また日本のグループに、盗む品目や送り先をベトナムから伝えていたとみられる指示役の男女2人を特定し、捜査を進めています。
警視庁などの合同捜査本部は、ベトナム人のグループが各地のドラッグストアで大量に万引きした商品を複数の拠点に集め、ベトナムに送っている疑いがあるとして、去年11月、関東や大阪にある拠点を一斉に捜索し、グループのメンバー11人をこれまでに逮捕しています。
警察当局によりますと、合同捜査本部は、これまでに逮捕したメンバーの供述や、押収したスマホの解析結果などをもとに盗品が送られていた首都ハノイの拠点を突き止め、情報収集を行っています。
拠点所在地には倉庫 昼夜を問わずトラック
NHKが先月、現地を訪ねたところ、拠点の所在地には、倉庫のような建物がありました。
近くに住む男性は取材に対し、「数か月前まで昼夜を問わずトラックが止まり、荷物が運び込まれたり、発送されたりしていた。出入りしていた人物は、『日本から輸入した薬などを扱っている』と話していた」などと証言しました。
日本の拠点が摘発された翌月の去年12月ごろからは、運び込まれる荷物が少なくなったということです。
指示役のベトナム人 メンバーに盗む品目などで伝達か
合同捜査本部は、グループのスマホの解析などから過去に日本に滞在歴がある指示役のベトナム人の男女2人を特定し、この2人がベトナムから通信アプリを使って日本のメンバーに盗む品目や、盗品の送り先を伝えていたとみて捜査を進めています。
段ボールを受け取る女性 “日本で購入してここから配送”
窃盗グループの拠点とみられる建物は、首都ハノイの中心部から車で30分ほど離れた住宅や商店が建ち並ぶ地区にありました。
細い路地にある倉庫のような建物で、先月、最初に取材した日はシャッターが下りていましたが、数日後に再び取材すると若い女性がいて、バイクで届けられる段ボールを受け取るなどしていました。
日本のメディアだと説明したうえで、女性に建物の中にある物について尋ねたところ、「客から注文を受けた商品を日本で購入して、ここから配送している。化粧品やサプリメント、洋服などを扱っている」と答えました。
「日本で万引きされた商品ではないか」と聞くと、「そのようなことはしていない。空港の免税店などで購入した物を扱っている。証明する領収書もあったが、それは捨ててしまった」などと話しました。
建物の中には化粧品や日本の健康食品
建物の中には取材した当日も段ボールや化粧品、日本の健康食品などが置かれていました。
近くに住む男性は、「去年5月ごろから男性1人と数人の女性が、商品を受け取ったり、配送したりしていた。運ばれてくる箱はテープで密閉されていて、薬や洋服など日本からの輸入品だと聞いていた。半年ほど前までは昼夜を問わず車が来て荷物の出入りがあったが、去年12月ごろからは、荷物が送られてくることが少なくなった」と話していました。
化粧品の市場規模 10年で倍以上に拡大 日本の商品人気
なぜ、日本の商品が狙われるのか。
経済成長が続くベトナムでは、国内市場の拡大が続き、なかでも化粧品の市場規模は、この10年で2倍以上に拡大しているというデータもあります。
高品質の日本の化粧品やサプリメントの人気が高まる一方、模造品も多く流通し、現地当局による摘発が相次いでいます。
消費者の不信感から、日本で販売されている正規品の需要がさらに高まっているということです。
日本の捜査関係者はベトナム人が関わる窃盗事件が相次ぐ背景の1つに、ベトナム国内での日本の商品への信用の高さや人気の広がりがあるのではないかとしています。
ドラッグストアの万引き被害 過去最多
警察庁によりますと、ドラッグストアで医薬品や化粧品が万引きされる被害は去年1年間に全国で1万5161件発生し、統計を取り始めて以降、最も多くなりました。
特に外国人の窃盗グループや観光客によって1度に大量の商品が盗まれる被害が深刻で、警察庁が2021年から2024年まで3年間の万引き事件の統計で分析したところ
▼日本人が検挙された事件では、1件あたりの被害額が1万774円だった一方
▼外国人は1件あたり7万8936円と高額になりました。
外国人が盗んだ商品を大量に母国に送るケースも確認されていて、警察当局は、外国人のグループによる組織的な窃盗事件への対策を強化しています。
また警察庁は、大手ドラッグストアなどが加盟している業界団体に対し、外国語で万引き防止を呼びかけるポスターを掲示したり、店内放送を行ったりすること、高額な商品は空箱だけを陳列棚に並べることなど、対策を呼びかけています。
海外から犯罪指示も 日本の警察の捜査権及ばず
特殊詐欺や強盗など、海外から犯罪の指示が行われるケースはほかにも相次いでいますが、日本の警察の捜査権は外国には及ばず、容疑者を特定した場合でもその国で逮捕することはできません。
相手国にICPO=国際刑事警察機構や外交ルートで働きかけて、身柄の拘束などを求めるか、日本で事件を起こして国外に逃げた外国人については、日本政府の要請に基づいて逃亡先の国が自国の法律で処罰する「代理処罰」を要請するケースがあります。
今回の事件の捜査で、どこまでベトナム側の協力が得られるかは不透明で、国境を越えた組織犯罪への対応の難しさも課題になっています。