経団連と日本商工会議所、それに経済同友会による新年の祝賀会が7日、都内のホテルで開かれ、企業の経営者などおよそ1500人が出席しました。
この中で主催者を代表して経済同友会の新浪代表幹事があいさつし「実質賃金を恒常的に上昇させる重要な時期にきている。地政学リスクによる不確実性の高い時代で求められるのは、令和の時代に適した社会経済モデルに大胆に転換していくことだ」と述べました。
そのうえで「特に雇用の7割を支える中小企業の賃上げが鍵となる。適切に価格転嫁できるよう後押しし、環境作りを一層加速させていこう」と述べました。
海外経済の不確実性が高まる中、出席した大手企業のトップからは日本経済の成長への期待の声が相次ぎ、賃上げの動きを中小企業に波及させるためには大手企業としてのリーダーシップも求められることになります。
2025年の日本経済はどうなるのか、各企業の経営トップにキーワードを選んでもらいました。
ファミリーマート「米」
大手コンビニ・ファミリーマートの細見研介社長は、キーワードを「米」としたうえで、「アメリカのトランプ政権の発足による新しい関税の方針や、コメの価格の上昇による景気への影響が日本経済にとって焦点だ」と述べ、アメリカとコメという二つの意味を込めていることを説明しました。
その上で、物価上昇が続く中、消費の動向については「賃上げやボーナスを背景に去年の11月ごろから消費が活発化していると感じている。売る側として、価格以上の価値を感じてもらう商品開発力と楽しく買い物をしてもらう企画力の二刀流で勝負していきたい」と述べました。
また、賃上げについては、「人への投資と省人化をセットにして対応していきたい。売り場面積を増やすことで売り上げを伸ばし、投資の原資にしていきたい」と述べました。
アサヒグループHD「脱皮」
アサヒグループホールディングスの小路明善会長は、キーワードを「脱皮」としたうえで「高い付加価値に見合う値段をつけて市場を拡大し、それによる収益で人への投資に配分をする高付加価値創出型の経済に成長し、脱皮をしていく必要がある」と述べました。
個人消費の見通しについては「生活の価値を上げるために必要な商品やサービスは多少、価格が高くても購入する一方、むだな消費を見極めていく、メリハリ消費がより活発になる」としたうえで「顧客ニーズを踏まえた商品開発や値段の設定をしていかなければならない。画一的にすべてを値上げするのではなく、付加価値の高いものはそれに見合う価格にしていくなど、商品開発にもメリハリをつけていくことが必要だ」と述べました。
また、2025年の春闘での賃上げの考え方については「基幹事業を担っているアサヒビールが去年は6%の賃上げをした。継続的な賃上げを考えていくうえでは去年並みの賃上げを最低限、目指していく。生活の安定と持続的な向上のためには、安定的な賃上げを持続させていくことが必要だ」と述べました。
リコー「成長へ脱皮の一手」
精密機器大手・リコーの山下良則会長は、キーワードを「成長への脱皮が本格化する1年」としたうえで「昨年、大きな賃金上昇や日銀の利上げが実現し、経済の成長への脱皮の一歩を踏み出している。不確実性を乗り越え、ことしは日本経済が成長への脱皮を本格化させる1年になると期待している」と述べました。
その上で、物価高に関する製造業の対応について「付加価値の向上についてお客様と真摯に話し合い、価格を単に上げるのではなく、価値に相当した値段を理解してもらえることを努力していかなければならない」と述べました。
また、アメリカでトランプ次期大統領が就任することについて「状況によってはサプライチェーンの見直しをやらないといけない。ただ、そうなっても、中国市場が重要であるという認識は変わらないので、製造業に限らず、われわれは米中のバランスの中でしたたかに行動することを自信を持ってやっていきたい」と述べました。
日本航空「上昇気流に乗る」
航空大手・日本航空の鳥取三津子社長は、キーワードを「上昇気流に乗る」とした上で、「日本経済がだいぶデフレを脱却して、緩やかにではあるがインフレの方向に回復しているので、上昇気流に一緒に乗っていければと思っている」と述べました。
その上で、日本を訪れる外国人旅行者の見通しについては「2025年もそれほど為替の影響を受けずに引き続き旺盛なインバウンド旅客が見込めると確信している。日本には、東京や大阪だけではなく、すばらしい文化や芸能がまだまだたくさんあるので、もっと知ってほしい」と述べました。
一方、円安傾向が進む為替については「日本から海外へのお客様がコロナ禍前の7割ほどまで回復したが、そこからなかなか上昇していかない部分もあり、円高に振れてもらったほうがありがたい」と述べました。
また、賃上げについては「賃金は安定的に継続的に上げていかなければならず、ことし以降も安定的に着手していく。それとあわせて売り上げを上げることと、生産性向上を進めていきたい」と述べました。
DeNA「新価値の創造」
