トランプ大統領が自国第一主義の政策を掲げる中、日米両国の幅広い分野での協力が世界の平和と発展につながるという認識を共有し、関係構築を図りたい考えです。
石破総理大臣は、アメリカのトランプ大統領との初めての日米首脳会談に臨むため、6日夜、政府専用機で羽田空港を出発しました。
これを前に記者団に対し「初対面なので、お互いの信頼関係の確立のために努力したい」と述べました。
政府専用機は先ほど午前7時すぎワシントン郊外の空軍基地に到着し、首脳会談は日本時間の8日未明、ホワイトハウスで行われます。
これに続き、食事をとりながら意見を交わす「ワーキングランチ」が行われ、終了後に両首脳が共同記者会見で成果などを発表する運びです。
今回の首脳会談で、石破総理大臣は安全保障分野で日米同盟の抑止力と対処力のさらなる強化で一致したいとしているほか、経済分野ではアメリカに対する日本の巨額な投資が雇用の創出にも貢献していることを説明し、両国の国益に沿う協力関係の構築を目指す方針です。
そしてトランプ大統領が自国第一主義の政策を掲げる中、石破総理大臣としては日米両国が幅広い分野で協力することがインド太平洋地域や世界の平和と発展につながるという認識を共有し、関係構築を図りたい考えです。
トランプ大統領「話をするのを楽しみにしている」
アメリカのトランプ大統領は先月31日、ホワイトハウスの執務室で記者団に対し「来週、日本の総理大臣が訪れる。彼の側から会談の打診があった」として首脳会談が行われることを明らかにしたうえで「日本には大きな敬意を抱いている。日本が好きだ。彼らが私に会いに来て話をするのを楽しみにしている」と述べました。
石破総理大臣との首脳会談をめぐっては、トランプ大統領は去年12月の記者会見で、NHKの記者が「大統領就任式の前に会うこともあるのか」と質問したのに対し「彼らが望むなら、そうする」と述べて、就任式の前に会談する可能性も示していました。
一方、トランプ大統領は大統領選挙や就任後の演説でも、日本についてはほとんど言及していません。
ただ、経済については時折、厳しい姿勢を示していて、去年10月にイリノイ州で開かれたイベントでは、関税の引き上げについて「同盟国は敵対国よりもわれわれを利用してきた」とした上で、当時の安倍総理大臣に対し「あなたは何百万台もの自動車を輸出しているが、われわれの自動車は受け入れない」などと述べ、貿易赤字の是正を強く迫ったことを明らかにしています。
また、トランプ氏は1期目の在任中に安倍元総理と強い信頼関係を築いたとされ「私のとてもよい友人だった」などと述べ、たびたび2人の交流を振り返る場面もみられます。
先月31日にホワイトハウスで石破総理との首脳会談を行うことを明らかにした際も「安倍元総理は私のとても親しい友人だった。彼に起きたことは大変悲しく、最も悲しい日のひとつとなった」と話していました。
また、去年4月、ニューヨーク・マンハッタンの中心部にある「トランプタワー」で、当時の自民党の麻生副総裁と会談した際には、トランプ氏みずから麻生氏を出迎え「日本はすばらしい国だ。日本の人々を尊敬している」と述べています。
トランプ大統領のねらいは
アメリカのトランプ大統領が2期目の就任後、外国の首脳と対面で会談するのは、今月4日にホワイトハウスに招いたイスラエルのネタニヤフ首相に続いて、石破総理大臣が2人目です。
就任から間もない中での首脳会談は関係を重視している表れと受け止められていて、中国がインド太平洋地域で、影響力を強め、アメリカが同盟国日本に求める役割がさらに増す中、安全保障面や経済面での協力強化を図りたいものとみられます。
特に経済面では、アメリカの貿易赤字の削減やアメリカでの雇用創出につながる投資などで日本にも協力を求める機会にしたいと考えているとみられます。
また、トランプ大統領は前のバイデン政権から大きくエネルギー政策を転換し、化石燃料の増産を通じてエネルギー価格を引き下げる考えを強調していて、日本による石油やLNG=液化天然ガスの購入や設備投資などに期待を寄せているとみられます。
一方で、アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領は、国際協調を重視してきた前のバイデン大統領とは異なり、同盟国や友好国であっても利害が一致しなければ、対立や摩擦が生じることもいとわない姿勢を示しています。
