酒店を営んでいた69歳の女性が行方不明になり、翌月、町内の草むらで遺体で見つかりました。
首には絞められた痕があり、店の金庫も盗まれていました。
阪原さんは、警察の調べに対し、当初は「酒を飲む金が欲しくて首を絞めて殺害した」などと容疑を認めていましたが、裁判では「自白を強要された」として、一貫して無実を訴えました。 しかし、裁判所は「自白は信用できる」などと判断し、平成12年に最高裁判所で無期懲役が確定しました。 服役してからも裁判のやり直しを求め続けましたが、75歳で病死し、手続きは打ち切られました。
家族は阪原さんの無実を信じ、30年以上にわたって訴え続けてきました。
「父は、泣きながら殴られても蹴られても、自分がやったと言わんかったんや。だけど、警察官から『結婚したばかりの娘の嫁ぎ先に行って、家の中ガタガタにしてきたろうか』と言われ、父も我慢できんかった」 「『父ちゃんは、やったと言ってしまったけど、何もしていない。誰も信じなくても家族だけには信じてほしい』そのように、父は泣きながら言いました。奈落の底というのはこの時のためにあるんだなという思いでした。自分が何もやっていないのに『私がやりました』と言わなければいけない瞬間は本当につらかったと思います」
「夫が泣いているのを初めて見ました。何も証拠が無いのにひどいと思います」
この事件では、阪原さんによる犯行であることを裏付ける直接的な証拠はなく、阪原さんの捜査段階の自白と、事件当日の目撃情報や遺体の状況などの間接的な証拠を積み重ねて有罪判決が確定していました。
大津地裁の決定 「自白での殺害方法は遺体の状態という重要な客観的事実と整合しておらず、信用性が大きく揺らいでいる。警察官から暴行を受けるなどして、自白を強要された疑いがある」 さらに、犯人しか知りえない金庫の発見場所を阪原さんに案内させた「引き当て」捜査をめぐっては、現場に向かう際に撮影したとされた写真の多くが、実際には、帰り道に撮影されていたことがネガの分析でわかり、決定では捜査のずさんさが批判されました。 「事実認定を誤らせる危険性が大いにあり、不適切だ」
すでに確定した有罪判決について再審を認めるには、無罪を言い渡すべきことが明らかな「新しい証拠」が必要です。 検察は、弁護団が提出した医師の鑑定書は判決が確定した当時も存在した手法で行われているとして、「新しい証拠」とは認められないなどと主張しました。 そして、自白の根幹部分に矛盾はないため信用性は揺らがず、地裁の決定は当初からあった古い証拠の再評価を行っているだけだと批判しました。 一方、弁護団は、高裁も再審を認めるよう求めました。
また、「関係者の新たな証言が提出され、本人のアリバイの主張を確定判決がうそと判断したことにも疑問が生じた」などと指摘しました。 無罪を言い渡すべきことが明らかな新証拠が見つかった場合にあたると結論づけました。 一方で、自白と遺体の状態に整合しない点はあると指摘しましたが、「自白全体の信用性が揺らいだとまではいえない」と判断しました。また、自白が強要された疑いがあるとは、認めませんでした。
法政大学法科大学院 水野智幸教授 「確定判決などの証拠のぜい弱性を指摘して、『疑わしきは被告の利益に』という原則を適用した妥当な決定だ。判断の根拠となったネガは、再審請求の中で初めて検察から証拠開示されて提出されたものだが、本来は、当時の刑事裁判で明らかになるべきだ。本人が生きている間に無罪を勝ち取りたいという思いは強かったはずで、再審を認めるかどうかの審理が長期化しないよう、法律によって、より具体的な規定を設けるべきだ」
弘次さん 「再審無罪に向けて階段をまた1つ上がることができました。父が亡くなったときは、本当に悔しくて悲しくて何もする気が起きなくなりました。それでもふつふつと怒りの感情がわき上がり、『まだ何にも解決していない。父ちゃんは死んでしまったけど、せめて父ちゃんへの無念を晴らしたい』という思いで立ち上がりました。大津地裁で再審開始決定が出たのに、即時抗告されて私たちはこんなにつらい思いをしている。1日も早く再審が開始されるべきで、大阪高検は最高裁に特別抗告をして、いたずらにわれわれの時間を奪うべきではない。父の無罪が確定するまで、家族は闘い続ける決意をしています」
検察は今後、最高裁に特別抗告するかどうか、判断することになります。
逮捕前日「うその自白してしまった」 家族に打ち明ける
本人亡くなるも遺族が再審請求
大津地裁 再審認める “自白を強要された疑い”
検察が即時抗告
大阪高裁 再び再審を認める
専門家「再審を長期化させない法整備を」
“1日も早く再審開始し 無罪判決を”
大阪高検「主張が認められず遺憾」