その中なかで、多おおくの投稿とうこうがあるのが「処理しょり水すいに含ふくまれるトリチウムが生物せいぶつの体内たいないで濃縮のうしゅくされる、生物せいぶつ濃縮のうしゅくが起おきるのではないか」という疑問ぎもんです。

生物せいぶつ濃縮のうしゅくはしないとされていますが、どういう理由りゆうでしないのか。

トリチウムの取り扱とりあつかいを研究けんきゅうしてきた専門せんもん家かや放射線ほうしゃせんの影響えいきょうに詳くわしい専門せんもん家かなどに取材しゅざいしてまとめました。

Q.生物せいぶつ濃縮のうしゅくって？

そもそも「生物せいぶつ濃縮のうしゅく」ってどのようなことなのか？

「環境かんきょう中ちゅうの特定とくていの物質ぶっしつが生体せいたい内ないに濃縮のうしゅく・蓄積ちくせきされること。食物しょくもつ連鎖れんさを経へて、濃縮のうしゅく率りつが数すう十じゅう万まん倍ばい以上いじょうに達たっすることもある」（「広辞苑こうじえん」より）

海うみの生物せいぶつの場合ばあい、プランクトンを小ちいさな魚さかなが食たべ、その魚さかなをさらに大おおきな魚さかなが食たべるという食物しょくもつ連鎖れんさを経へて、ある物質ぶっしつがより大おおきな魚さかなにたまっていくという現象げんしょうです。

Q.そもそもトリチウムって？

トリチウムが生物せいぶつ濃縮のうしゅくするかどうか考かんがえる前提ぜんていとして、まず、トリチウムってどんな物質ぶっしつなのでしょうか？

トリチウムは放射線ほうしゃせんを出だす放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつです。日本語にほんごでは「三重みえ水素すいそ（T）」と呼よばれ、水素すいその仲間なかま（同位どうい体たい）です。

水みずの一部いちぶとして自然しぜん界かいにも広ひろく存在そんざいしていて、私わたしたちの体内たいないにも微量びりょうのトリチウムが含ふくまれています。

通常つうじょうの水みずは、「H2O」。酸素さんそ（O）原子げんしに、水素すいそ（H）原子げんしが2つ結合けつごうしています。

一方いっぽうで、トリチウム水すいは「HTO」。水素すいそが2つではなく、通常つうじょうの水素すいそが1つと、トリチウムが1つ結合けつごうしています。

このように、トリチウムは水みずの一部いちぶとして存在そんざいするため、水みずから取り除とりのぞくのは難むずかしいのが特徴とくちょうです。

トリチウムは放射線ほうしゃせんの一種いっしゅ、ベータ線べ-たせんを出だしますが、エネルギーは弱よわく、紙かみ一いち枚まいでも通り抜とおりぬけることができません。

Q.トリチウムは生物せいぶつ濃縮のうしゅくしない？

では、このトリチウム、生物せいぶつの中なかで濃縮のうしゅくが起おきるのでしょうか？

先さきほども述のべましたが、トリチウムはほとんどが水みずの一部いちぶとして存在そんざいしています。水みずは生物せいぶつの体からだの中なかに取り込とりこまれても、体内たいないで循環じゅんかんし、尿にょうや便びんなどと一緒いっしょに体からだの外そとに排出はいしゅつされます。トリチウムもほとんどが水みずの状態じょうたいなので同おなじです。

人ひとや魚介ぎょかい類るいなどの生物せいぶつに取り込とりこまれたとしても、比較的ひかくてき速すみやかに排出はいしゅつされるため、生物せいぶつの中なかに蓄積ちくせき・濃縮のうしゅくしていくことはないとされています。

トリチウムの性質せいしつに詳くわしい、茨城いばらき大学だいがく大学院だいがくいん理工りこう学がく研究けんきゅう科かの鳥とり養よう祐二ゆうじ教授きょうじゅは「これまでの研究けんきゅうでは、水みずの状態じょうたいのトリチウムが生物せいぶつ濃縮のうしゅくを起おこすことは確認かくにんされていません」としています。

鳥とり養よう教授きょうじゅによりますと、トリチウムを含ふくむ水みずは体からだに取り込とりこまれるものの、ヒトの場合ばあい、24時間じかん以内いないに体液たいえき中ちゅうにほぼ均等きんとうに広ひろがるということです。

およそ10日間にちかんで50％のトリチウムが尿にょうや便びんなどを通をつうじて排出はいしゅつされ、100日にち後ごには1000分ぶんの1以下いかになるとしています。