トランプ大統領は大統領選挙や就任後の演説で、日本についてはほとんど言及しておらず、日本に対する方針は詳しくは明らかにしていません。
ただ、1期目のトランプ政権では、農産品の関税の引き下げなど市場開放を求めたほか、在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる「思いやり予算」を大幅に増やすことなどを求めていました。
また、これまでNATO=北大西洋条約機構の加盟国などに対しGDPに占める国防費の割合を引き上げるべきだと主張していて、日本に対しても防衛費の対GDP比を引き上げることを求める可能性もあります。
USスチール
この買収計画についてトランプ氏は去年1月末「ひどい話だ。私なら即座に阻止する。絶対にだ」と述べ、大統領に再び就任した場合には、買収を認めない考えを明らかにしました。
トランプ氏は去年12月にも、自身のSNSで買収計画について「全面的に反対する」などと投稿し、改めて阻止する考えを示しました。
この中でトランプ氏は、「かつて偉大で強力だったUSスチールが、外国の企業、今回の場合は日本製鉄に買収されることに全面的に反対する」とした上で「大統領として私はこの取り引きを阻止する。買収者は注意せよ」として日本製鉄側への警告とも受け取れる内容を記していました。
さらに先月6日には自身のSNSに「関税の導入によって、USスチールがより収益性の高い、価値ある企業になるのに、なぜ、彼ら(経営陣)はUSスチールを売却したいのか」と投稿しました。
そのうえで「かつて世界で最も偉大な企業であったUSスチールに、再び偉大さを取り戻す役割をリードしてもらえたらすばらしいと思わないか。すべてはあっという間に実現する」と主張。
みずから掲げてきた関税を実行に移せばUSスチールの企業価値は高まるとして売却に疑問を呈しました。
トランプ政権下で買収計画が承認されるかどうかについて専門家の間では、▽両社が「アメリカの鉄鋼産業の活性化や中国への対抗という観点から最善の計画だ」とトランプ大統領を説得することができれば可能性はあるとの見方もあります。
一方で、▽アメリカ製造業の象徴ともいえるUSスチールを外国企業が買収することについてアメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領が認める可能性はほぼゼロだという指摘も出ています。
通商政策
「私にとって辞書の中で最も美しいことばは関税だ。関税を賢く使う」と訴えてきたトランプ大統領。
先月20日の就任以降、さまざまな関税措置の導入を表明してきました。
このうちメキシコとカナダには、不法移民や薬物などが流入していることなどを理由に今月4日から25%の関税を課すと表明。
その後、両国が対策を講じることを約束したとして1か月間発動を停止しました。
世界に向けて関税を“交渉のカード”にして譲歩を引き出す「ディール外交」を強く印象付けた形になりました。
一方、中国に対してはアメリカで社会問題になっている薬物のフェンタニルを流通させているなどとして予定どおり4日から10%の追加関税を課しました。
これに対し、中国政府はアメリカから輸入される石炭やLNG=液化天然ガスなどに今月10日から追加関税を課すことを発表しました。
トランプ政権の1期目のときと同様、両国の間で関税の応酬となって、貿易摩擦が一段と激しくなることへの懸念が広がっています。
またEU=ヨーロッパ連合に対してもアメリカが対EUで貿易赤字を抱えていることを問題視。
「EUはわれわれにひどい仕打ちをしてきた」と述べ、追加関税の導入を検討していることを明らかにしています。
日本に対しては、選挙戦からこれまで言及は少なく、日本を名指しする形で関税を課すかどうか、不透明です。
ただ、選挙戦で公約に掲げてきた全世界を対象にした一律関税が発動されれば、日本も巻き込まれることになります。
アメリカの去年1年間の貿易赤字は1兆2117億ドル、日本円にしておよそ185兆円となり、過去最大となりました。
トランプ大統領は、一律関税を導入すれば多額の貿易赤字を削減でき、国の歳入を増やすことにもつながると強調してきました。
この一律関税については就任日には「まだ準備ができていない」と言及しましたが、すべての国からの輸入品への関税を毎月数%ずつ引き上げていくという案も検討されているとアメリカメディアは報じています。
