理化学研究所は、国産の初号機を開発し、研究者が利用できるサービスを27日から始めました。
中村センター長は開発の意義について「大規模な量子コンピューターの実現はチャレンジングな課題で、世界的に見てもまだまだハードルが高い技術だ。開発は長いレースになるので、われわれが技術的に貢献する余地は十分ある」と話していました。 理化学研究所の初号機は27日から本格稼働。当面は、共同で研究する契約を結んだ大学や企業の研究者に利用してもらい、さらなる改良や関連するソフトウエア開発などを加速させたい考えです。
コンピューターが計算を行う際、電気的なスイッチに置き換えます。 この際、電流を通すか通さないかの2択となります。
この状態が「ビット」で、基本単位となります。
このため、従来のコンピューターでは、あわせて8回の処理が必要になります。
量子の世界では「0」でも「1」でもある“重ね合わせ”という特殊な物理現象が存在します。これが「量子ビット」です。 この“重ね合わせ”を応用することで、従来のコンピューターでは8回の処理が必要だったプロセスが、わずか1回に。 こうした仕組みによって、超高速の計算が可能になるのです。
高速で計算を繰り返す従来のコンピューターよりも計算の回数を減らせる可能性があり、計算の対象によっては、スーパーコンピューターをしのぐ桁違いに速いスピードで問題を解くことができると期待されています。
日本では、理化学研究所のチームを率いる中村泰信センター長らが1999年に「量子ビット」を世界で初めて電気回路として作ることに成功。 従来の電気回路と同様に「量子ビット」を扱えるようになったことで、量子コンピューターの研究開発は加速し、現在では同様の「量子ビット」を使ってIT大手のグーグルやIBMなどが実用化を目指し、開発競争で世界をリードしています。 国内では、このほか東京大学や大阪大学、自然科学研究機構などもそれぞれ仕組みが異なる「量子ビット」を考案し、研究開発を進めています。
超高速の計算を可能にするのは「量子ビット」の「重ね合わせ」ですが、実用化に向けた最大の課題は、この状態が電磁波や熱などといった「ノイズ」に非常に弱く、正確な計算ができるかどうかが周辺の環境に大きく依存する点です。 理化学研究所の量子コンピューターの場合「量子ビット」からなる集積回路は、動作を安定させるために、円筒形の容器で何重にも覆って「ノイズ」を遮るとともに、「絶対零度」と呼ばれる氷点下273度近くに保ちます。
そこで、誤作動による誤りをあらかじめ検知し、訂正しながら計算する「誤り訂正」の仕組みが考案されています。 「量子ビット」が1つの場合、「誤り訂正」を確実に行うには理論上、その1万倍の「量子ビット」が必要だと考えられています。 去年、433量子ビットの量子コンピューターを完成させたIBMはことし1121量子ビットの開発を計画していますが、実用化には少なくとも100万量子ビットが必要だということです。
創薬や金融、材料開発など、社会のさまざまな分野で具体的な問題の解決に導く可能性を秘めた量子コンピューターですが、超高速の計算を可能にするにはこれらの課題を乗り越えられるかがカギで、さらなる進化を遂げられるか、注目されます。
超高速計算を可能にするのは?
【従来のコンピューター】
【量子コンピューター】
実用化に向け競争激化
ノイズと温度 技術的な壁も
松野官房長官「大きな一歩」
従来のコンピューターとは桁違いの計算能力の高さで、新薬の開発や金融市場の予測など、さまざまな課題を解決することが期待されています。
これまでのコンピューターとはいったい何が異なるのか。その仕組みや実用化に向けた課題を解説します。
国産初の量子コンピューター 本格稼働