5歳から11歳までの子どもへの新型コロナのワクチンの接種は日本では2022年2月から始まりましたが、当時、国の専門家で作るグループは感染が拡大していたオミクロン株への効果のデータなどが十分ではないとして、5歳から11歳の接種を「努力義務」とすることを見送っていました。
「努力義務」というのは、子どもがワクチンを打つように保護者が努めなければならないということです。
ただ、強制されたり罰があったりすることはなく、ワクチンを打つかどうかはあくまで本人と保護者が自分たちで決めることになっています。
赤ちゃんが定期接種として受けるはしかや水ぼうそう、日本脳炎などのワクチンも「努力義務」になっています。
事情は人それぞれ、家族によっても考え方は違います。 大切なのは「ワクチンを打つことで起きるであろうよいこと=利益」と「ワクチンを打つことで起きるかもしれない悪いこと=リスク」を比べて、どちらが大きいか考えてみるということです。
▽自分自身が新型コロナに感染して重症になることを防げること ▽周りの人に感染を広げないこと ▽学校などで安心して過ごすことができる といったことがあります。 ワクチンを打つことで起きるかもしれないリスクは ▽打ったあとに望まない体の反応、副反応が起きることがあります。 (アメリカ・CDC=疾病対策センターの資料より)
ワクチンが効くのは、外から入ってきたウイルスや細菌と戦ってやっつける「免疫」と呼ばれるしくみが働くためです。 くわしく言うと、コロナのワクチンには、ウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」というトゲトゲの部分の設計図となる「メッセンジャーRNA」という物質が入っています。 ワクチンを注射すると、この設計図をもとに体の中で「スパイクたんぱく質」が作られます。 「スパイクたんぱく質」はウイルスの部品です。 そして、これを目印に免疫の仕組みが働いて、ウイルスを攻撃する武器となる「抗体」という物質が作られます。
ワクチンを打っていなくて感染したときには「免疫」は新型コロナウイルスの形に合った「抗体」を作って戦おうとします。 でも、十分な量の「抗体」を作るのが間に合わなかったり、敵が多すぎて期待したほど戦えなかったりします。 このため、せきやだるくなるなどといった症状が出たり、場合によっては重症になったりします。
本当にウイルスがやってきたときに戦えるように準備することで、感染したり症状が出たり重症になったりするのを抑えることができるようになります。
8月29日の時点でワクチンを2回打った子どもはおよそ146万人です。 5歳から11歳の子どもは全国でおよそ741万人いるので19.7%、5人に1人ほどです。 (首相官邸ウェブサイトより)
ワクチンを2回打った5歳から11歳の子どもは、たとえば ▽アメリカでは8月24日の時点で30.5%、10人に3人、 ▽カナダでは8月14日の時点で42.4%、10人に4人となっています。
特に「BA.5」というウイルスが広がってから、新型コロナに感染した人は一気に増えています。
このうち10歳未満の子どもはおよそ15万8000人でおよそ10%。感染した人のうち10人に1人ほどとなっています。 (厚生労働省データより)
オミクロン株が流行する前の2021年12月までは、10歳未満で亡くなった人は0人、10代で亡くなった人は3人でした。 それが、オミクロン株が流行するようになった2022年1月から8月23日までの間では、亡くなった人は10歳未満で15人、10代で11人いました。 (厚生労働省データより) オミクロン株が流行し感染する人の数が多くなるにつれ、もともとの病気など新型コロナに感染すると症状が重くなりやすい「基礎疾患」がなくても、症状が重くなる子どもが相次いでいることを示す調査もあります。 重い症状の患者の治療が専門の医師などで作るグループ(日本集中治療医学会)は、子どもが入院する施設がある全国の医療機関で、2022年3月10日から8月15日までに新型コロナに感染した20歳未満(主に高校生以下)の患者の症状の重さや、もともとの病気があったかなどを調べました。 その結果、呼吸を助ける酸素が必要だったり人工呼吸器という装置を装着したりして「中等症」や「重症」として登録された人は合わせて220人でした。 このうち、症状が重くなりやすいとされるもともとの病気があったのは70人で、全体の3分の1以下でした。 それ以外のおよそ3分の2はそうした病気がない人だったということです。
▽1歳未満が15%、 ▽1歳以上の学校に入る前の子どもが43.6%、 ▽小学生が32.7%、 ▽中学生が4.1%、 ▽高校生以上が4.5%となっていて、 小学生以下の子どもが90%以上を占めていました。
