17日に日本を出発した岸田総理大臣は、日本時間の午前6時前、訪問先のアメリカに到着しました。
岸田総理大臣は、日本時間の19日未明にワシントン郊外にあるキャンプ・デービッド山荘で、バイデン大統領と、韓国のユン・ソンニョル大統領との日米韓3か国の首脳会談に臨みます。
3か国の首脳会談が国際会議以外の場で行われるのは初めてです。
会談では、インド太平洋地域の安全保障情勢をめぐって意見を交わし、北朝鮮や中国の動向を踏まえ、3か国の部隊による共同訓練の実施のほか、北朝鮮のミサイル発射に関する情報の即時共有など、協力の強化を確認する方針です。
また、半導体などのサプライチェーンの強じん化といった経済安全保障分野での連携などでも一致するものとみられます。
そして3か国の関係をより高い次元に引き上げるため、首脳間に加え、外務防衛の閣僚級などの会談を定例化させることで合意する見通しで、会談後に複数の成果文書を発表する方向で調整を進めています。
一方、岸田総理大臣は、それぞれ個別の首脳会談も行い、福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する計画を説明し、理解を求めるものとみられます。
韓国大統領府 “少なくとも2つの文書発表”
韓国大統領府国家安保室のキム・テヒョ(金泰孝)第1次長は、17日の記者会見で、日米韓首脳会談の成果として少なくとも2つの文書が発表されると明らかにしました。
キム次長によりますと、1つは世界の平和と安定のために3か国がさまざまな分野で協力する上での指針となる「キャンプ・デービッド原則」というものです。
もう1つは、3か国による協議体の設置や自衛隊とアメリカ軍、韓国軍との共同演習の実施などを盛り込んだ「キャンプ・デービッド精神」と題した共同声明だということです。
キム次長は「3か国は今回の会談を起点に、北の脅威に焦点をあわせた朝鮮半島域内での協調からインド太平洋地域全般の自由・平和・繁栄の構築に寄与する協力体に進化する」と述べました。
【Q&A】会談のポイントは
Q.日米韓首脳会談、日本が重視することは?
A.安全保障面での協力関係だと思います。北朝鮮による核・ミサイル開発、中国の海洋進出で、日本周辺の安全保障環境は厳しさを増しています。
ある政府関係者は「日米同盟、米韓同盟という強固な軍事同盟を、3か国の間でも機能させていく」と話しています。
アメリカとの連携にとどまらず、韓国との関係が改善傾向にあるこの機をとらえて3か国の協力関係を強固なものとし、相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力、また万が一に備えた対処力を向上させたい考えです。
Q.日米・日韓の個別会談では処理水を海に放出する計画を説明するとみられますが、理解は得られるのでしょうか?
A.アメリカ・韓国、両政府とも、すでに計画をめぐって一定の理解を示していますので、大きな反発が出ることはないと思います。ただ韓国国内では、野党を中心に反対や懸念の声が根強くあります。
日本としては、首脳会談でも丁寧に説明を重ねることで、日本との関係を重視するユン政権に配慮する姿勢を強調したい考えです。
アメリカ側のねらいは
アメリカのバイデン大統領は今回の会談をきっかけに、これまで主に北朝鮮への対応を話し合ってきた3か国の枠組みを一段引き上げ、台頭する中国を念頭にインド太平洋地域の課題に対処するための基盤にしたい考えです。
これまでアメリカは日本や韓国とそれぞれ個別には協議できていたものの、日韓の関係が歴史問題などで冷え込んでいたことを背景に3か国での連携が難しくなっていました。
バイデン政権としては日韓の関係改善の機運を捉え、経済面を含めた安全保障の強化に加え、科学技術など幅広い分野での3か国のさらなる連携を確認し、関係を深めたいねらいです。
ブリンケン国務長官は会談について「3か国間の協力における新たな時代の幕開けとなる」と述べてその意義を強調しています。
