
感染者の届け出の方法が変わったことが背景にあると見られます。
報告されている感染者数は、実際の感染者の一部にとどまっていて、ここに来て、こうした傾向がさらに強まっています。
亡くなる人たちでどういう人が多いのかというと、60代以上の高齢者で基礎疾患を持っている人たちだということがデータではっきりしています。
肺炎になったことがきっかけになり、嚥下(食べ物などを飲みくだすこと)機能が低下するなどして亡くなる人たちも多い状態です。
日本は世界に最たる高齢社会で、こうしたことも死者が増える要因になっています。
また、例えばイギリスでは献血のデータを見ると国民の8割くらいが、すでに感染しています。
日本では正確には分からないが、感染を経験したのはイギリスの3分の1くらいです。
自然感染した人が他の国に比べて少ないことで感染が広がっています。
オミクロン株になって感染力がかなり強まり、感染拡大のスピードが速まっています。
高齢者が多くいる高齢者施設や医療機関での感染が増えている。
こうした要因が重なり、高齢で体の弱い方が亡くなっているというのが現状だと思います。
A.ピークがいつごろ来るか予想は難しいですが、しばらく亡くなる人が増える傾向は続くのではないかと思っています。 医療への負荷はしばらく続くことを考えておいた方が良いと思います。 日本ではこれまで、ある程度感染を抑えて、亡くなる人をなるべく抑えるということを目標にしてきました。 高齢者の医療やケアを守るしくみがいままで以上に求められています。 一般の人はいままでの3年間の対策で学んだことがあり、自主的になるべく感染しないような対策をしばらく続けてもらえればと思います。
A.いま求められるのは、必要な医療をしっかりと提供しつつ、社会経済を回していくことだと思います。 このバランスが大事なのではないでしょうか。 「感染対策を集中してやる」ということをいま行えば、社会経済や教育にダメージを与える。 こういう状況だから人流を8割削減するというのは、とても社会の理解と共感を得られません。 この病気の特徴がなにかということを十分みんなで理解した上で、それに見合った対策がなにか考えていく必要があります。 亡くなる人は高齢者が多く、高齢者施設で亡くなっている人がいます。 ところが、そこには医師など医療の専門家が必ずしもいるわけではない。 自治体や周辺の医療機関が高齢者施設をサポートして、地域で高齢者を守ることが重要です。 自治体の保健医療担当と福祉担当とが連携することも重要で、こうした対応が今まで以上に求められていると思います。 自治体によっては、この高齢者施設はどこの医療機関が担当するということを決めているところもある。 こうした動きが全国の自治体でも広がっていけばいいと思います。 Q.高齢者への対策、どう考えればいいでしょうか? A.感染のリスクは一定程度あるという状態が続き、エアロゾル感染など、どこで感染がおきてもおかしくない。 ワクチンは感染の可能性をゼロにすることはできないものの、重症化を予防する効果が高いということは分かっています。 まだ打っていない人がいると思いますが、ぜひ接種をしてもらいたい。 また施設の職員など、高齢者と接触するような人たちは、自分を守るという意味もこめて、ワクチン接種や検査などを活用してもらいたいと思います。
A.いまの時点での特徴はいくつかあります。 <致死率は減少> 確かに致死率や重症化率は間違いなく下がってきています。 これは専門家のあいだで異論がない、共通の認識で、裏付けるデータも出てきています。 <感染力は極めて強い> それなら普通のかぜということでいいのかというと、現時点では、かぜとは違う部分がはっきり見えています。 それは感染力の強さです。 もともと感染力が強いウイルスで、インフルエンザよりも強い。 そしてここにきてさらに強くなっています。 致死率は低いかもしれませんが、感染する人数の規模がとても大きくなっています。 <死者数が多い> 3番目の特徴は死亡に至る人の数が多いことです。 例えば、去年2022年に新型コロナに感染して亡くなった人の数は、季節性のインフルエンザがかつて一番流行していた年に年間を通じて亡くなった人の10倍ほどになっています。 さらに、※超過死亡で見ても、季節性インフルエンザが流行していた時より、コロナが流行していた年の方が多くなっています。 (※超過死亡:実際の死亡者数が統計学的に推計される死亡者数を上回ること) <予測が難しい> もう一点重要なのは、季節性インフルエンザは文字通り「季節性」があり、冬になると多くなる特徴があります。 でも新型コロナはこの3年間、感染拡大の波を繰り返していて、季節性はありません。 <変化し続ける新型コロナウイルス> しかもウイルス自体の性状が変化し続けている。 インフルエンザも変化はしますが、それは緩やかな変化であまり驚くようなものではない。 ワクチンも前年で流行った株をもとに作るなど、予測がある程度できます。 新型コロナは、流行がどうなるのか予測がしづらいというのが現実です。 治療薬もいつでもどこでもアクセスできる状態にはなっておらず、こうした要素を考えると、いますぐ普通のかぜや季節性インフルエンザと同じだと言うことは言えず、そうした状況になるには、しばらく時間がかかるというのが私たちの考えです。
