「AT1債さい」と呼よばれる社債しゃさいをめぐる対応たいおうが、金融きんゆう関係かんけい者しゃに大おおきな衝撃しょうげきを与あたえました。ライバルのUBSに買収ばいしゅうされる形かたちで救済きゅうさいされた「クレディ・スイス」が、これまで発行はっこうした「AT1債さい」と呼よばれる社債しゃさいを突然とつぜん、無む価値かちとしたのです。

日本にっぽんでも三菱みつびしUFJモルガン・スタンレー証券しょうけんが、クレディ・スイスの「AT1債さい」をおよそ950億おく円えん分ぶん、国内こくないの富裕ふゆう層そうを中心ちゅうしんに販売はんばいし無む価値かちとなっていたことが14日にちに明あきらかになるなど影響えいきょうが出でています。

なぜ社債しゃさいが一瞬いっしゅんで無む価値かちになるようなことが起おきたのか。クレディ・スイスは、契約けいやくであらかじめ決きまっていた条件じょうけんに沿そった対応たいおうだと説明せつめいします。

どういうことなのか？今回こんかいのケースでは、契約けいやく上じょう、「AT1債さい」が無む価値かちになるトリガーが2つありました。

1 株式かぶしきなど損失そんしつを吸収きゅうしゅうする資本しほんが一定いっていの水準すいじゅんを下回したまわった場合ばあい。

2 スイス当局とうきょくが銀行ぎんこうが破綻はたんのおそれがあるとみなしたり、特別とくべつな政府せいふ支援しえんを行おこなったりした場合ばあい。

今回こんかいは、クレディ・スイスを買収ばいしゅうしたUBSに対にたいして政府せいふ保証ほしょうを行おこなったことが2つ目めのトリガー「特別とくべつな政府せいふ支援しえん」に該当がいとうし、この結果けっか、「AT1債さい」が無む価値かちとされました。契約けいやくに沿そった対応たいおうだとはいえ、スイス政府せいふの対応たいおうは、投資とうし家かの間まで大おおきな論議ろんぎを呼よびました。

その要因よういんは2つあります。

1つは、「特別とくべつな政府せいふ支援しえん」というトリガーがスイス特有とくゆうのルールで、それが発動はつどうする条件じょうけんが明確めいかくでなかったこと。

2つ目めは、通常つうじょうの破綻はたん時じであれば先さきに価値かちを失うしなうはずの株式かぶしきより先さきに「AT1債さい」が無む価値かちとなるという「弁済べんさい順位じゅんいの逆転ぎゃくてん」が起おきたことです。

日本にっぽんでもメガバンク3行こうが「永久えいきゅう劣後債れつごさい」という名前なまえでAT1債さいを発行はっこうし、およそ3兆ちょう円えんの残高ざんだかがあります。

鈴木すずき金融きんゆう担当たんとう大臣だいじんは、3月つき28日にちの参議院さんぎいん予算よさん委員いいん会かいの質疑しつぎの中なかで、日本にっぽんでは「特別とくべつな政府せいふ支援しえん」のトリガーが発動はつどうして「AT1債さい」が無む価値かちとなるということはないという認識にんしきを示しめしました。

これについて、金融きんゆう庁ちょうの幹部かんぶはこう発言はつげんしていました。

「1日にちに5兆ちょう円えん以上いじょうの預金よきんが流出りゅうしゅつするというのは聞きいたことがないスピードだ。SNS時代じだいの預金よきん者しゃは1日にちたりとも待まってはくれないということだろうが、これまでの『金月きんげつ処理しょり』（金曜日きんようびに破綻はたんを公表こうひょうし、月曜日げつようびに譲渡じょうと先さきでの営業えいぎょうを開始かいしする破綻はたん処理しょりの仕組しくみ）で対応たいおうできるのか、時代じだいに合あった仕組しくみを考かんがえねばならない」

こうした中なかで、日本にっぽんの金融きんゆう当局とうきょくが今いま、注目ちゅうもくするのは預金よきんがいかに引き出ひきだされにくいかを示しめす「粘着ねんちゃく性せい」という分析ぶんせき指標しひょうです。例たとえば、預金よきん保険ほけん法ほうのもとで保護ほごされる企業きぎょうの「決済けっさい用よう預金よきん」や「1000万まん円えん以内いないの個人こじんの預金よきん」などは、粘着ねんちゃく性せいが高たかいとされています。

金融きんゆう庁ちょうによりますと、日本にっぽんでは、破綻はたんしたアメリカの銀行ぎんこうのように、顧客こきゃくの構成こうせいや預金よきんの種類しゅるいが極端きょくたんに偏かたよっている金融きんゆう機関きかんは確認かくにんされていないということで、一定いっていの「粘着ねんちゃく性せい」は確保かくほされていると見みています。

金融きんゆう機関きかん側がわの認識にんしきも同様どうようです。4月つき3日にち、みずほ銀行ぎんこうの加藤かとう勝彦かつひこ頭取とうどりは、全国ぜんこく銀行ぎんこう協会きょうかいの会長かいちょうの就任しゅうにん会見かいけんで、次つぎのように指摘してきしました。

おととしまで日銀にちぎんに務つとめ、通算つうさん15年ねん余あまりバーゼル規制きせいの業務ぎょうむに携たずさわった秀しげる島とう弘ひろ高だかさんは「今回こんかいの経験けいけんの教訓きょうくんはこれからしっかり洗い出あらいだす必要ひつようがあるが、すぐに規制きせい強化きょうかに飛とびつくのではなく、日常にちじょうの金融きんゆう当局とうきょくの監督かんとくが重要じゅうようということを忘わすれるべきでない」と指摘してきします。

国際こくさい的てきな規制きせいの枠組わくぐみをつくるバーゼル委員いいん会かいは、規制きせいづくりだけでなく、金融きんゆう機関きかんの監督かんとくを重視じゅうしするため2021年ねんに組織そしきを改編かいへんしました。さらに、去年きょねん12月つきに公表こうひょうした計画けいかくでも、金利きんり上昇じょうしょう時じに金融きんゆう機関きかんが保有ほゆうする債券さいけんに含み損ふくみそんを抱かかえるリスクが指摘してきされ、ストレステストや危機きき時じのシナリオ作成さくせいを行おこなって、リスクを点検てんけんするこれまでのやり方やりかたが十分じゅうぶんか検証けんしょうする必要ひつようがあるとしていました。

今回こんかいそうしたリスクを踏ふまえた監督かんとくがなぜ行おこなえなかったのか、アメリカの中央ちゅうおう銀行ぎんこうにあたるFRBのバー副ふく議長ぎちょうは、経緯けいいを検証けんしょうした報告ほうこく書しょを5月つき1日にちまでに公表こうひょうするとしています。