また、ホワイトハウスの高官は今回の会談について「現在や未来の3か国の関係を確かなものにする」と述べるとともに、首脳会談を毎年行うことで合意する見通しであることを明らかにしていて、今後、各国の政権がかわっても3か国の関係を後戻りできないものにしたいと強調しています。
バイデン大統領が今回の会談を重視していることは、過去に歴史的な首脳会談が行われてきたキャンプ・デービッド山荘を会場に選んでいることからもうかがえます。
バイデン大統領がこの山荘に外国の首脳を招待するのは初めてで、3か国の関係が特別な関係であるとアピールするねらいがあるものとみられます。
“大統領の努力の集大成となる”
日米韓3か国の首脳会談を前に、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官が17日、NHKのインタビューに応じました。
この中でカービー氏は「バイデン大統領は政権発足初日からインド太平洋地域を重視してきた。今回の会談は、とりわけ日本や韓国との関係を最優先に考える大統領が何年にもわたって積み上げてきた努力の集大成となる」と述べました。
そのうえでカービー氏は「バイデン大統領は3か国が確実に関係を発展させ、協力を深め続けていくことに強い思い入れがある」と述べて、バイデン大統領が各国のリーダーが代わっても関係が後戻りしないよう、3か国の枠組みを定着させたいと考えていると明らかにしました。
またカービー氏は焦点の一つとなっているアメリカが核戦力を含む抑止力で同盟国を守る「拡大抑止」について「アメリカはあらゆる抑止について3か国での連携を進めることに関心がある」と述べて、首脳会談で議論が深まることに期待を示しました。
韓国側のねらいは
韓国のユン・ソンニョル政権は今回の首脳会談について、日米韓3か国がインド太平洋地域での協力を一層発展させる姿勢を打ち出す重要な場と位置づけています。
ユン大統領は就任以来、自由民主主義や人権など価値を共有する国家との連帯を重視する姿勢を示してきました。
中でも日本やアメリカとの首脳とは、ほかの国の首脳よりも多く会談を重ね個人的な信頼関係も深めてきました。
韓国大統領府国家安保室のキム・テヒョ第1次長は17日の記者会見で、前の政権で悪化していた日本との関係を改善させてきたことが会談実現の一因となったという認識を示しました。
ユン政権としては、これまで進めてきた北朝鮮の核・ミサイルという脅威への対応だけでなく、経済安全保障や気候変動、それにウクライナ情勢といった地球規模の課題に対しても3か国の連携を強めたいと考えています。
一方、韓国メディアは、福島第一原発にたまる処理水を薄めて海に放出する計画についてユン大統領が岸田総理大臣にどのように働きかけるかに注目しています。
韓国大統領府の高官は処理水の問題は会談の議題に含まれていないとしていますが、革新系のメディアは「放出への懸念を伝える最後の機会だ」などと伝えています。
日米韓3か国 対話を重ね連携強化
2021年1月にアメリカのバイデン政権が発足して以降、日米韓の3か国は、さまざまなレベルで対話を重ね、連携強化を目指してきました。
このうち、首脳会談はいずれも国際会議にあわせて計3回、行われています。
▽去年6月にはスペインの首都マドリードで
▽11月にはカンボジアの首都プノンペンで
▽ことし5月にはG7サミットが開かれた広島で行われました。
3か国の首脳会談が国際会議の場ではないところで開催されるのは今回が初めてです。
また、アメリカ・ホワイトハウスによりますと、外相レベルでの対話は5回、安全保障に関して首脳を補佐する高官どうしは、3回行ったということです。
このほか、具体的な脅威を想定した3か国の安全保障上の連携も深まっています。自衛隊とアメリカ軍、それに韓国軍はことし2月と4月、それに先月、弾道ミサイルの発射を想定した共同訓練を行いました。
一方、日米韓の3か国の関係はこれまで必ずしも良好だったわけではありません。
韓国の前のムン・ジェイン(文在寅)政権だった2021年11月、日米韓3か国の外務次官級の協議が行われましたが、島根県の竹島に韓国警察庁の長官が上陸したことを受け、予定されていた3か国の共同会見が急きょ中止されるなど日韓関係の冷え込みが3か国関係に影を落としたこともあります。