関係者によりますと、小笠原村の南鳥島で計画されているのは、地上から海上の艦艇を攻撃する陸上自衛隊の「12式地対艦ミサイル」の訓練用の射撃場です。
ミサイルの射程は百数十キロで、爆発しない演習用のミサイルを島の西側の沖合に設ける訓練海域に向けて発射するということで、再来年度以降の運用開始を目指すということです。
防衛省は12式地対艦ミサイルについて、有事が起きた場合に相手の基地などを攻撃する「反撃能力」としても使うため、射程をおよそ1000キロに伸ばす計画で、この改良型のミサイルや、開発中の高速滑空弾などの発射試験や訓練も行われる見通しです。
射程が100キロを超えるミサイルの射撃場の整備は初めてで、国内でも訓練を行えるようにすることで、離島の防衛能力の強化などにつなげたいねらいがあるとみられます。
南鳥島は、本州から南東におよそ2000キロ離れた日本で最も東にある離島で、海上自衛隊や気象庁の職員が常駐していますが、一般の住民はいません。
防衛省は南鳥島での計画を都や村に伝えていて、防衛力の抜本的な強化に向けた動きは、各地に広がっています。
防衛省「東京都と小笠原村に説明は事実 安全に万全期す」
計画について、防衛省は「東京都と小笠原村に説明を行ったのは事実だ。地元自治体からの懸念は承知していて、安全に万全を期すとともに引き続き丁寧に説明を行っていく」とコメントしています。
小笠原村は一定の理解示すも防衛省側に要望伝達
計画について、小笠原村は「日本を取り巻く厳しい安全保障環境の中で、必要なものだと受け止めざるを得ない。発射の方角などの懸念点については防衛省に検討をお願いしたいと考えている」とコメントしています。
小笠原村によりますと、南鳥島での計画について防衛省から説明を受けたのは、去年8月だということです。
訓練では、住民が暮らす父島と母島がある西の方角に向けて演習用のミサイルを発射するものの、島への直接的な影響はないと説明されたということです。
父島と母島は南鳥島からおよそ1200キロ離れていて、改良型の12式地対艦ミサイルの射程がおよそ1000キロの場合でも射程の外側に位置します。
一方、ミサイルの落下が想定される海域については、具体的な言及はなかったということです。これらの説明をもとに村では父島や母島周辺で漁をする漁業協同組合に計画を伝えたということです。
村は、計画に一定の理解を示していますが、ミサイルが発射される方角には父島や母島があることから、発射の方角を再検討するよう防衛省に求めています。
また、ミサイルの全長はおよそ5メートルと大型で、海に沈んだ場合は環境への影響が懸念されるとして回収を検討するよう求めているほか、訓練に関係する自衛隊の艦艇などが漁業者が活動する海域を通過する際には、事前に情報提供するよう求めています。
村によりますと、これらの要望について、現時点で防衛省から回答はないということで、「安全保障の問題であっても地元の懸念についてはしっかりと配慮してほしい」としています。
国産の「12式地対艦ミサイル」とは
陸上自衛隊の「12式地対艦ミサイル」は、離島への侵攻などを防ぐために地上から海上の艦艇を攻撃する国産のミサイルです。
配備先は熊本市と、鹿児島県の奄美大島、沖縄県の本島と宮古島、石垣島で、南西諸島が中心となっています。
現在の射程は百数十キロで、沖縄本島と宮古島からはこの間を通過する艦艇を射程に収めるほか、石垣島からは尖閣諸島周辺にもミサイルが到達するとみられています。
防衛省は「12式地対艦ミサイル」を相手の基地などを攻撃する「反撃能力」としても使うため、射程をおよそ1000キロに伸ばし、来年度から配備する計画です。
「反撃能力」として使うミサイル試験や訓練も実施見通し
「12式地対艦ミサイル」の発射訓練を行う際には、船舶や航空機に被害が出ないよう広大な海域や空域を確保する必要があります。
国内ではこうした場所を確保できなかったことから、これまではアメリカやオーストラリアで発射訓練を行っていました。
しかし海外での訓練は他国との調整が必要な上、隊員や装備の移動にも時間や費用がかかり、陸上自衛隊によりますと、これまで行った発射訓練は6回にとどまっているということです。
防衛省は、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を踏まえれば地対艦ミサイル部隊のさらなる練度の向上は不可欠だとしていて、関係者によりますと今回、南鳥島の周辺に訓練区域を設定することについて関係機関の了解を得たということです。
南鳥島では、射程がおよそ1000キロある改良型の「12式地対艦ミサイル」や、音速の5倍以上の速さで飛行する「極超音速ミサイル」、それに、グライダーのように滑空し、従来よりも迎撃が難しいとされる「高速滑空弾」など「反撃能力」としても使うとしているミサイルの発射試験や訓練も行われる見通しです。
“防衛力抜本的強化” 新施設の整備や部隊配備計画進む
【北大東島】
沖縄県の北大東島では、太平洋側の島しょ部で外国機の領空侵犯などの監視を強化するためとして、航空自衛隊の移動式の警戒管制レーダーと部隊が配備される計画です。来年度から工事に着手する方針で、北大東村は今月22日、受け入れを表明しました。
【馬毛島】
鹿児島県西之表市の馬毛島では、去年1月から新たな自衛隊基地の建設が進められています。アメリカ軍の空母艦載機の訓練も行えるよう、2本の滑走路や管制塔なども整備される予定で、工期はおよそ4年が見込まれています。
【佐賀空港】
佐賀県の佐賀空港では、自衛隊のオスプレイを配備する計画に伴い、空港に隣接する土地で駐屯地の建設工事が行われていて来年開設する予定です。
【呉】
広島県呉市では装備品の製造や、物資の集積、艦艇の配備など、複数の機能を持たせた防衛拠点の整備が検討されています。
【弾薬庫】
このほか、新たに弾薬庫130棟程度が全国に整備される予定です。現時点で新設が決まっているのは青森、京都、大分、宮崎、鹿児島、沖縄の6府県です。