役員会議では、副社長など他の役員からもビッグモーターへの追加の調査の必要はないという発言が相次いだということで金融庁が詳しい経緯を調べています。
この問題をめぐって金融庁は、損害保険ジャパンがビッグモーターの保険金請求に不正の可能性があるという情報を得ていながら、去年、大手3社の中で唯一、取り引きを再開した経緯について会社に詳しい報告を求めています。
複数の関係者によりますと、取り引き再開の方針を協議した去年7月6日の役員会議で、白川社長は、ビッグモーターの保険金請求をめぐって不正が行われていたと推測されるという見解を示した一方で、ビッグモーターがみずから行った一部の工場への調査で不正はなかったと結論づけていることから、当時の兼重宏行社長を信じるしかないと発言していたということです。
白川社長は、追加調査を行えばビッグモーターとはこれまでのような関係には戻れなくなるという懸念を示し、工場への追加調査を行わずに取り引きを再開してはどうかなどと発言したということです。
また会議では、飯豊聡副社長が、追加の調査がうまくいかなかった場合、ビッグモーターとの関係が悪化するなどとしてこれ以上過去の話を掘り返すことは疑問だと主張したほか、一部の執行役員からも再発防止策を講じて取り引きを再開すればこれ以上の調査をしても意味がないという発言があったということです。
これに対し、別の執行役員から、追加のヒアリングや残りの工場への調査が必要だという意見が出たということです。
金融庁はこうした経緯をふまえ、経営陣の判断に問題がなかったか詳しく調べることにしています。
白川社長 “37人抜き”の社長就任で注目も
損害保険ジャパンの白川儀一社長(53)は、1993年に会社の前身である安田火災海上保険に入社しました。
2019年に執行役員経営企画部長、2020年に取締役執行役員となり、去年4月に社長に就任しました。
当時、51歳での社長就任は損害保険ジャパンの設立以来最も若く、“37人抜き”の人事としても注目されました。
両社は親密な関係 ビッグモーターへ「執行役員」での出向者も
損害保険各社はビッグモーターとの間で互いの顧客を紹介し合う親密な関係を続けてきました。
損害保険会社が事故にあった保険契約者にビッグモーターの修理工場を紹介すると、ビッグモーターは代理店として紹介された数に応じて、中古車の購入者に損保会社が手がける自賠責保険などを販売するという仕組みがあり、双方にとって収益源となっていました。
損害保険ジャパンはビッグモーターに2011年以降、あわせて37人を板金部門や営業部門に出向させ、なかには執行役員を務めた出向者もいました。
また、損害保険ジャパンは、2015年の時点でビッグモーターの株式の7%あまりを保有する大株主だったほか、ビッグモーターの創業者の長男で先月、引責辞任した兼重宏一前副社長は2011年から1年あまりの期間、損害保険ジャパンの前身企業の1つ「日本興亜損保」に在籍していました。
こうした親密な関係が続く中、損害保険ジャパンは2019年、社内にビッグモーターに対応する専門のチームを設けて、修理する車の損害査定を簡略化していたことも分かっています。
ビッグモーターが修理の見積もりを作成して写真を送れば、損害査定の手続きを大幅に簡略化して保険金を決めることができるようにする仕組みで、金融庁は損害保険ジャパンに対し、査定を簡略化していたことに問題がなかったかを検証し、実態を報告するよう求めています。
“不正請求”疑い強まるも損害保険ジャパンだけが取り引き再開
ビッグモーターが故意に車を傷つけるなどして自動車保険の保険金を不正に請求していた問題。
去年3月、損害保険防犯対策協議会を通じて不正請求の疑いがあるという情報が損保各社に寄せられたことをきっかけに各社は調査に乗り出しました。その結果、不正請求の疑いが強まると、去年6月に3社は相次いで、契約者にビッグモーターの修理工場を紹介する業務を停止しました。
ところがこの翌月、3社のうち損害保険ジャパンだけが、取り引きを再開しました。この理由について会社は、ビッグモーター側から、工場長の指示による不正はなく、過剰請求の原因は現場の連携不足による過失だったという報告を受けたためだとしていました。
しかし先月、ビッグモーターが公表した外部の弁護士による調査委員会の報告書で不正の実態が明らかになり、損害保険ジャパンが去年、ビッグモーターとの取り引きを再開するにあたって不正の可能性があるという情報を得ていながら詳細な調査をしていなかったことも新たに分かりました。
金融庁もなぜ損害保険ジャパンだけが取引再開の判断をしたのかを重点的に調査して報告するよう会社側に求めていて、社内の意思決定をめぐる経緯が焦点になっていました。