感染の第7波とされる2022年6月26日以降から8月28日までの間に症状が重くなった131人のうち、最も多かったのは ▽脳がむくんで意識に障害が出るなどする「急性脳症」で26%、 ▽肺炎が20.6%、 ▽けいれんが16.8%などとなっていました。 また、およそ60%にあたる79人が集中治療室での治療が必要な状態だったということです。 (日本集中治療医学会の調査より) さらに、熱が出ることも多くなっています。 国立成育医療研究センターなどのグループは、新型コロナに感染して全国の医療機関に入院した18歳未満のおよそ850人を対象に、変異ウイルスのデルタ株が多かった2021年8月から12月までと、オミクロン株が広がった2022年1月から3月までで、症状にどのような違いがあるのか調べました。 その結果、2歳から12歳までで38度以上の発熱があった人はデルタ株の時期には19.6%でしたが、オミクロン株の時期には39.3%に増えていることが分かりました。
2021年にワクチンを作っているアメリカの薬の会社「ファイザー」が5歳から11歳の子どもたちでのワクチンの効果を調べた結果、2回打って7日以上たったあとでは、新型コロナで症状が出るのを防ぐ効果は90.7%でした。
イスラエルの研究者が発表した論文では、オミクロン株が広がっていた2021年11月以降にワクチンを打った5歳から11歳の子どもの感染状況を調べたところ、ワクチンを2回打って7日以上たったあとでは、症状が出るのを防ぐ効果は48%でした。 (イスラエルの保険制度団体「クラリット」などが7月21日に医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表) ワクチンのもう1つの目的は、症状が重くなるのを防ぐことです。 アメリカの研究者が発表した論文では、5歳から11歳の子どもがワクチンを2回打つと、オミクロン株でも重症になるのを防ぐ効果は68%に上ることが分かったとしています。重症になった子どものほとんどはワクチンを打っていなかったとしています。 (アメリカCDCなどが3月30日に医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表) シンガポールで行われた研究では、5歳から11歳の子どもがワクチンを2回打つと、オミクロン株でも入院を防ぐ効果は82.7%に上るということです。ワクチンの接種が1回だと入院を防ぐ効果は42.3%でした。 (シンガポール大学などが7月20日に医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表)
体の「免疫」がウイルスがどのようなものか覚えるときに、熱が出たりワクチンを打った部分が痛くなったりします。 具体的にどのような副反応が出るのでしょうか。 ファイザーが調べたところ、5歳から11歳の子どもでは、 ▽注射を打った部分の痛みが出たのは、 1回目の注射で74%、10人に7人ほどでした。 2回目の注射で71%、こちらも10人に7人ほどでした。 ▽体がだるく感じた人は、 1回目の注射で34%、10人に3人ほど。 2回目の注射で39%、10人に4人くらいでした。 ▽38度以上の熱が出たのは、 1回目の注射で3%、100人に3人ほどでした。 2回目の注射で7%、100人に7人ほどでした。
(ファイザーが医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表した論文より) 日本でも、子どもがワクチンを打ったあとの症状についてデータが集まってきています。 国立病院機構三重病院の研究グループは、三重県内の人を中心にワクチンを打ったあとの体調の変化を調べています。 このうち、5歳から9歳の子どもたちが注射を打った次の日に感じた体調の変化の主なものを紹介します。
体がだるく感じた人は、1回目の注射では209人中10人で4.8%、2回目の注射では137人中24人で17.5%でした。 ワクチンを打った場所が痛くなった人は、1回目の注射では209人中91人で43.5%、2回目の注射では137人中62人で45.2%でした。 (8月31日更新のデータ)
日本では2022年2月から7月までの間に5歳から11歳向けのワクチンを打った人のうち、心筋炎や心膜炎の疑いがあると報告された件数がまとめられています。 1回目の注射のあと、心筋炎の疑いの報告は4件、心膜炎の疑いの報告は3件、 2回目の注射のあと、心筋炎の疑いの報告は4件、心膜炎の疑いの報告はありませんでした。 この時点で1回目の注射はおよそ140万回、2回目の注射はおよそ130万回行われていて、心筋炎や心膜炎が疑いがあった割合は100万回に2件から3件程度だということです。 国はワクチンを接種したあと数日以内に、胸が痛かったり呼吸が苦しくなったりどうきがするなど、心筋炎や心膜炎を疑う症状が出た場合はすぐに医療機関を受診してほしいとしています。 (厚生労働省の副反応検討部会より)