A.新型コロナの流行が始まって3年になり、私自身も含めて、元の生活や社会経済の状況に戻りたいという気持ちがあると思います。 ただ一方で、この病気は100年に一度の感染症です。 2003年に、重症急性呼吸器症侯群「SARS(サーズ)」という病気が広がりましたが、当時、「21世紀最初の公衆衛生の危機」と言われました。 中国などで確認され、あっという間に広がって非常に脅威だった。 そうした病気であっても、わずか半年でゼロになり、制圧に成功しました。 でもコロナは3年たってもまだ流行が続いています。 しかもイギリスのように80%の人がすでに感染していると推定される国でも、感染がまだ収束していない。 このウイルスのしたたかな特徴ですが、自然感染やワクチンで獲得した免疫の効果が時間によって下がってきてしまいます。 そして、免疫をくぐり抜ける特徴を持つ変異株も出てきています。 若い人は極めて重症化しにくいというのは良い特徴ですが、感染して後遺症に悩まされる人も出てきています。 直接、重症の肺炎を起こすことは最近少なくなってきていますが、循環器系に影響が出ているという知見も集まっています。 残念だけれど、この事実を正しく認識してもらう必要があります。 この現実は直視しないといけません。
A.私も「1~2か月で安心できる」と言いたいですが、この病気の特徴を考えると、本当の意味で、あと数か月で普通のかぜのようになるとは思えません。
A.いま世界をみると、どの変異株が一番主流なのかというのは国によって違う状況です。 日本でも、少し前は「BA.5」が主流でしたが、いま「BQ.1」に少しずつ置き換わりつつあります。 そのなかでアメリカで流行している「XBB.1.5」が日本でも検出され始めています。 この変異株は、免疫を回避するという「BQ.1」などと同じ性質に加えて、ヒトの細胞に付着しやすくなる、感染しやすくなるという特徴があるのではないかと言われています。 これがどう広がっていくのか、日本でもウイルスの遺伝子解析が進められています。 Q.中国で感染爆発が起きる中で、1月下旬には旧正月を迎えて多くの人が移動します。専門家が注視しているポイントは。 A.まず、中国の人が日本国内に入ってくることで、日本もいまの中国のような感染状況になると言うことでは無いと思います。 自然感染している人の割合も中国よりも多く、たくさんの人がワクチンを接種しています。 ただ、感染拡大に影響するという可能性はあると思います。 それも大事なのですが、新たな変異株が生まれる可能性は感染の頻度に比例して高くなります。 中国でこれだけの規模の感染が続くと、新たな変異株が出てくる可能性が高まるため、注視する必要があります。
A.中国政府も認めていますが、2003年のSARSの対応の際、中国は国際社会との情報の共有が遅れました。 流行が始まってから2~3か月たってそのことを認め、その後急激に感染は下がった。 地震や津波と同じように、新たな感染症はまたやってきます。 SARSの反省にたって、国際社会はその後も数年にわたって、国際社会やWHOが同じようなことが起きたときにどのように情報共有を行うべきか、ルールを定めました。 何年もかけて、関係者はずいぶん努力して国際的な約束をきめたのです。 それにも関わらず、今回の事態になっても情報の共有が遅れ、いままで国際社会がみんなで約束したこととちょっと違う事態になってしまいました。 ウイルスはパスポートがなくても世界中どこにでも行ける。 ここは国際社会が一定の約束事のもとに対策を行っていくことが重要だと思います。
A.無症状の感染者から感染が広がるという特徴が早期に見えたことで、日本では「ゼロコロナ」を目指すことはできないし、目指すべきではないと考え、なるべく亡くなる人を減らすことが目的ということでコロナ対策が行われてきました。 日本ではいまのところ、人口あたりの累積の死者数は諸外国に比べて低く抑えることができています。 その理由は3つあると思います。 1つは多くの市民が国や自治体の対策の要請に応えてくれて、感染対策に協力してくれたこと。 2点目はさまざまな制約があるなかで、保健所や医療関係者の人が、いまも続くストレスの多い状況で頑張ってくれたこと。 そして3つめは、いちど決めた方針をがむしゃらに続けるのではなく、対策の微調整を随時行ってきた。 そうした対応が功を奏した部分もあるのではないか。 一方で、社会や経済へのダメージが続き、若い人の青春のかけがえのない時期に対面で授業ができなかったり、クラブ活動が制限されたり、修学旅行ができなかったり、社会・経済・教育といったところに大きな負担が同時にかかったことも事実です。 実は2009年に起きた新型インフルエンザの対応でいろんな教訓が生まれ、保健所の強化や検査体制の拡充、リスクコミュニケーションのあり方など、いま問題になっているような課題がすべて議論され、提言書にまとめられていました。 せっかくの総括が、今回のコロナ対応に生かされてきませんでした。 今回、これだけの大変な思いを日本社会全体がしています。 仮に感染が下火になっても「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということではなく、今回の教訓を生かして、次に必ずくるパンデミックに備えることが必要なのではないかと思います。
