小笠原諸島にある海底火山「福徳岡ノ場」で、11年ぶりに大規模な噴火が発生し、噴煙の高さは最大で海面から1万6000メートルに達しました。
噴火から2か月後には、沖縄県や鹿児島県の奄美地方に相次いで漂着。 その後、関東や伊豆諸島の沿岸などに次々と漂着しました。
当時、県内の87の漁港のうち、ほぼすべてで軽石の漂着が確認された沖縄県。 33の漁港で漁を自粛するなどの影響が出たほか、各地のビーチにも漂着し、観光にも大きな影響が出ました。 今回、今帰仁村のビーチを訪れてみると、去年は大量の軽石で覆い尽くされていましたが、軽石が見られるのは一部に。 ふだんどおりマリンレジャーを楽しむ人の姿も見られました。 県によりますと、漁港やビーチでは軽石の回収が進み、以前の状態に戻りつつあるということです。
恩納村の仮置き場にはこれまでに村内のビーチや漁港で回収した軽石を入れた黒い袋が積み上げられていました。 ことし6月の時点で、県内各地でおよそ9万7000立方メートルが回収され、少なくとも19市町村の仮置き場で一時的に保管されています。 すでに、いっぱいになっている仮置き場もあるということです。 沖縄県は、回収した軽石の一部を石灰岩などを採掘した現場の埋め直しに使っているほか、赤土の海への流出防止や、農地の土壌改良などに活用することを検討しています。
日本のどこにあるのでしょうか。 海洋研究開発機構の美山透 主任研究員は、海流や風のデータをもとに分布状況のシミュレーションを行いました。 その結果を見ていきます。
さらに推計では、南西諸島から東北沖にかけての太平洋を中心に広い範囲に分布していました。 日本の南岸に沿って東へ流れる「黒潮」の海流に乗って広がったと見られています。 さらに、ことしに入ってから軽石は「対馬海流」に乗って九州の西の海上を北上し、4月以降は日本海側にも漂着している可能性があるという結果も出ました。 軽石が、各地の水産業に被害をもたらした去年秋ごろには沖縄・奄美に加え、伊豆諸島や関東などへの漂着にとどまっていましたが、1年がたって以前より分布が広がっているとみられます。 美山主任研究員によりますと、今回のシミュレーションの結果をSNSなどの目撃情報と照合するとおおむね整合性がとれているということです。
時間がたって軽石が広く海上に分散し、海に沈んでいくものもあるため、以前ほどまとまって沿岸に漂着する可能性は低くなっているためだといいます。 一方で、「今後も少量の軽石の漂着が、各地の沿岸で確認されても不思議ではない。心配しすぎる必要はないが、軽石が漁船などのエンジンの冷却装置に入り込んでトラブルを起こす可能性も考えられ、軽石の情報があった場合には油断せずに注意してほしい」と話しています。
その研究結果を発表したのは、海洋生物学が専門の北里大学の大野良和特任助教らの研究グループです。 去年10月から12月にかけて沖縄県北部の国頭村で大量の軽石が沿岸に生息する自然の生き物に影響を与えていないか調査を行いました。 その結果、調査で影響が確認されたのがスナガニの一種のシオマネキで、軽石に覆われた干潟で一部が衰弱していました。 シオマネキは干潟に巣穴を掘って生息し、砂や泥の中の微生物を食べていますが、巣穴が軽石でふさがったため餌が不足したとみられるということです。 大野さんが撮影した映像には、残った一部の巣穴を巡ってシオマネキが争う様子がみられ、大きなシオマネキが自分より小さなシオマネキを巣穴から追い出す様子が記録されていました。
軽石がサンゴに与える影響は詳しくわかっていないものの、小さな損傷が発生するとみられるということで、研究グループは引き続き、影響などを調べることにしています。
去年8月以降、噴火は確認されず気象庁は、当時のような規模の噴火が再び発生する可能性は、当面は低いと考えられるとしています。 ただ、海上保安庁が実施した最近の上空からの調査では、火口の真上に薄い黄緑色の変色水の分布が確認されるなど、依然として活発な火山活動が継続しているということです。 気象庁は、今後も噴火の可能性があるとして周辺海域に噴火警報を出して付近を通る船舶などに警戒を呼びかけるとともに、引き続き噴火による軽石などの浮遊物にも注意するよう呼びかけています。
沖縄の軽石 回収進むも「処分」が課題
「軽石」は今どこに?全国シミュレーション
専門家「まとまって漂着の可能性低いが油断しないで」
軽石は海の生き物にも影響か
福徳岡ノ場では今も活発な火山活動が継続
取材を進めると、軽石は以前はなかったような場所にも広がっていると見られることがわかりました。
さらに沖縄では、軽石をめぐる新たな課題も。詳しくお伝えします。
(社会部・宮原豪一記者 沖縄局・宮原啓輔記者)
軽石を噴出した海底火山の大規模噴火