かざみの名人めいじん

昔むかし、料理りょうりの上手じょうずなカカとケチな亭主ていしゅがいて、贅沢ぜいたくだからと美味うまい料理りょうりを作つくらせなかった。

ある日ひ、亭主ていしゅが遠出とおでし、これ幸さいわいとボタ餅もちを作つくったが、亭主ていしゅは出掛でかけたフリをしてカカの様子ようすを窺うかがっていただけだった。亭主ていしゅが何食なにくわぬ顔かおで「いま帰かえったぞ」と戸口とぐちに入はいると、ボタ餅もちを食くいかけたカカは大慌おおあわて。お櫃ひつにボタ餅もちを隠かくし、素知そしらぬ顔かおで出迎でむかえた。「今日きょうは鼻はな?かざみというもんを習ならってきた。どれ…」と亭主ていしゅは嗅ふぎ始はじめ、お櫃ひつの中なかのぼた餅もちを言いい当あて、カカは驚おどろいた。

早速さっそく、カカは「うちの亭主ていしゅは何なんでも嗅ふぎ当あてる」と村中むらなかに触ふれて回まわり、その話はなしはやがて大阪鴻池おおさかこうのいけの番頭ばんとうの耳みみにも届とどいた。ちょうど名刀めいとうが盗ぬすまれたこともあり、頼たのみにやっきた。亭主ていしゅもさすがに逃にげ出だそうとしたが、なるようになれと腹はらをくくった。

そして、鴻池こうのいけの玄関げんかんをくぐると、下女げじょが亭主ていしゅの足あしを洗あらいに来きた。しかし、何なにか言いいたげに亭主ていしゅの顔かおを何度なんども見みる。亭主ていしゅが尋たずねると、「御見通ごみとおしでしょうが、名刀めいとうを盗ぬすんだのは私わたしです。今いまは台所だいどころの釜かまの中なかに…」と白状はくじょうした。「分わかっとる。お前まえのことは誰だれにも言いわんよ」といい、客間きゃくまに通とおされた亭主ていしゅはかざみのふりをして、下女げじょが言いった隠こくし場所ばしょを告つげた。番頭ばんとうが確認かくにんすると刀かたなはあり、亭主ていしゅはたんまりと褒美ほうびをいただいた。

さてと帰かえる支度したくを始はじめると、お侍さむらがきて、「今いま、京きょうの公方様くぼうさまが病やまいに伏ふくしておる。その原因げんいんをかざんでもらいたい」と言いってきた。国くにに急用きゅうようがと言いっても聞きき入いれない。しぶしぶ京きょうに向むかうが、道中どうちゅうで日ひが暮くれたので、八幡堂はちまんどうに泊とまることになった。

夜中よなかに声こえがして亭主ていしゅが起おきると、八幡様やはたさまが「公方くぼうの病やまいはどうじゃ」と鳥とりに聞きいており、鳥とりは「妾めかけが御殿ごてんの柱はしらの下したにガマ七匹ななひきとヘビ七匹ななひきを生いき埋うめにし呪のろい殺ころそうとしてる」と言いう。これはイイことをと亭主ていしゅは喜よろこんだ。翌日よくじつ、御殿ごてんでかざむふりをした亭主ていしゅは、「柱はしらの下したにこういうものがある。それを掘ほり出だすがよい」と告つげると、柱はしらの下したからガマとヘビの入はいったツボが出でてきた。逃にがしてやると、公方様くぼうさまの容体ようだいも回復かいふくした。

亭主ていしゅはたくさんの褒美ほうびを手てにし、かざみの名人めいじんとして評判ひょうばんを高たかくしたそうだ。