トランプ大統領「日本が記録的な量の米産LNGの輸入開始」
トランプ大統領は7日、ホワイトハウスで行われた石破総理大臣との首脳会談のあとの記者会見で「日本がまもなく記録的な量のアメリカ産のLNGの輸入を新たに開始すると発表できることをうれしく思う」と述べ、日本がアメリカ産のLNGの輸入量を大幅に増やすことになったと説明しました。
そのうえで「アラスカの石油とガスに関し、日米の間で何らかの共同事業を行うことについて話していて、非常に興奮している」と述べ、アラスカから日本にLNGを輸出するうえで日本の投資を呼び込みたいとの意向を示しました。
トランプ大統領は政権の最重要課題に、貿易赤字の削減や化石燃料の増産を掲げています。
地理的に日本に近く天然ガスなどが豊富に埋蔵されるアラスカから日本にLNGを輸出することで、貿易赤字の削減を実現するとともにアラスカの経済活性化にもつなげるねらいがあります。
一方、日本にとってはLNGを購入する際の価格や契約期間、アラスカのプロジェクトが計画どおりに進むかなど課題も多く、今後、交渉が進むかが焦点となります。
アラスカ LNG基地 6兆6000億円規模の巨大プロジェクト
原油や天然ガスなどのエネルギー産業が主力のアラスカ州では、既存の施設の生産量が減少していることをうけて新たなプロジェクトを推し進めるため2013年に開発公社が設立されました。
開発公社がてがける新たなLNG=液化天然ガス開発プロジェクトは州北部のノース・スロープで天然ガスを生産し、南部ニキスキのLNG基地までパイプラインで送り、輸出しようという計画です。
パイプラインは全長およそ1300キロに及びます。
ニキスキのLNG基地では天然ガスを年間2000万トン液化する施設と船にLNGを積み込むための海上桟橋を建設。総工費は440億ドル、日本円にして6兆6000億円規模になる巨大プロジェクトです。
LNGの出荷は、2031年から32年の間を予定していて開発公社ではアジア太平洋地域の日本などの同盟国に供給したいとしています。
開発公社会長フランク・リチャーズ「日本の投資歓迎」
開発公社のフランク・リチャーズ会長は日本にはおよそ50年前からLNGを供給し、関係は深いとしたうえで、日本がアラスカのLNGを受け入れるメリットとして▽中東などの産出国と比べて地理的に近いことや▽輸送でホルムズ海峡など地政学上のリスクがある場所を通る必要がないことを挙げています。
またリチャーズ会長はトランプ政権などの後押しでプロジェクトに必要な資金のうち300億ドル以上については投資家が連邦政府の融資保証を受けられるようになるという見通しを示したうえで今回の日米首脳会談について開発公社のリチャーズ会長は「トランプ大統領がアラスカ産LNGの日米共同事業について話したのはとてもいいニュースだった。今後、協議された内容の詳細が明らかになるだろう。石破総理大臣が表明したアメリカへの総額1兆ドルの投資のうちアラスカへの投資は小さな一部だがプロジェクトを進めるわたしたちにとってはすばらしく歓迎すべきことだ」と述べました。
トランプ大統領 アラスカ重視の理由
トランプ大統領がアラスカを重視する背景にはさまざまな理由があります。
【貿易赤字の削減】
その1つが貿易赤字の削減です。アメリカは去年1年間の貿易赤字が1兆2117億ドル、日本円にしておよそ185兆円となり、過去最大となりました。
もともとはビジネスマンであるトランプ大統領にとって貿易赤字は“負け”という意識が強く貿易の不均衡の是正、貿易赤字の削減に向けてアラスカに眠る豊富な化石燃料の輸出は重要な“武器”になると考えているものとみられます。
実際、アラスカ州選出の共和党のサリバン議員はアラスカ州のLNG=液化天然ガスをアジアに輸出できれば100億ドル、日本円にして1兆5000億円余りの貿易赤字を削減できるという試算を示しています。
【地理的な優位性】
また地政学上の観点も大きな要因となっています。
アラスカ州はアメリカ本土から離れている一方、日本などアジア諸国と近く、LNGの輸出拠点として適しているといいます。
日本や韓国などの同盟国にとっても、アラスカのLNGは中東産やアメリカのほかの地域などと異なり、ホルムズ海峡やパナマ運河を通る必要がないため運搬コストや地政学上のリスクを抑えることが可能になります。
さらに日本はロシア産のLNGを調達するなかで、エネルギー安全保障の観点から同盟国であるアメリカからのLNGを受け入れるという説得力のある理由を見いだしやすいとアメリカ側は考えているとみられます。
【東南アジアでの存在感】
また東南アジアで中国の影響力が増す中、石炭などと比べて環境負荷が低いとされるLNGをアメリカから輸出できればエネルギーを通じて東南アジアでのアメリカの存在感を高めることができるというねらいもアメリカにはあると指摘されています。
専門家「購入価格、売買契約の内容が非常に重要」
日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員はアラスカ州のエネルギー開発などを進める大統領令について、「就任初日に署名した大統領令の1つで、重点課題として位置づけており、トランプ大統領が国益の最大化やアメリカ第一主義を追求するために使おうとしている」と述べました。
また大統領令では、LNGの販売先として「アジア太平洋の同盟国」と明記されており、日本などへの販売が成立することになれば「貿易赤字を削減する手段になる」と指摘したうえでLNGのプロジェクトは数兆円規模の非常に大きな案件になるためトランプ大統領としては「ディール」=取り引きとして目に見えやすい形でアピールできることになるという認識を示しました。
日本にとってアラスカ産のLNGを購入するメリットについては、同盟国からの調達となり安全保障面や日米関係の強化につながるだけでなく、アラスカは日本と距離が近く輸送の時間やコストを抑えられることがポイントだと指摘しています。
一方、課題としては、輸出にはさまざまなインフラの建設が必要でそのコストが転嫁されLNGの価格が高くなればメリットを相殺することになるとして、購入価格、売買契約の内容が非常に重要になると指摘しました。
そのうえで日本は将来、需要がどんどん増える状況にはないとして今後の交渉では、需要が拡大する東南アジアでの市場拡大を目指し、水素やアンモニア、原子力などを含めた幅広いエネルギー協力を日米で一緒に進めていくことが重要になるという認識を示しました。