仮に一律関税を導入すれば各国と個別に関税を撤廃するための交渉を行いそれぞれの国からアメリカにとってメリットのある譲歩を引き出す協議を進めていく可能性があると指摘されています。
アラスカが焦点になるエネルギー政策
トランプ大統領は、先月20日の就任演説で「記録的なインフレを抑えこむため国家エネルギー緊急事態を宣言する。掘って掘りまくれ」と述べ、化石燃料の増産を通じてエネルギー価格を引き下げる考えを強調しました。
また就任日には「アメリカのエネルギーを解き放つ」という大統領令に署名。
すべての政府機関に国内のエネルギー資源の開発を潜在的に妨げる可能性のある行き過ぎた規制などを特定し、30日以内に撤回や修正などを盛り込んだ行動計画を策定するよう求めています。
エネルギー資源の中では特に石油、天然ガス、石炭、水力発電、原子力などに注目するとしています。
LNG=液化天然ガスをめぐっては、バイデン前政権が環境に及ぼす影響を調査するため新たな輸出の許可を一時凍結した措置について、輸出に向けた審査を可能なかぎり速やかに再開するよう求めています。
また日本と密接にかかわるといわれるのが「アラスカ州のすばらしいエネルギー資源を解き放つ」とした大統領令です。
就任初日に署名したこの大統領令ではアラスカ州に眠る豊富な資源を活用すれば国民の繁栄につながり国の安全保障の強化に役立つと指摘。
貿易不均衡の改善にもつながるとしてLNGの開発を優先し、太平洋地域の同盟国に販売・輸出することが盛り込まれています。
この同盟国には日本や韓国などが含まれているとみられています。
日米政府関係者の間では、7日の日米首脳会談でトランプ大統領がアラスカ産のLNGを日本が購入することやLNG輸出に向けたパイプラインの建設に日本側が投資することなどを求めるのではないかとの見方が出ていました。
トランプ大統領 1期目での日米首脳会談は14回
1期目のトランプ大統領が世界の指導者のなかで最も親密な関係を築いたとされているのが当時の安倍総理大臣です。
きっかけは2016年11月の大統領選挙の直後に安倍総理大臣がニューヨークの「トランプタワー」を訪れ、まだ就任前のトランプ氏と会談したことです。
その後2人は14回にわたり対面での首脳会談を重ねました。
2017年
(1)最初の首脳会談は、就任直後の2017年2月、安倍総理大臣をホワイトハウスに招いて行われました。
トランプ大統領は首脳会談のあとの共同記者会見で「日本は重要な同盟国であり、日米同盟は平和と繁栄の礎だ」と述べ、日米関係を強化していく方針を強調しました。
会談のあと、2人は大統領専用機でトランプ大統領の別荘がある南部フロリダ州に向かい、ゴルフをプレーしたり、食事をしたりして、親密さをアピールしました。
ところが、2人が親交を深めるさなかに、北朝鮮が弾道ミサイルを発射。
安倍総理大臣とともに記者団の前に姿を見せたトランプ大統領は「アメリカは偉大な同盟国、日本と100%ともにある」と述べる一幕もありました。
両首脳は(2)5月にはG7=主要7か国の首脳会議にあわせてイタリアで、(3)7月にはG20=主要20か国の首脳会議にあわせてドイツで、そして、(4)9月には国連総会にあわせてニューヨークで会談を行いました。
(5)11月には、トランプ大統領は大統領就任後初めてのアジア歴訪を行い、最初の訪問国として日本を訪れ、日米首脳会談を行いました。
訪問中、天皇皇后両陛下と会見したほか、北朝鮮による拉致被害者の家族とも面会しました。
2018年
2018年には史上初の米朝首脳会談が調整される中、トランプ大統領は北朝鮮への対応などを話し合うため、安倍総理大臣との会談を重ねていきます。
(6)4月にはフロリダ州のトランプ大統領の別荘で2日にわたり会談したほか、(7)6月には米朝首脳会談を直前にホワイトハウスに招いて協議しました。
(8)9月には国連総会にあわせてニューヨークで、(9)11月にはG20の首脳会議にあわせて南米アルゼンチンで会談しました。
2019年
2019年には(10)4月にワシントン、(11)5月に東京、(12)6月に大阪と3か月連続という異例のペースで首脳会談を行いました。
このうち5月の来日は「令和」初の国賓として皇居を訪問し、外国の元首として初めて、即位された天皇皇后両陛下と会見しました。
(13)8月にはG7の首脳会議にあわせてフランスで、(14)9月にはニューヨークで会談を行いました。
