都内ではプレハブの仮設住宅を建てる土地が限られるため、国は賃貸住宅を仮設住宅として利用する「みなし仮設」を提供することで必要な戸数を確保するとしています。
しかし、都市防災の専門家が平成27年の賃貸住宅のデータに加え、東京都が「みなし仮設」として賃貸住宅を提供する場合に現在設定している家賃の上限などをもとにシミュレーションして検証したところ、都内でおよそ18万戸の仮設住宅が不足するおそれがあることが分かりました。
こうした指摘を受け、東京都は来年度から防災や建築、福祉の専門家や自治体の担当者などでつくる検討会を立ち上げ、仮設住宅の確保について初めて議論していくことになりました。
検討会では、多くの賃貸住宅を「みなし仮設」として提供する場合はどの程度家賃の上限を引き上げる必要があるのかや、仮設住宅が確保できない場合の都外への広域避難などについても考えることにしています。
また、東日本大震災では仮設住宅の場所によって地域のつながりが失われてしまうケースが出ていて、検討会では被災後の住まいについて住民の意向を聞き取るなどして、今後の政策に反映させることにしています。
課題を指摘し検討会の設置を提案した専修大学の佐藤慶一准教授は「地震が起きてから仮設住宅の問題を考えていたら間に合わず、事前の準備を進めるための今回の動きは大きな一歩だと感じている。被災後の住まいについて課題や方法を洗い出し、行政としてできるものは早急な事業化につなげていきたい」と話しています。
仮設住宅なぜ18万戸不足
首都直下地震が発生した場合、なぜ都内の仮設住宅が18万戸も足りなくなるのか。
国の想定では、都内でおよそ57万戸の仮設住宅が必要になるものの、プレハブの仮設住宅を建設し、賃貸住宅の空き部屋を仮設住宅として利用する「みなし仮設」を提供することで必要な戸数を確保するとしています。
▽57万戸の仮設住宅を検証
この想定を検証するため、専修大学の佐藤慶一准教授は、東京都が仮設住宅を建設する予定の土地の面積のほか、平成27年の賃貸住宅の空き部屋のデータなどをもとにシミュレーションして検証しました。
その結果、都内では土地が限られ、面積から計算すると建設できるプレハブの仮設住宅の数はおよそ8万戸にとどまりました。
残りは49万戸ですが、国の想定のように空いている賃貸住宅を「みなし仮設」として利用できれば、すべての戸数を提供できることになります。
▽みなし仮設不足の現実
しかし、地震の被害を受けて住めなくなる賃貸住宅や、東京都が現在設定している、「みなし仮設」として賃貸住宅を提供する場合の家賃の上限をもとに分析すると課題が見つかりました。
都内にある賃貸住宅の家賃の平均は、例えば2LDKで1か月およそ15万円でしたが「みなし仮設」の家賃の上限は5人以上の家族でも1か月10万円以下で、被災者が自分で家賃を上乗せして住むことは認められていません。
これらの条件をもとにシミュレーションすると「みなし仮設」として利用できるのはおよそ31万戸にとどまりました。
建設するプレハブの仮設住宅を足しても39万戸で、必要とされる57万戸より18万戸不足するという結果になりました。
▽23区内ほど深刻
仮設住宅をそれぞれの区内で確保しようとした場合はより深刻で、地震の揺れや火災の被害が大きい20の区で数千戸から数万戸の仮設住宅が不足するとされています。
最も不足するのは大田区で4万436戸、次いで足立区で3万8949戸、葛飾区で2万8269戸、江戸川区で2万7265戸が不足するとしています。
佐藤准教授は「東京では広い土地が少ないほか、家賃の制限などで活用できる賃貸住宅も限られ、仮設住宅はかなり不足する。被災後、どういった仮住まいの対応をすべきか事前に検討して準備しておくべきだ」と指摘しています。
住民からは不安の声
想定される仮設住宅の不足について、都内の住民からは、不安の声があがっています。
足立区では、専門家のシミュレーションで、およそ5万3000戸の仮設住宅が必要となるものの、およそ3万9000戸が足りなくなるという結果になりました。
中川地区で町内会長をつとめる今坂昭男さんは、被災後の住まいに不安を抱いています。
今坂さんは「家を失ってしまった時に住む家がないのはとても不安だ。仮設住宅が足りない場合どうするか、町内会でも真剣に考えていかなくてはいけない」と話していました。
これまで今坂さんは、町内会のメンバーとともに被災後の住まいについて話し合いプレハブや賃貸住宅などの仮設住宅に住みたいのか、自宅を修理して住みたいのかなどを検討したこともありました。
いちばんの課題と感じているのは地域のつながりを保つことで、今後、東京都が検討する際には、地域の住民が被災後の住まいについてどういう意向を持っているのか、聞き取りなどをしてほしいと考えています。
今坂さんは「自分たちの地域は多くがお年寄りの住民で、被災後も互いに近い場所で生活したい人が多く、仮設住宅はできるだけ地域に近いところに確保してほしい。こうした地域の意向を少しでも対策に取り入れてほしい」と話していました。
一方で、今坂さんは、住民側も被害を減らせるよう努力する必要があると考えています。
今坂さんは「私たちも定期的に防災訓練を行ったり家具の固定を呼びかけたりして、危機意識を持つことが大事だと思う」と話していました。