初めて首都圏での開催となることしのカーリングの日本選手権は男女ともに10チームが出場して横浜市を舞台に開かれ、最終日の9日、男女の決勝が行われました。
男子に続き午後2時半から行われた女子の決勝は、2次リーグ1位のフォルティウスと、準決勝でオリンピック2大会連続でメダルを獲得しているロコ・ソラーレを破った北海道銀行が対戦しました。
フォルティウスは、1点を追う第6エンドに吉村紗也香選手がガードストーンに当ててハウスと呼ばれる円の中心近くにある相手のストーンをはじく絶妙なテイクアウトを見せ、一挙に3点を奪って逆転しました。
7対5とリードして迎えた最終の第10エンドに北海道銀行に2点を取られて同点とされ延長の第11エンドに入りましたが、有利な後攻のフォルティウスは優位にストーンを配置すると、最後は吉村選手がプレッシャーのかかるドローショットを確実に決めました。
フォルティウスは8対7で北海道銀行を破り、2021年12月にチームが現在の体制になってから初めての優勝を果たしました。
フォルティウスは、来月韓国で開かれる世界選手権の代表に決まったほか去年のこの大会で優勝したSC軽井沢クラブと、オリンピック2大会連続でメダルを獲得し世界ランキングで日本勢最上位のロコ・ソラーレとともに、ことし9月に行われるオリンピックにつながる日本代表決定戦に臨みます。
フォルティウス 吉村紗也香選手 インタビュー 2分39秒
吉村紗也香「自信持って楽しく最後までプレーできた」
フォルティウスのスキップ、吉村紗也香選手は「めちゃくちゃうれしいし、とてもホッとしている。相手もベストパフォーマンスを出していたが、私たちもやれることをやったし第6エンドをビッグエンドとすることができて、自分たちに流れをつくることができた。相手も2点をうまく返してきたりしたが、流れはいつもこちらにあったので、焦らずにいこうとみんなで話していた」と笑顔で試合を振り返りました。
強豪がひしめくなか、大会を8戦7勝で終えたことについて「毎試合、アイスを読むことに集中していたし、相手がいいショット決めても最後まで集中してやっていた。やることはやってきたので、自信を持って楽しく最後までプレーできた」と話しました。
そして、3月の世界選手権や9月の日本代表決定戦に向けて「まだここは通過点の1つなので世界選手権で日本代表としてオリンピックの出場権をとってきたい。そして決定戦のある9月までは時間もあるので、フィジカルも技術もさらにレベルアップをして、今よりも強くなったフォルティウスを見せたい」と意気込みを話していました。
小野寺佳歩「本当に夢のよう 次は世界 うれしい」
フォルティウスのサード、小野寺佳歩選手は、優勝して3月の世界選手権の代表になったことを踏まえ「本当に夢のよう。次は世界で戦えることをうれしく思う。少しだけ休んで体づくりをして、ピークを本番に合わせたい。9月にはSC軽井沢クラブと、ロコ・ソラーレと対戦するので、作戦面や技術面を向上させていきたい」と話していました。
仁平美来「悔しいのひと言 」
北海道銀行のスキップ、仁平美来選手は、涙を流しながら取材会場に現れ「悔しいのひと言です」と絞り出すように話しました。
そして、フォルティウスとの決勝について「第6エンドに吉村紗也香選手のナイスショットで3点を取られてから、なんとか耐えていたが9エンド目で2点取られて追いつくのが精いっぱいになった。試合内容は悪くないが、相手のショットの精度が私たちを上回った」と振り返りました。
そのうえで「オリンピックはいけなくなったが、4年後に向けてもっと強くなって、まずは来年の日本選手権に帰ってきたい。スキップとしてもっといいコールができたら、もっといい作戦を立てられたらと思うが、チームメートはよく投げてくれたし、よくスイープしてくれたので感謝しかない」と涙を流しながら話していました。
田畑百葉「悔しさ 絶対に晴らしたい」
北海道銀行の田畑百葉選手は「私の前の3人がショットをつないでくれたのに、私がつなぎきれずみんなに申し訳ない。この決勝で去年の悔しさを晴らすと決めて臨んでいた。プレッシャーもあったが、オリンピックに出たい思いがみんな強くて、絶対に優勝するという気持ちだったが残念。自分のショットのピーキングがまだまだだった。この悔しさを4年間かけて絶対に晴らしたい」と涙を流しながら話していました。
フォルティウス 頂点の要因は
