「反はん物質ぶっしつ」の重力じゅうりょく落下らっかを初はつ観測かんそく 日本人にっぽんじん2人にんを含ふくむ国際こくさい研究けんきゅうG

宇宙うちゅうにある物質ぶっしつは陽子ようしや電子でんしといった素粒子そりゅうしからなりますが、素粒子そりゅうしと質量しつりょうなどは同おなじでも電気でんき的てきに反対はんたいの符号ふごうを持もつ反はん粒子りゅうしからなる「反はん物質ぶっしつ」が物質ぶっしつと対たいをなすかたちで存在そんざいすることが知しられています。

日本人にっぽんじん研究けんきゅう者しゃ2人にんを含ふくむカナダを中心ちゅうしんとした国際こくさい研究けんきゅうグループはスイスのジュネーブ郊外こうがいにある加速器かそくきと呼よばれる巨大きょだいな実験じっけん装置そうちなどを使つかって水素すいその反はん物質ぶっしつ、「反はん水素すいそ」を人工じんこう的てきに作り出つくりだす手法しゅほうを開発かいはつしました。

そして作り出つくりだしたおよそ100個この反はん水素すいそを床ゆかから垂直すいちょく方向ほうこうに伸のびた直径ちょっけい4センチ、長ながさ25センチあまりの筒つつ状じょうの装置そうちに閉じ込とじこめて、上下じょうかどちら側がわで多おおく検出けんしゅつされるか観測かんそくを繰り返くりかえしたところ、下した側がわから反はん水素すいそが多おおく検出けんしゅつされたということです。

このことにより、「反はん物質ぶっしつ」は物質ぶっしつと同おなじように地球ちきゅうの重力じゅうりょくに引き寄ひきよせられ、落下らっかすることが初はじめて明あきらかになったということです。

研究けんきゅうグループに参加さんかしたカナダの国立こくりつ研究所けんきゅうじょの藤原ふじわら真琴まこと上席じょうせき研究けんきゅう員いんは、「反はん物質ぶっしつが重力じゅうりょくで上うえにいくか下したにいくかという疑問ぎもんに関にかんしては今回こんかいで完全かんぜんに決着けっちゃくがついたとわれわれは考かんがえています」と話はなしていました。

この研究けんきゅうは、国際こくさい的てきな科学かがく雑誌ざっし、「ネイチャー」に日本にっぽん時間じかんの28日にち発表はっぴょうされました。

「反はん物質ぶっしつ」とは

宇宙うちゅうにある物質ぶっしつは陽子ようしや電子でんしといった素粒子そりゅうしで構成こうせいされていますが、素粒子そりゅうしとは質量しつりょうなどが同おなじでも電気でんき的てきに反対はんたいの符号ふごうを持もつ反はん陽子ようしなどの反はん粒子りゅうしも存在そんざいし、反はん粒子りゅうしが集あつまった「反はん物質ぶっしつ」が存在そんざいすることも確認かくにんされています。

「反はん物質ぶっしつ」はその特徴とくちょうから“物質ぶっしつの双子ふたご”とも言いわれ、電子でんしに対にたいしては陽電子ようでんしといわれる反はん粒子りゅうしが存在そんざいし、陽電子ようでんしと電子でんしが衝突しょうとつすると「対たい消滅しょうめつ」と呼よばれる現象げんしょうがおきて消きえて無なくなり、エネルギーとなります。

ビッグバンによって誕生たんじょうした直後ちょくごの宇宙うちゅうには物質ぶっしつと「反はん物質ぶっしつ」のどちらも同おなじだけ存在そんざいしましたが、「反はん物質ぶっしつ」は「対たい消滅しょうめつ」が起おきて消きえ、物質ぶっしつだけが残のこったと考かんがえられていて、なぜ宇宙うちゅうでは物質ぶっしつが優勢ゆうせいになったのかは大おおきな謎なぞとなっています。

一方いっぽう、非常ひじょうに高たかいエネルギーの光ひかりが物質ぶっしつと衝突しょうとつした際さいには素粒子そりゅうしと反はん粒子りゅうしが生しょうじる「対たい生成せいせい」という現象げんしょうも知しられ、人工じんこう的てきに「反はん物質ぶっしつ」を作り出つくりだしてその正体しょうたいに迫せまる研究けんきゅうが行おこなわれています。