たとえ継続けいぞく的てきにとり続つづけたとしても、排出はいしゅつも行おこなわれ続つづけるため、取り込とりこんだ水みずに含ふくまれるトリチウムの濃度のうどより高たかくなることはありません。

茨城いばらき大学だいがく大学院だいがくいん 鳥とり養よう祐二ゆうじ教授きょうじゅ

「たとえば、水道すいどう水すいにもトリチウムが入はいっていますが、子こどもの時ときからとり続つづけても濃度のうどは高たかくなっておらず、濃縮のうしゅくすることはありません」

「今回こんかいの処理しょり水すいの放出ほうしゅつによって、魚さかなで一時いちじ的てきに体内たいないのトリチウム濃度のうどが高たかくなることがあるかもしれませんが、結局けっきょくは周囲しゅういの環境かんきょうの濃度のうどと同おなじになろうとします。トリチウムの濃度のうどはやがて環境かんきょうレベルと一緒いっしょになります。体内たいないの濃度のうどがそれ以上いじょうになることはないと考かんがえられます」

Q.体内たいないに長期間ちょうきかんとどまるトリチウムもあるのでは？

トリチウムの中なかには、生物せいぶつの体内たいないでたんぱく質たんぱくしつなどの有機物ゆうきぶつと結合けつごうするものがあります。

「有機ゆうき結合けつごう型がたトリチウム」と呼よばれていて、通常つうじょうのトリチウムに比くらべると、体からだの外そとに排出はいしゅつされるのが遅おそくなることが知しられています。

復興ふっこう庁ちょうのウェブサイトによりますと、有機ゆうき結合けつごう型がたのトリチウムは体からだに取り込とりこまれたトリチウムのうちの5％から6％だとしています。

復興ふっこう庁ちょうや経済けいざい産業さんぎょう省しょうのウェブサイトによりますと、多おおくは40日にちで半分はんぶんとなり、長ながく残のこるものでは半減はんげんするのに1年ねんほどかかりますが、最終さいしゅう的てきにはすべてが排出はいしゅつされるとしています。

鳥とり養よう教授きょうじゅによりますと、有機ゆうき結合けつごう型がたのトリチウムは通常つうじょうのトリチウムよりは時間じかんがかかるものの、やがては排出はいしゅつされるということです。

茨城いばらき大学だいがく大学院だいがくいん 鳥とり養よう祐二ゆうじ教授きょうじゅ

「一部いちぶの方ほうが有機ゆうき結合けつごう型がたトリチウムを心配しんぱいされていますが、魚さかなでも住すんでいる環境かんきょうの濃度のうどと一緒いっしょになる。濃縮のうしゅくは起おこらず、身の回みのまわりの環境かんきょうと同おなじになるというのが現在げんざいの知見ちけんです」

また、放射線ほうしゃせんの影響えいきょうに詳くわしく、国際こくさい放射線ほうしゃせん防護ぼうご委員いいん会かいの委員いいんも務つとめる日本にっぽん文理ぶんり大学だいがく保健ほけん医療いりょう学部がくぶの甲斐かい倫明みちあき教授きょうじゅは、有機ゆうき結合けつごう型がたのトリチウムが実際じっさいに魚さかななどにどれくらい含ふくまれるのかモニタリングすることが重要じゅうようだとしています。

日本にっぽん文理ぶんり大学だいがく 甲斐かい倫明みちあき教授きょうじゅ

「今いまの時点じてんでさまざまな情報じょうほうに基もとづけば、有機ゆうき結合けつごう型がたトリチウムが非常ひじょうに極きわめて大おおきな問題もんだいになるということではないと思おもいますが、確実かくじつな事実じじつとして発信はっしんできるようにするために、モニタリングなどによって確認かくにんしていくことが大事だいじだと思おもいます」

Q.健康けんこうに影響えいきょうはあるのか？

放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつの健康けんこうに対にたいする影響えいきょうをみる際さいに大事だいじなことは、放射線ほうしゃせんでどれだけ被ひばくするか、その線量せんりょうをもとに考かんがえることです。

線量せんりょうが高たかい場合ばあいは遺伝子いでんしが傷きずつき、将来しょうらいのがんのリスクにつながります。

東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい・原子力げんしりょく災害さいがい伝承でんしょう館かんの館長かんちょうも務つとめ、放射線ほうしゃせんの健康けんこうへの影響えいきょうに詳くわしい長崎ながさき大学だいがく原爆げんばく後ご障害しょうがい医療いりょう研究所けんきゅうじょの高村たかむら昇のぼる教授きょうじゅによりますと、現在げんざい、トリチウムを含ふくむ処理しょり水すいを放出ほうしゅつしている基準きじゅんでは遺伝子いでんしを傷きずつけるレベルの線量せんりょうの被ひばくはしないとしています。

