名刀木千把丸めいとうきせんばまる

昔むかしある村むらの大おおきな屋敷やしきに、下男げなんとしてつかわれている佐久さく（さく）やんという男おとこがいた。この佐久さくやん、どういうわけか大だいの刀好かたなすき。屋敷やしきの旦那だんなさんが縁側えんがわで刀かたなの手入ていれを始はじめると、決きまって庭にわに忍しのび込こんでは見みていた。

どうしても刀かたなが欲ほしくなった佐久さくやん、ある日旦那ひだんなさんに、どんな仕事しごとでもするから刀かたなを一本分いっぽんわけて欲ほしいと言いう。しかし旦那だんなさんに、「下男げなんが刀かたなを持もってどうする？身みの程ほどを知しれ。」と一喝いっかつされてしまい、庭にわの出入でいりも禁きんじられてしまった。それでも、どうしても刀かたなを手てに入いれたい佐久さくやん、村むらの鍛冶屋かじやに刀かたなを打うってくれるように頼たのんでみた。

佐久さくやんは刀かたなの代金だいきんの代かわりに、自分じぶんが毎日薪まいにちたきぎを一把持いちわもってくるので、それで代金だいきんにあててほしいと頼たのむ。その日ひから佐久さくやんは薪たきぎを運はこび続つづけ、千日目せんにちめには実じつに見事みごとな小太刀こだち（こだち）が出来上できあがった。佐久さくやんはこの刀かたなを、薪たきぎを千把運せんばはこんだので、木千把丸きせんばまる（きせんばまる）と名なづけた。

ある日ひのこと佐久さくやんは、山やまに草刈くさかりに遣つかわされた。そして佐久さくやんが仕事しごとの手てを休やすめ、一眠いちねむりしていると、何なにと大蛇だいじゃが現あらわれ佐久さくやんを襲おそおうとした。しかし不思議ふしぎなことに、懐ふところの木千把丸きせんばまるが光ひかり、大蛇だいじゃはその光ひかりを見みて退散たいさんしてしまう。この話はなしを番頭ばんとうの長七ちょうしちから聞きいた旦那だんなさん、佐久さくやんを呼よんで木千把丸きせんばまるを見みれば、それは屋敷やしきの蔵くらにある何百本なんひゃっぽんの刀かたなにもに勝まさる名刀めいとうだった。そこで旦那だんなさんは、佐久さくやんに木千把丸きせんばまるを譲ゆずってくれるように頼たのむが、佐久さくやんは頑かたくとして聞きかない。怒いかった旦那だんなさんは、とうとう佐久さくやんを屋敷やしきから追おい出だしてしまう。