ただ、「反はん物質ぶっしつ」を作り出つくりだしても「対たい消滅しょうめつ」によってすぐに消きえてしまうため観測かんそくが難むずかしく、これまで重力じゅうりょくの影響えいきょうをどう受うけるのかなど詳くわしいことは分わかっていませんでした。

科学かがく者しゃのなかには「反はん物質ぶっしつ」は重力じゅうりょくに反発はんぱつして上昇じょうしょうすると考かんがえる人ひともいて、「反はん物質ぶっしつ」と重力じゅうりょくの関係かんけいは長年ながねんにわたる物理ぶつり学がくの疑問ぎもんとなっていて、直接ちょくせつ的てきな観測かんそくによって確たしかめられることが待またれていました。

今回こんかい、「反はん物質ぶっしつ」が地球ちきゅうの重力じゅうりょくに引き寄ひきよせられ落下らっかすることを初はじめて大だい規模きぼな実験じっけんで観測かんそくした研究けんきゅうグループは、人工じんこう的てきに作り出つくりだした水素すいその「反はん物質ぶっしつ」である「反はん水素すいそ」を磁気じきを使つかった筒つつ状じょうの装置そうちの中なかに閉じ込とじこめることで、長時間ちょうじかんにわたって消滅しょうめつさせずに重力じゅうりょくの影響えいきょうを受うけて「反はん水素すいそ」がどう動うごくのかを観測かんそくすることに成功せいこうしたということです。

2人にんの日本人にっぽんじん研究けんきゅう者しゃが貢献こうけん

「反はん物質ぶっしつ」が物質ぶっしつと同おなじように地球ちきゅうの重力じゅうりょくで落下らっかすることを実験じっけんで確たしかめた国際こくさい研究けんきゅうグループにはカナダやイギリスなどが参加さんかしていて、このうちカナダのチームに所属しょぞくする2人にんの日本人にっぽんじん研究けんきゅう者しゃは、今回こんかいの成果せいかに大おおきく関かかわっています。

このうち、カナダのチームの代表だいひょうを務つとめる、バンクーバーにある国立こくりつの研究所けんきゅうじょ、TRIUMFに所属しょぞくする藤原ふじわら真琴まこと上席じょうせき研究けんきゅう員いんは、今回こんかいの実験じっけんで「反はん物質ぶっしつ」の数かずを調しらべた検出けんしゅつ器きを開発かいはつしました。

藤原ふじわらさんは「SFの世界せかいでは反はん物質ぶっしつが重力じゅうりょくで浮うくかもしれないと言いわれていて、反はん物質ぶっしつにかかる重力じゅうりょくの影響えいきょうを測はかるのはこの分野ぶんやの夢ゆめだったので今回こんかいはじめて反はん物質ぶっしつを落おとすことによって観測かんそくできたことに非常ひじょうに興奮こうふんしています。反はん物質ぶっしつが重力じゅうりょくで上うえに行いくか下したにいくかという疑問ぎもんに関にかんしては今回こんかいで完全かんぜんに決着けっちゃくがついたとわれわれは考かんがえています」と話はなしていました。

また、同おなじくバンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学ころんびあだいがくの百瀬ももせ孝昌たかまさ教授きょうじゅは「反はん物質ぶっしつ」の動うごきをレーザーを使つかって制御せいぎょする手法しゅほうを開発かいはつしていて、研究けんきゅうグループでは今後こんご、より高たかい精度せいどで重力じゅうりょくを測定そくていし、「反はん物質ぶっしつ」にかかる重力じゅうりょくと物質ぶっしつにかかる重力じゅうりょくとの間まに違ちがいがないか、明あきらかにしようとしています。

百瀬ももせさんは「反はん物質ぶっしつの重力じゅうりょくを精密せいみつに測はかるためには『レーザー冷却れいきゃく』という技術ぎじゅつを使つかって反はん物質ぶっしつを空間くうかんで止とめたあと自由じゆう落下らっかさせる実験じっけんを行おこないます。技術ぎじゅつ的てきには可能かのうで、物質ぶっしつにかかる重力じゅうりょくと反はん物質ぶっしつにかかる重力じゅうりょくにわずかでも違ちがいがあれば大おおきなインパクトになる。まだまだやれる実験じっけんはたくさんあるので、物質ぶっしつと反はん物質ぶっしつの違ちがいを見みつけていきたい」と話はなしていました。