「ひとしきり高たかい水準すいじゅんのインフレが続つづくと、より高たかい“インフレが続つづくという期待きたい”が定着ていちゃくする可能かのう性せいが高たかくなる」

「1970年代ねんだい、インフレ率りつの上昇じょうしょうに伴ともなって“インフレ率りつが高たかいという期待きたい”が家計かけいや企業きぎょうでの経済けいざい的てきな意思いし決定けっていに定着ていちゃくしてしまった」

「インフレはみずからを餌えさにしている。このためより安定あんていした、より生産せいさん的てきな経済けいざいに戻もどるための仕事しごととしては、“インフレの期待きたい”に支配しはいされている状態じょうたいを打ち破うちやぶることでなければならない」（ボルカー元もとFRB議長ぎちょうのことばを引用いんよう）

この講演こうえんでパウエル議長ぎちょうが強調きょうちょうしたのは、将来しょうらいインフレが高こう止とまりするという「インフレ期待きたい」がひとたび定着ていちゃくすると、さらに物価ぶっかが上あがる悪循環あくじゅんかんに陥おちいるおそれがあるということです。

ここでパウエル議長ぎちょうは「将来しょうらいのインフレに対にたいする国民こくみんの期待きたいが長ながい時間じかんをかけてインフレ・パスを設定せっていするうえで重要じゅうような役割やくわりを果はたし得える」と述のべ、インフレをコントロールするうえで、「インフレ期待きたい」がいかに重要じゅうような概念がいねんかを強調きょうちょうしています。

それが「期待きたいインフレ率りつ」（「予想よそうインフレ率りつ」とも言いいます）という指標しひょうです。市場しじょう関係かんけい者しゃや消費しょうひ者しゃ、企業きぎょうが予測よそくする、将来しょうらいの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつのことです。

例たとえば今こん100円えんの商品しょうひんが、来年らいねん105円えんに値上ねあがりすると予測よそくすれば、1年ねん後ごの期待きたいインフレ率りつは5％となります。

将来しょうらいの予測よそく値ちであるので、実際じっさいの物価ぶっか上昇じょうしょう率りつ・インフレ率りつより先行せんこうして動うごくという特徴とくちょうがあり、パウエル議長ぎちょうのFRBだけでなく、各国かっこくの中央ちゅうおう銀行ぎんこうが金融きんゆう政策せいさくを判断はんだんするための重要じゅうような指標しひょうと位置いちづけています。

期待きたいインフレ率りつをもとに、インフレがさらに進すすむという見方みかたが広ひろがると、中央ちゅうおう銀行ぎんこうが金融きんゆう引き締ひきしめをさらに強つよめるという連想れんそうが働はたらきます。

これをアメリカのケースで見みると、

期待きたいインフレ率りつの上昇じょうしょう→FRBの金融きんゆう引き締ひきしめ強化きょうか→ドル高だか円えん安やす　

という流ながれになり、市場しじょう関係かんけい者しゃにとって期待きたいインフレ率りつの変化へんかは為替かわせの動向どうこうを占うらなううえで重要じゅうような指標しひょうとなっています。

代表だいひょう的てきなものとして、アメリカの「ミシガン大学だいがく消費しょうひ者しゃ態度たいど指数しすう」があります。

この中なかには、全米ぜんべい500世帯せたい以上いじょうの電話でんわ調査ちょうさにもとづいて、1年ねん後ご、5年ねん後ごのモノとサービスの価格かかくを予想よそうしたデータがあります。ことし6月つきの速報そくほう値ちでは、消費しょうひ者しゃが予測よそくする5年ねん先さきの期待きたいインフレ率りつが3.3％（確報かくほう値ちは3.1％）と、およそ14年ねん半はんぶりの高たかい水準すいじゅんとなりました。

この発表はっぴょうの翌週よくしゅう、FRBはおよそ27年ねん半はんぶりとなる、0.75％の大幅おおはばな利上りあげを決きめています。その後そのご発表はっぴょうされた7月つきと8月つきの確報かくほう値ちはいずれも2.9％と、足元あしもとのガソリン価格かかくの下落げらくなどを背景はいけいに、いくぶん下落げらくしています。