トランプ大統領が1期目で日本との首脳会談を重ねたことについて外交筋は「トランプ大統領が安倍総理大臣との個人的な関係で信頼を置いていたことに加えて中国や北朝鮮などへの対応で日本が果たす役割を重視していたからだろう」と話しています。
トランプ政権の外交
トランプ政権は、「アメリカ第一主義」を掲げ、バイデン政権からの大幅な政策転換を進める一方、中国への対応などを優先課題にあげ、アジア太平洋地域では、同盟国との関係強化を図る立場を示しています。
《日本》
日米同盟については、「地域の安全や繁栄の礎」だとしています。
首都ワシントンでは、大統領就任直後の先月21日、ルビオ国務長官が岩屋外務大臣と会談し、アメリカ側の発表では、「中国による安定を損なう行為への対処を含め、インド太平洋地域における脅威への対応について意見を交わした」としています。
また、ヘグセス国防長官も先月、中谷防衛大臣と電話で会談し、指揮・統制の枠組みを向上させることなどを確認しました。
《多国間、日米豪印》アジア太平洋地域では、多国間の枠組みも重視し、同盟国などとの関係強化を図る立場を示しています。
トランプ大統領の就任直後に首都ワシントンで、日米豪印4か国のクアッドの外相会合を開き、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力の強化を確認しました。
また、中国が海洋進出を強める南シナ海では、今月5日、自衛隊やアメリカ海軍に加え、フィリピン、オーストラリアの4か国で、トランプ政権の発足後初めてとなる共同訓練を行い、相互運用性を強化しました。
《中国》政権の外交や安全保障を担う要職に対中強硬派とされる人材を起用し政権発足当初から厳しい姿勢を示しています。
今月4日には、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す措置を発動したのに対し、中国は、アメリカの石炭やLNG=液化天然ガスなどに今月10日から追加関税を課す対抗措置などを発表し、早速対立しています。
一方で、アメリカ側は、トランプ大統領が習近平国家主席と近く電話で会談する見通しを示しています。
また、ウクライナ情勢をめぐり、習主席が事態の解決に向けて役割を果たすよう求めたとしているほか、ロシアや中国とともに、核兵器を削減することに意欲を示しています。
《中東》
1期目に続いて、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしています。
2期目の就任後、トランプ大統領がホワイトハウスで初めて会談した外国首脳は、イスラエルのネタニヤフ首相で、会談後の共同記者会見では、パレスチナのガザ地区をアメリカが長期的に所有し再建するとした上で、地区の住民を別の場所に移住させると発言し、中東諸国だけでなく世界各国から反発や懸念の声が上がりました。
《ウクライナ》
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって、トランプ大統領は、早期終結に向けて、プーチン大統領との首脳会談に繰り返し意欲を示す一方、ロシア側の対応次第では、関税や制裁の措置をとるとして揺さぶりもかけています。
また、産油国のサウジアラビアとOPEC=石油輸出国機構に原油価格の引き下げを要請すると主張し、原油相場の引き下げを通じて産油国ロシアに財政面で打撃を与えたい考えも示しています。
《北朝鮮》
北朝鮮をめぐっては、トランプ大統領は、就任直後に放送されたメディアのインタビューで、キム・ジョンウン(金正恩)総書記と接触を図る意向を示しました。
1期目では、3回にわたって会談しましたが、北朝鮮の非核化は進まず、2期目でも首脳会談の実現を目指すのか、注目されています。
《パリ協定、WHO》
大統領就任初日に▽地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱するための大統領令や、▽WHO=世界保健機関から脱退するための大統領令に署名し、「アメリカ第一主義」を推し進め、国際社会に波紋を広げています。
《NATO》トランプ大統領は、ウクライナ情勢をめぐりヨーロッパ各国がより役割を果たすべきだという考えを示していて、NATO=北大西洋条約機構の加盟国に対し、GDPに占める国防費の割合を目標としてきた2%ではなく、5%に引き上げるべきだと主張しています。