日本新聞: 幽霊のさかもり - Todaii: Easy Japanese

幽霊ゆうれいのさかもり

Feb 5, 2024 07:02

Furigana

昔むかしある所ところに、一軒いっけんの骨董屋こっとうやがありました。今日きょうはあいにく主人夫婦しゅじんふうふが留守るすで、甥おいの忠兵衛ちゅうべえが留守番るすばんをしていました。

ふと一人いちにんの客きゃくが入はいってきて、店内てんないのいろいろな掛かけ軸じくを手てに取とりはじめました。そして、女おんなの幽霊ゆうれいが描えがかれている掛かけ軸じくに目めがとまり、これはいくらか？と、忠兵衛ちゅうべえに尋たずねました。

この掛かけ軸じくは、ただ同然どうぜんで買かってきたガラクタ品ひんでしたので、忠兵衛ちゅうべえは二十文にじゅうぶんという意味いみで二本にほんの指ゆびを見みせました。すると客きゃくは「なんと二十両にじゅうりょうか！それは安やすい！」と大喜おおよろこびして、明日あしたに代金だいきんを持もってくるからと手付金てつけきんを払はらって帰かえっていきました。

その夜よる、忠兵衛ちゅうべえは大金たいきんを手てにしてすっかり嬉うれしくなり、幽霊ゆうれいの掛かけ軸じくの前まえで、ひとりで酒盛さかもりを始はじめました。掛かけ軸じくの中なかの幽霊ゆうれいに「お前まえもちょっと出でてきて酌しゃくでもしてくれや」と声こえをかけると、なんと本当ほんとうに掛かけ軸じくから幽霊ゆうれいが出でてきました。なんとも不思議ふしぎな事ことで、初はじめは怖こわがっていた忠兵衛ちゅうべえも、美人びじんな幽霊ゆうれいのお酌しゃくですっかり酔よい潰つぶれてしまいました。

翌朝よくあさ、目めを覚さました忠兵衛ちゅうべえの目めの前まえには、幽霊ゆうれいが寝姿ねすがたになっている掛かけ軸じくがありました。はやく女幽霊おんなゆうれいに起おきてもらって元もとの立たち姿すがたに戻もどってもらわないと、二十両にじゅうりょうがぱぁになってしまうと忠兵衛ちゅうべえは困惑こんわくしました。