5歳から11歳で「心筋炎」になったという報告は、 男の子では1回目の注射では100万回当たり0回、2回目の注射では4.3回でした。 女の子では1回目の注射ではデータが少なすぎて分かりませんでしたが、2回目の注射では100万回当たり2回でした。 いずれも軽症で、回復したということです。 またアメリカからの報告では、ワクチンを打った後に亡くなった子どもは2人いましたが、2人とももともと病気があり、ワクチンを打つ前から健康状態が悪かったということです。 ワクチンを打つことによって亡くなったということを示すデータはないとしています。 (CDCの説明資料より)
また8月30日に国の専門家で作るグループは、5歳から11歳の子どもにも3回目の注射ができるようにすることを決めました。 厚生労働省は3回目の注射について、大人と同じように2回目を打ってから少なくとも5か月以上の間をあける方針です。 いつから3回目の注射を始めるのかは今後決めることにしています。 小児科の医師でワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は、5歳から11歳の子どもの3回目の注射について「ワクチンの免疫は1回、2回の接種で確実にできるものではなくて、日本脳炎やB型肝炎などのワクチンも2回より多く接種しています。子どもたちも、新型コロナのワクチンを2回接種すると、基礎となる免疫ができますが、それを強く記憶として残すためには、3回目の接種が必要になります」と話しています。
「メッセンジャーRNA」はすぐに壊れる物質で、ワクチンを打ってから数日で分解されてなくなってしまいます。 厚生労働省も体の中に残って悪い影響が出ることはないとしています。また、何十年もたったあとにワクチンが原因で病気になることは考えにくいとされています。 一方「メッセンジャーRNAワクチン」以外にも、ウイルスの成分を人工的に作って注射する「組み換えたんぱく質ワクチン」や、本物のウイルスを加工して毒性をなくして注射する「不活化ワクチン」など、ほかのタイプのワクチンを開発している国内の企業もあります。 こうした技術は以前からワクチンに使われていて安心だという声もあります。どう考えればよいのでしょうか。
小児科の医師などでつくる学会(日本小児科学会)は2022年8月、5歳から17歳のすべての子どもに対してワクチンの接種を推奨すると発表しました。 その理由について、 ▽オミクロン株が流行するようになってから脳症や心筋炎などの重い症状になる子どもが増えていること、 ▽世界各国の大規模な研究でオミクロン株を含めた変異ウイルスに対しても症状が重くなるのを防ぐことが確認されたこと、 ▽ワクチンの安全性についてのデータが国内でも集まってきて副反応が起きる割合は12歳から17歳では若い大人と同じくらい、5歳から11歳ではより低いことが分かったことなどをあげています。 でも5歳から11歳の子ども用ワクチンを2回接種した人は、2022年8月29日時点で19.7%とほかの世代より低くなっています。
そのうえで「ことしに入ってからオミクロン株が流行し、状況が大きく変わっています。子どもの感染者が非常に増え、健康な子どもが重症になるケースも増えています。私も実際に健康な女の子が新型コロナに感染し脳症で亡くなるのを目の当たりにしました。親は『なぜワクチンを接種しなかったのか』と悔やんでいました」と話していました。 齋藤教授は「ワクチンの接種は車に乗るときのチャイルドシートと目的は同じです。チャイルドシートは万が一事故にあったときに大けがをするのを防ぐために着けていると思います。新型コロナのワクチンも同じで、万が一感染して重症化するのを防ぐことが目的です。これまでのデータを見ても安心して接種できるワクチンなので、重症化を防ぎ、命を落とさないためにも接種が重要です」と話していました。
Q:打つ?打たない?判断はどうすれば
Q:子どものワクチンってどんなもの?
Q:どれくらいの子どもがワクチンを打っているの?
Q:どれくらいの子どもが感染しているの?
Q:子どもは感染するとどうなるの?
Q:ワクチンの効果は?何を防ぐことができるの?
Q:ワクチンを打ったあとの副反応は?
Q:重い副反応が出ることはないの?
Q:3回目の接種、子どもには?
Q:コロナのワクチンは新しいから怖いの?
Q:専門家はどう見ているの?