などが背景にあったとされています。
3年前には住民に独立の賛否を問う非公式の投票が行われ、およそ220万人が参加して80%余りが独立に賛成しました。
さらにおととしの州議会選挙では、独立を主張する政党が過半数の議席を獲得。
州議会ではことし9月、独立の賛否を問う住民投票を10月1日に実施する法案が可決されました。
これに対してスペインの中央政府は、住民投票は憲法が定める国民の一体性や国の重要事項については国民全体の投票を行う原則に反するとして、一切認めない姿勢を示してきました。
1日行われた投票では、中央政府が投票は違憲だとして警察が一部の投票所の封鎖に踏み切ったことから、住民との衝突に発展し、州政府の発表によりますと、およそ900人がけがをする事態となりました。
しかし、多くの投票所では予定どおり投票が行われ、州政府によりますと、投票資格があるとされた531万人余りのうち43.03%にあたるおよそ229万人が投票し、このうち独立賛成が90.18%に上ったのに対し、独立反対は7.83%にとどまりました。
この結果を受けて州政府は9日にも州議会を開いて開票結果を報告するとしていましたが、中央政府の憲法裁判所がまたもや独立に関する州議会の招集を違憲だとする判断を示したことから、州政府側は議会の招集を1日延期していました。
カタルーニャ州がスペインからの一方的な独立を宣言したことで、スペインの中央政府との対立が決定的となり、国内に混乱が広がるだけでなく、ヨーロッパで同じく国からの分離独立を求める地域を後押しすることになりかねず、ヨーロッパ全体に影響を及ぼすことになりそうです。
スペインの自治州とは
多様な言語と文化を抱えるスペインは、17の自治州と北アフリカの飛び地にある2つの自治都市から成り立っています。
フランコ独裁体制が続いていたおよそ40年間は、中央集権化が進み地域の文化や言語は弾圧されましたが、その後の民主化の過程で制定された1978年の憲法では自治州に広範な自治権が保証されます。
自治州には独自の議会や政府が設けられ、社会福祉や教育、治安などの政策を担っています。
ただ、自治権の範囲は州によって異なり、北部のバスク州とナバーラ州は一定の分担金を国に納める代わりに税の徴収権が与えられているのに対し、カタルーニャ州をはじめほかの15の州は税の徴収権はなく、国からの交付金が財源となっています。
このためカタルーニャ州は、税負担に比べ交付金が十分でないとして、税の徴収権の移譲など財政的な自治権の拡大を求めてきました。
一方、スペインの憲法は、自治州に広範な自治権を保証しながら、中央政府にも強い権限を持たせています。
155条では、自治州が憲法に規定された義務を果たさなかった場合やスペインの利益に背く場合は、中央政府が上院の過半数の承認を得たうえで、必要な措置を講じることができるとしています。
具体的には州政府の機能を停止させたり州議会を解散させたりすることができるとされていますが、過去に実際に適用されたケースはありません。