一般いっぱんの人ひとの1年間ねんかんの被ひばく限度げんど量りょうは1ミリシーベルトですが、高村たかむら教授きょうじゅによりますと、海洋かいよう放出ほうしゅつをしている1リットル当あたり1500ベクレルの濃度のうどであれば、仮かりに毎日まいにち2リットル飲のんだとしても1年間ねんかんで被ひばくする線量せんりょうは0.1ミリシーベルトに満みたないとしています。

長崎ながさき大学だいがく原爆げんばく後ご障害しょうがい医療いりょう研究所けんきゅうじょ 高村たかむら昇のぼる教授きょうじゅ

「たとえ処理しょり水すいを毎日まいにち飲のんだとしても、被ひばく量りょうは胸むねのレントゲン写真しゃしんをとるときよりも低ひくいです。がんのリスクが見みえてくるのが100ミリシーベルトと言いわれているので、がんのリスクが高たかまる線量せんりょうに達たっするまで100年ねん以上いじょうかかることになり、健康けんこうへの影響えいきょうは考かんがえにくい」

Q.実際じっさいのデータでは？

放出ほうしゅつされる処理しょり水すいと同おなじ濃度のうどで魚さかなを飼育しいくした試験しけんでは、魚さかなの体内たいないのトリチウムの濃度のうどは、その処理しょり水すいの濃度のうど以上いじょうには高たかまっていなかったということです。

福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつから出でた汚染おせん水すいに含ふくまれる放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつは大半たいはんがALPS（多核たかく種しゅ除去じょきょ設備せつび）と呼よばれる設備せつびで除去じょきょされますが、トリチウムは取り除とりのぞくことが難むずかしいのが現状げんじょうです。このトリチウムやごく微量びりょうのほかの放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつを含ふくんだ水みずを、さらに海水かいすいで薄うすめて海洋かいように放出ほうしゅつしています。

処理しょり水すいについて、東京とうきょう電力でんりょくは魚さかななどにどう影響えいきょうするのかを調しらべるため、去年きょねんから海洋かいよう生物せいぶつの飼育しいく試験しけんを行おこなっています。

トリチウムの濃度のうどが放出ほうしゅつされる処理しょり水すいと同おなじ1リットル当あたり1500ベクレル未満みまんの環境かんきょうでヒラメを育そだてた試験しけんを行おこなうと、ヒラメの体内たいないのトリチウム濃度のうどはその環境かんきょうの濃度のうど、1リットル当あたり1500ベクレル以上いじょうにはならなかったとしています。

そしてヒラメを通常つうじょうの海水かいすいに戻もどすと、トリチウムの濃度のうどは下さがったということです。

水産庁すいさんちょうは原発げんぱつ周辺しゅうへんの海域かいいきで捕とれた魚さかなを連日れんじつ分析ぶんせきしていて、処理しょり水すいの放出ほうしゅつが始はじまって以降いこうもトリチウムの濃度のうどは検出けんしゅつできる下限かげんの濃度のうどを下回したまわっています。

Q.トリチウム以外いがいの放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつは？

放出ほうしゅつされる「処理しょり水すい」の中なかには、トリチウム以外いがいにも基準きじゅんを下回したまわる量りょうのほかの放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつが、ごく微量びりょう含ふくまれています。

これについて、東京とうきょう電力でんりょくはトリチウム以外いがいの放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつについて、海水かいすいで薄うすめる前まえの時点じてんで濃度のうどが基準きじゅん値ち未満みまんになっていることを確認かくにんしているとしています。

「告示こくじ濃度のうど比ひの総和そうわが1未満みまん」とされる基準きじゅんで、放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつが含ふくまれる水みずをたとえ毎日まいにち2リットル飲のみ続つづけた場合ばあいでも、1年間ねんかんで1ミリシーベルト被ひばくしない濃度のうどということです。

処理しょり水すいには、ヨウ素もと129や炭素たんそ14などさまざまな放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつがごく微量びりょう含ふくまれていますが、毎日まいにち飲のんだとしても、すべての放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつによる影響えいきょうを考慮こうりょしても1年間ねんかんで1ミリシーベルトには達たっしません。

放出ほうしゅつされるときには、海水かいすいでさらに濃度のうどが薄うすめられます。

東京とうきょう電力でんりょくが国際こくさい的てきなガイドラインに沿そって評価ひょうかしたところ、処理しょり水すいの放出ほうしゅつによる影響えいきょうは海産物かいさんぶつを食たべる量りょうなどに応おうじて、1ミリシーベルトのおよそ50万まん分ぶんの1から3万まん分ぶんの1になったということです。

