昔、米沢の常慶院(じょうけいいん)というお寺でのお話。
その頃、このお寺の裏山にはたくさんの狐が住んでいて、その中でも弥八郎という狐が一番の化け上手だった。
ある日のこと、弥八郎ギツネが若者に化けてお寺の和尚さんのことろにやって来た。京都に稲荷の位をもらいに行く間、大切な巻物を預かってほしいというのだ。和尚さんは快く引き受け、弥八郎ギツネが帰ってくるまで、大切に管理してやった。
京都からやっと帰ってきた弥八郎ギツネは、お礼にと珍しい茶釜を和尚さんに差し出した。それは、米1粒が一晩で茶釜一杯に増えるというありがたい茶釜だった。
ある晩の事、ひょっこりとまた弥八郎ギツネが訪ねてきた。茶釜を使って、キツネの綱渡り芸を見せてあげると言うのだ。
その綱渡り芸の素晴らしさに見とれていた和尚さんは、思わず「これは素晴らしい!」と声をだした。その途端、弥八郎ギツネは綱を踏み外して綱から落ちてしまった。おまけに落ちた拍子に、茶釜のふたが割れ木の葉になってしまい、それから茶釜の米は増えなくなってしまった。
今でもその茶釜は、常慶院の宝物として残っているそうだ。