これについて市場しじょう関係かんけい者しゃからは、「FRBが急速きゅうそくな利上りあげを実施じっししている割わりには下さがりきってはいない」という声こえも聞きかれます。

その後そのごは金融きんゆう緩和かんわを背景はいけいに上昇じょうしょう傾向けいこうをたどりますが、ロシアのウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうをきっかけにさらに上昇じょうしょうし、4月つき21日にちには、比較ひかくするデータがある2003年ねん以降いこう、初はじめて3％を超こえました。

その後そのご、FRBの利上りあげの影響えいきょうもあってやや下落げらくしましたが、FRBのパウエル議長ぎちょうがジャクソンホールでの講演こうえんで利上りあげを続つづける姿勢しせいを鮮明せんめいにしてからも足元あしもとは2.5％前後ぜんごで推移すいいしています。

パウエル議長ぎちょうの講演こうえんのあと、ニューヨーク株式かぶしき市場しじょうでダウ平均へいきん株価かぶかが急落きゅうらくし、外国がいこく為替かわせ市場しじょうでは円えん安やすが急ピッチきゅうぴっちで進すすみましたが、BEIの動うごきは限定げんてい的てきで、FRBがねらうインフレ期待きたいの低下ていかという形かたちにはなっていません。

インフレ期待きたいを抑え込おさえこまねば、さらなるインフレ率りつの上昇じょうしょうを招まねくことにもつながりかねない。このことこそがパウエル議長ぎちょうが警戒けいかいしている点てんです。

市場しじょう関係かんけい者しゃは、「FRBが目指めざすのは、BEIが目めに見みえる形かたちで2％かそれを下回したまわる水準すいじゅんまで低下ていかし、これが一定いってい期間きかん続つづくという姿すがただろう。今いまのBEIの水準すいじゅんを見みるかぎり、FRBが金融きんゆう引き締ひきしめの姿勢しせいを変かえることは当面とうめんないだろう」と話はなしていました。

ただ、市場しじょう関係かんけい者しゃからは、「日本にっぽんのBEIはアメリカのようにはあてにならない」という声こえも聞きかれます。

BEIは普通ふつう国債こくさいと物価ぶっか連動れんどう国債こくさいの利回りまわりの差さから算出さんしゅつされますが、長ながくデフレの状況じょうきょうが続つづいた日本にっぽんではそもそも物価ぶっか連動れんどう国債こくさいの需要じゅようが乏とぼしく、広ひろく流通りゅうつうしていないため、利回りまわりはごく一部いちぶの市場しじょう関係かんけい者しゃの見方みかたに過すぎないという指摘してきもあります。

さらに、日銀にちぎんは大だい規模きぼな金融きんゆう緩和かんわ策さくで金利きんりの上昇じょうしょうを抑おさえています。このため市場しじょう関係かんけい者しゃからは、「BEIがどこまで市場しじょうの実態じったいを反映はんえいしているのか疑問ぎもんだ」という声こえがあがっていました。

日銀にちぎんの関係かんけい者しゃに聞きいても、「市場しじょうの問題もんだいもあり、日本にっぽんのBEIの捉とらえ方かたは難むずかしい」という答こたえが返かえってきました。

日本にっぽんのインフレ期待きたいをめぐり、日銀にちぎんだけでなく市場しじょうも、消費しょうひ者しゃやエコノミストへのアンケート調査ちょうさや日銀にちぎんの短観たんかん＝企業きぎょう短期たんき経済けいざい観測かんそく調査ちょうさなどさまざまなデータを通をつうじて動うごきを見極みきわめようとしていますが、どのデータも一長一短いっちょういったんがあるというのが現状げんじょうのようです。

インフレ期待きたいが金融きんゆう政策せいさくを判断はんだんするうえで重要じゅうような指標しひょうとなることはアメリカも日本にっぽんも変かわりませんが、その精度せいどをいかに高たかめるのかということも問とわれてくると思おもいます。