茨城いばらき大学だいがくの鳥とり養よう教授きょうじゅは、体内たいないにたまりやすい放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつもありますが、極きわめて少すくない量りょうなので影響えいきょうがあるとは考かんがえにくいとしています。

茨城いばらき大学だいがく大学院だいがくいん 鳥とり養よう祐二ゆうじ教授きょうじゅ

「放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつによっては骨ほねにたまりやすいものや、排出はいしゅつされるのが非常ひじょうに遅おそいものもあります。それらすべてを足たし合あわせて1年間ねんかん飲のみ続つづけても1ミリシーベルトを超こえないため、安全あんぜんだとされています。それがトリチウムと一緒いっしょにさらに薄うすめられて放出ほうしゅつされるので、本当ほんとうに低ひくい濃度のうどになります」

長崎ながさき大学だいがく原爆げんばく後ご障害しょうがい医療いりょう研究所けんきゅうじょ 高村たかむら昇のぼる教授きょうじゅ

「体内たいないに取り込とりこんだとしても、健康けんこう影響えいきょうが出でるとか、DNAを損傷そんしょうするとかいったレベルになることは考かんがえられないと思おもいます」

Q.懸念けねんを払ふっしょくするために何なにが求もとめられるのか？

茨城いばらき大学だいがく大学院だいがくいん 鳥とり養よう祐二ゆうじ教授きょうじゅ

「魚さかなを測はかって、トリチウムの濃縮のうしゅくがないという確認かくにんは必要ひつようだと思おもいます。『測はかって大丈夫だいじょうぶ』だということがいいのかなと思おもっています。知識ちしきを普及ふきゅうしていくのではなく正ただしいデータを出だしていくことが大事だいじだと思おもいます」

日本にっぽん文理ぶんり大学だいがく 甲斐かい倫明みちあき教授きょうじゅ

「原発げんぱつ事故じこが起おきる前まえまでは原子力げんしりょくは安全あんぜんだと言いっていたのに、事故じこが起おきたことについて政府せいふや東京とうきょう電力でんりょくに対にたいする不信ふしんはある。信頼しんらいを獲得かくとくしていくためには、きちんと測定そくていして客観きゃっかん的てきな情報じょうほうを発信はっしんする、わからないこともわからないなりにしっかりと把握はあくし、発信はっしんすることが必要ひつようだと思おもいます」

一方いっぽうで、原子力げんしりょく委員いいん会かいの元もと委員いいん長ちょう代理だいりで、原子力げんしりょく政策せいさくに詳くわしい長崎ながさき大学だいがくの鈴木すずき達治たつじ郎ろう教授きょうじゅは、処理しょり水すいに含ふくまれるトリチウム以外いがいの放射ほうしゃ性せい物資ぶっしについても長期ちょうきにわたる影響えいきょうを評価ひょうかしていく必要ひつようがあるとしています。

さらに、日本にっぽん政府せいふが科学かがく的てき根拠こんきょを持もって安全あんぜんだと主張しゅちょうするという姿勢しせいは大切たいせつだとしながらも、信頼しんらいされるようになるためには主張しゅちょうするだけでは足たりないとも指摘してきします。

長崎ながさき大学だいがく 鈴木すずき達治たつじ郎ろう教授きょうじゅ

「国くにや東京とうきょう電力でんりょくは、処理しょり水すいについて『わからない』と思おもっている人ひとたちがいっぱいいることをわかったほうがいいと思おもいます。何なにを心配しんぱいしていて、どう応こたえていくか、別べつの方策ほうさくはないかと一緒いっしょに考かんがえる共同きょうどう作業さぎょうでないといけないのに、説明せつめいが足たりないと思おもっているだけだとうまくいかない可能かのう性せいがある」

「海うみを生活せいかつの柱はしらにしている方々かたがたにとってみたら、本当ほんとうに必要ひつようならしょうがないですけど、海洋かいよう放出ほうしゅつはやってほしくないですし、もしほかの国くにが処理しょり水すいを海うみに流ながしたとしたら、相手あいてが『安全あんぜんだ』と主張しゅちょうしても、できればやめてほしいって思おもいますよね。食べ物たべものとか、放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつに対にたいする敏感びんかんさというのはそういうものだと思おもいます」

「住民じゅうみんたちが心配しんぱいしてしまう構図こうずがずっと続つづいています。福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの廃はい炉ろに向むけた措置そち全体ぜんたいについても、独立どくりつした立場たちばで検証けんしょうや信頼しんらい関係かんけいの改善かいぜんに貢献こうけんする機関きかんが必要ひつようだと思おもいます」