IT大手ディー・エヌ・エーの南場智子会長は、キーワードを「新しい価値の創造」としたうえで「人間とコンピューターの役割分担で、世界はこれから本当に大きく変わる。もっと世界で勝つことができるイノベーティブなプロダクトや事業を作って競争力を格段に上げていかないと限界を迎える」と述べました。
その上で「経営者自身が新しい技術を使って感じた感動を会社を変えるエネルギーに変換しなければならない。経営者のマインドとしては、聖域を設けずに相当な勇気を持って変革を断行することが求められている」と述べました。
また賃上げの考え方について「わが社の場合は、一律に上げるということではなく、パフォーマンスの高い人や求められるスキルを持っている人、頑張った人などに思い切って大胆に報いることのほうを重視している。一律というのは、日本的ではあるが、それが日本の課題を解決するのかどうかは疑問だ」と述べました。
三井住友銀行「正念場」
金融大手・三井住友銀行の福留朗裕頭取はキーワードを「正念場」としたうえで「およそ30年続いた低成長・ゼロ成長時代に終わりをつけ、再成長に向けて軌道に乗るかどうか官民一緒に取り組まないといけない正念場を迎えている。金融機関としてはリスクとチャンスを見極めながら日本経済が再成長できるようなお手伝いをしていきたい」と述べました。
また、日銀が去年およそ17年ぶりに利上げし、金利のある世界になったことについて「経済にダイナミズムが戻ってきている証拠なので、ポジティブに捉えている。個人の顧客からはインフレに負けないような資産運用についての相談が増えていて、貯蓄から投資への動きも活発化していると感じる。銀行としてはデジタルを最大限活用した便利なサービスを提供して決済性の預金が集まる仕組みを作りたい」と述べました。
一方、アメリカのトランプ次期大統領が就任することの影響については「減税や規制緩和はビジネスとしてはいい話だ。一方で、関税については引き上げ幅のほか、対象の品目や国、そして政策実行のタイミングなどは不透明で、政権が始まってから影響を確かめないといけない」と述べました。
三菱商事「変化→対応力と柔軟性」
大手総合商社・三菱商事の中西勝也社長は、キーワードを「変化→対応力と柔軟性」としたうえで「ことしの一番の懸念は、トランプ次期政権の発足に伴うアメリカと中国の変化だ。アメリカの政策の振れ幅は大きいと見込まれるため、柔軟性とスピード感をもってそれに対応する必要がある」と述べました。
その上で、アメリカと中国の関係について「中国の内需はかつてより弱く、関税の引き上げでアメリカへの輸出が止まれば、その影響は世界に広がる。米中の貿易問題は2国間の問題ではなく、世界に拡大することを懸念している」と述べました。
一方で、ことしの日本経済の見通しは「アメリカの経済に比べれば弱いものの、世界のほかの国々の中で無視できない市場であり、投資家からも期待できるマーケットだとみられている。トランプ次期政権の影響でどのように変化していくのか注意深く見ていく必要がある」と述べました。
また、賃上げについては「去年も4%余り引き上げたが、賃上げを継続するという政府の方針にはわれわれも賛同している。去年並みの水準の賃上げをことしも検討したい」と述べました。
三井物産「未来を創る投資」
大手総合商社・三井物産の堀健一社長は、日本経済の焦点を「未来を創る投資」とし、「人への投資と新興国・先進国を含めたバランスのよい投資を厳選し、『未来を創る投資』をしっかり行っていきたい」と述べました。
その上で、ことしの日本経済の見通しについて「賃上げの傾向は続いていて、所得の増加が消費を促し、日本経済の回復は続くと思う。当社も、社員のスキルや職責に応じ、グローバルな水準に負けない賃金を目指していきたい」と述べました。
また、アメリカでトランプ次期大統領が就任することについて「アメリカの新政権は経済成長を重視すると思うが、通商・関税政策などで不透明な部分がある。当社としては、アメリカ国内で完結する事業をさらに強化していく。また、世界の供給網=サプライチェーンに大きな動きが出た場合には、総合商社として顧客のビジネスに役立つような解決策を提供していきたい」と述べました。
日本生命 “賃上げ”
経団連の次の会長に金融業界から初めて起用される日本生命の筒井義信会長は記者団に対し「日本経済の持続的発展に向けて、さまざまなステークホルダーの意見に耳を傾けて、誠心誠意努力していきたい」と述べました。
また、2025年の賃上げについては「本格的な賃上げ3年目ということで、定着に向けた機運はさまざまなところから伺うかぎりではかなり盛り上がっているように思う。一番の課題は中小企業の価格転嫁で特に労務費の価格転嫁はまだ十分ではないという課題がある。経済界全体が理解して努力をしていく必要がある」と述べたうえで、会社としても営業職員でおよそ6%の賃上げ、内勤職員についても賃上げを行う方向で労働組合と協議をしていく意向を示しました。