初めての首都圏開催。横浜市を舞台に行われたカーリングの日本選手権は、9日閉幕し、女子は、群雄割拠と言われる混戦を国際大会でも経験豊富な吉村紗也香選手が率いるフォルティウスが制しました。
オリンピック2大会連続でメダルを獲得しているロコ・ソラーレのスキップ、藤澤五月選手が「日本の女子のレベルは急速に上がっている。日本選手権を勝ちきるのは容易ではない」と話していた今大会。
世界ランキング上位25チームの中に5つのチームがいる今の日本女子は、まさに世界レベルの争いでした。
世界ランキング5位のロコ・ソラーレのほか、9位の北海道銀行、15位の中部電力、去年のこの大会で優勝し23位のSC軽井沢クラブ。強豪ひしめくなか、世界11位のフォルティウスは1次リーグ4試合と2次リーグ3試合、それに決勝を戦い、2次リーグでロコ・ソラーレに逆転負けした以外は、安定した試合運びで8戦7勝と強さを見せました。
フォルティウスが頂点に立てた要因は2つ。
1つ目は戦術の充実です。
吉村選手は、おととし出産を経験して今シーズンから復帰。競技を離れた際、外からチームやカーリングを見て、戦術面の重要性を再認識したといいます。
ショットごとに目まぐるしく変わる展開のなか、限られた持ち時間でベストな戦術を選択するには、より多くの作戦の引き出しを持っていることが重要だと考えました。
その戦術の充実のカギになったのが、新しいコーチの存在です。
およそ1年前に就任したスウェーデンの現役カーリング選手、ニクラス・エディン選手です。
エディン選手は、オリンピックに4大会連続で出場し3つのメダルを獲得。
前回2022年の北京大会では、金メダルを獲得した世界屈指の選手で、世界の舞台で戦ってきた豊富な知識と経験があります。
現役の選手のため、常にチームに帯同できるわけではありませんが、遠く離れていてもオンラインで戦術についての話し合いをすることで、作戦での気づきや改善点を得られたといいます。
その成果は今大会にあらわれ、司令塔のスキップ、吉村選手がショットごとに早めに戦術を考え、チームメートに伝える姿がありました。
相手よりも先手先手で動くことによって自分たちがペースをつかみ、良いプレーはプラスに、ミスが出てもそれを帳消しにするような流れを作っていったのです。
そして、勝利の要因のもう1つが、オリンピックにかけるなみなみならぬ覚悟です。
前回の北京大会の代表決定戦では、銀メダルを獲得したロコ・ソラーレと争い、先に2勝して王手をかけたものの、そこから3連敗してオリンピック出場を逃しました。
吉村選手や小野寺佳歩選手にとって同じ北海道北見市出身の同い年である、藤澤選手や吉田知那美選手、鈴木夕湖選手らが2大会連続でオリンピックで活躍するなか、悔しさとともに次の大会は譲れないという思いが強くなっていったといいます。
大会前、吉村選手が、「今回は全員が覚悟を持って日本選手権に挑む。優勝しか考えていない」と宣言したとおり、選手全員が1つの目標に向かい力強いプレーにつなげました。
「これで終わりではない。ここからがスタート。まずは世界選手権で日本の代表としてオリンピックの出場権を獲得してきたい」と話した吉村選手。
その表情には、すでに日本を背負う責任と使命感が感じられました。
“新生”フォルティウスがまずは来月の世界選手権で世界の強豪を相手にどのような戦いを見せるのか注目です。
大会実行委員長 初の首都圏開催「成功と言っていい」
大会の実行委員長を務めた日本カーリング協会の酒巻智副会長兼専務理事は、初めての首都圏開催となる横浜市での大会について「成功と言っていいと思う。ポイントは氷の状態をよく保てるかどうかと、観客席が埋まるかどうか、それに大会を運営する資金の確保だったが、いずれも成功したと思う」と総括しました。
そして「多い時で2000人を超える観客が来場して、試合の進行とともにどんな化学反応を見せるか興味深かったが、われわれが思っていた以上にカーリングを知っている方々が多く、ナイスプレーのときの反応、ミスをしたときの激励の拍手に驚いた。選手たちも受け止める何かがあったと思う」と評価しました。
そのうえで「競技人口を増やしていくためには、まだカーリング場がない。次のステップとしては、自治体などに競技会場を作ってもらうような動きがあればいい。今回、少なくともそこにつなげるような取り組みはできたと思う」と手応えを口にしていました。