NHKが確認したところ、衝突が始まってからの1か月間で100万回以上見られた偽の動画や画像は少なくとも33あり、専門家は分断をさらに深めているとして情報を安易に拡散しないよう注意を呼びかけています。
NHKはイスラエルとハマスの衝突をめぐって、旧ツイッターのXで広がっている映像や画像のうち、メディアやファクトチェック機関などがフェイクだと指摘しているものがどれくらい広がっているか調べました。
その結果、英語で発信されているもののうちこの1か月間で50万回以上見られたものは少なくとも46あり、100万回以上でも33ありました。
中身について分析すると、半数ほどが過去に起きた出来事の動画や画像を使って、今起きているかのように示すものでした。
たとえば、イスラエルを支持する立場のアカウントが投稿し、100万回以上見られた「パレスチナの女性たちがけがを装うメイクをしている」とする動画は、実際にはガザでの映画撮影に関する6年前のニュース映像を使ったものでした。
また、パレスチナを支持する立場のアカウントが投稿した「イスラエルがガザで子どもを大量虐殺した」と主張する画像は200万回以上見られましたが、10年前にシリアで撮影された写真が使われていました。
このほか生成AIなどで作られたとみられるものもあり、「パレスチナ出身の父を持つアメリカのモデルがイスラエル支持のスピーチをした」とする偽動画はAIにモデルの声を学習させて作ったものとみられ、3000万回以上見られていました。
イスラエルとハマスの衝突に関する偽動画はXだけでなく、若い世代が多く使う動画投稿アプリ「TikTok」でも広がっていて、運営する会社は衝突が始まった先月7日以降、ヘイトスピーチや誤情報、テロ、それにハマスの宣伝に関する92万5000の動画を削除し、2400万もの偽のアカウントを削除したとしています。
インターネットで広がるフェイク情報に詳しい桜美林大学の平和博教授は「フェイクが非常に大きな注目を集めるコンテンツとして流通してしまっている。ネットとリアルがお互いに影響を与え合いながらどんどん悪い方向に行く可能性はある。事実が共有できる土台が存在しないと分断がさらに広がってしまう危険性がある」と警鐘を鳴らしていて、感情を揺さぶられる情報に触れても、いったんスマートフォンを置くなどして安易に拡散しないよう呼びかけています。
専門家「分断がさらに広がってしまう危険性も」
インターネットで広がるフェイク情報に詳しい桜美林大学の平和博教授はイスラエルとハマスの衝突をめぐるSNSの状況について「フェイクが非常に大きな注目を集めるコンテンツとして流通してしまっている。紛争当事者たちによる国際世論に向けた情報戦に、さまざまな発信者によるフェイクが加わって情報空間が汚染されている」と指摘しています。
平教授は、旧ツイッターのXが一定の閲覧数を獲得しているユーザーに広告の収益を分配する仕組みを取り入れたこともあり、今回の衝突に際して収益を目的にフェイク情報を拡散させているとみられるアカウントも確認できたとしています。
そのうえで、過去の動画を今起きていることのように拡散させるケースが多いことについて「すでにある動画や画像を使うのは簡単に発信でき、手間がかからないことが非常に大きい点で、いちばん低コストな手法をとっていると思う」と話しています。
また、現在、ガザではメディアが自由に取材することが難しく、現場の実態がつかみにくいこともフェイク情報が広がりやすい要因の1つだとしたうえで「フェイクの問題はネットとリアルがつながって起きている問題で、お互いに影響を与え合いながらどんどん悪い方向に行く可能性はある。事実が共有できる土台が存在しないと分断がさらに広がってしまう危険性がある」と指摘しました。
こうした状況を踏まえて私たちがどう対応すればよいかについて、平教授は「幼い子どもたちが悲惨な目にあっているような画像や動画など、感情を揺さぶられるような情報を目にする機会は、今後も続いていく。そのようなときはいったんスマートフォンを置いて深呼吸し、冷静な判断を取り戻すことがポイントとなる。今回の事態は非常に複雑なので結論を急がないという姿勢も重要だ。また、SNSを運営するプラットフォーム企業は社会的責任があり、事態を悪化させないためにフェイクなどへの対策に積極的に取り組んでいく必要がある」と強調しました。