A.イギリスでは8割の人が感染しても流行が止まっておらず、何割の人が感染すれば集団免疫がついて流行は終わり、と言うことはありません。 ワクチンを打つ、自然感染するというプロセスを繰り返していくうちに、季節性インフルエンザのような、普通のウイルスに変化していくと言うことがいちばん考えられるのではないでしょうか。 ただ、ウイルスの性質が急に変化する可能性もあります。 Q.私たちが心がけるべきことは。 A.どういう人が重症化しやすいのか、どういう場面で感染が起こりやすいのか、これまで多くの人たちが学んできました。 いままで学んできたことをそれぞれが工夫して、「新しい健康習慣」をみんなが工夫しながら行っていくということが重要です。 しかし、それを市民だけの自己責任でやってしまうというのでは、国の役割がなくなってしまいます。 市民が経験を踏まえて、対策を自主的に行ってもらえるような環境作りをすることが必要で、ここが国が汗をかくべき領域です。 例えば抗原検査キットを安い値段で提供することはできないか、あとは感染している可能性が高い場合には、会社にあまり負い目を感じずに仕事を休める環境作りなど、こういう動きを後押ししていくことも必要です。 社会経済を動かしながら、医療がひっ迫しないようにするために、市民の自主的な努力を国が支えることが重要だと思います。 例えば食堂で人が入れ替わる度に毎回アルコールで机を拭くなど、必ずしも必要ではない対策も行われています。 いままでやっていたけれど必ずしもやる必要がない対策があり、その一方で続ける必要がある対策もあります。 社会をもとに戻していく中で、いろんな人の知恵を借りながら議論していくべきだと思います。 ただ、判断基準が難しく、科学的な根拠がはっきりしていない部分も多くあります。 いろんな知見を集めて、議論してまとめなければならないと思っています。
A.マスクは外にいるとき、いつでもつけている必要はないということは、すでに言われています。 ただこのウイルスは、マイクロ飛まつ、エアロゾルが空気中に漂い感染することが多く、マスクが対策上かなり重要だと言うことが分かっています。 換気の悪いところで人が集まっていれば、間違いなくリスクが高まる。 「3密」で換気の悪い状況では、マスクは当分の間は必要だと思います。 人のいないところで1日中マスクをする必要はありません。 Q.今後もワクチンを打ち続けていくことになるのでしょうか。 A.感染の状況や、ウイルスの状況によると思います。 6回目、7回目と打っていく必要があるのか、厚労省と専門家が、議論を続けていくと思います。
A.ワクチンを接種する判断は、リスクとベネフィット(利益)の比較です。 100%安全と言うことはないし、100%効果があるわけでもない。 トータルで見て判断すると言うことです。 いまのワクチンは、重症化する人を減らすという目標に対しては有効だと思います。 いろんな考えがあることは承知していますが、重症化を予防できること、亡くなることを予防できることが目的です。 重症化予防、死亡に至るのを防ぐ効果を支持するデータはかなり出てきています。 SNSなどでいろいろな意見があります。 日本のような自由な社会では、そういういろいろな意見があると思いますが、高齢者がワクチンを打った方が良いという考えは正しいと思う。 基礎疾患のある人たちはなるべく打ってもらいたいと思います。
A.先日、厚生労働省の専門家会合で、専門家の有志が感染症法上の位置づけについての見解を出しました。 私たちが申し上げたことは、これから一番重要なことは「経済や社会を動かす」一方で、「医療提供体制を維持すること」、その2つの目的を同時に実現することが必要だということです。 「2類か5類か」の議論をする前に、この2つの目的を実現するためにどれが一番良い方法か、いまのコロナの特徴を踏まえた対策が必要だと思います。 具体的にどういったことが必要なのか、見解の中でまとめています。 仮に「5類」にした場合にどういうインパクトがあるのか。 やることの意義と予期せぬ影響が出てくる可能性など、こうしたことを詳しく考察する必要があります。
こうしたことをどう判断するのか。 最終的には政治家が判断することになりますが、5類になるとどういう良いこととネガティブなことがあるのか考慮した上で、準備をしながら段階的に進めていくべきだと思います。 いま、この感染症への見方が、一般の人々と医療関係者との間で異なってきています。 医療者は毎日感染者を見ていて、亡くなる人を見ている。 しかし一般社会では、特に働き盛りの人たちにとって、近いところでコロナに感染した人が亡くなったという事態に触れる機会は少ない。 一般の人と、医療関係者とで状況の見え方が違っているのです。 両方とも真実です。 どこからものを見るかで、見える状況が違ってくる。 市民がどう考えるか、医療者がどう考えるか、簡単に結論を出すと言うより、深い議論が必要です。 「いつどうするか」というよりプロセスが大事なのではないでしょうか。 それぞれの当事者にとって「これなら分かる」という納得感と共感がある議論が求められるのではないかと思います。
必要な医療提供と社会経済のバランスを
いまの変異ウイルスの特徴は
収束難しい 循環器系の影響、後遺症も
数か月では“普通のかぜ”にはならない
懸念される変異株は
国際社会 一定の約束事のもとで対策が必要
日本の3年間の対策どう見る
今後 どうコロナと向きあうか
今後も場面によってはマスク必要 ワクチンは
「2類か5類」かの前に 納得感・共感ある議論を