危険運転致死傷罪をめぐっては、適用要件があいまいだとの指摘があり、有識者検討会が去年11月、見直しの必要性を指摘する報告書をまとめ、法務省に提出していました。
これを受け、鈴木法務大臣は10日に開かれた法制審議会の総会で「危険かつ悪質な運転行為による死傷事犯に適切に対処できていないのではないかとの観点から、さまざまな指摘がある。検討会のとりまとめを踏まえ、審議をお願いしたい」と述べ、危険運転致死傷罪の適用要件の見直しに向けた法改正の検討を諮問しました。
具体的な論点は、飲酒運転と高速度での走行について、危険運転にあたるケースをどう明確にすべきかで、有識者検討会の報告書で指摘された、数値基準を設けることを含め、議論が行われます。
タイヤを滑らせる「ドリフト走行」などの暴走行為のような運転を要件に加えるかどうかも諮問項目となっています。
法務省は、法制審議会から答申を受け取りしだい、国会への提出を目指して、法律の改正案の策定を進める考えです。
《事故の遺族は…》
きょう命日「遺族が闘うことなく妥当な判断なされること期待」
4年前の2021年、大分市の県道の交差点で当時19歳の被告が運転する時速194キロの車に衝突され、弟の小柳憲さん(当時50歳)を亡くした姉の長文恵さん(59)は事故のあと、危険運転の罪の適用を求めてきました。
法制審議会に法改正の検討が諮問されたことについて、長さんは「速度について基準が設けられれば時速194キロは適用の対象になると思う。ただ、基準に満たない部分についても慎重に議論してほしい。遺族が闘わなければ危険運転の罪が認められないのは大きな問題だと思うので、今後は遺族が何も闘うことなく妥当な判断がなされることを期待している」と話していました。
そのうえで「事故が起きたことを厳しく罰するだけの法改正ではなく、悪質な事故が起きないようにするにはどうするべきかも議論してほしい」と話していました。
小柳さんが亡くなった事故で、大分地方裁判所は去年11月、危険運転の罪が成立するとして被告に懲役8年の判決を言い渡し、「量刑が軽い」とする検察と過失運転を主張する被告側の双方が控訴しています。
9日の夜が事故の発生からちょうど4年で、10日が小柳さんの命日だということで、長さんは「きのうの夜、現場に行って、寂しい気持ちになったが、1審を超える量刑を求めてこれからも闘い続けていこうと決意をした」と語りました。
「『危険な運転は危険だ』という判決が出るよう法改正を」
津市に住む大西まゆみさんは、7年前、息子の朗さん(当時31歳)を事故で亡くして以降、危険運転致死傷罪を適用する基準を明確にすべきだと訴えてきました。
2018年12月、津市の国道で飲食店の駐車場から出てきたタクシーにおよそ146キロの速度で乗用車が衝突し、朗さんを含む乗客3人とタクシー運転手のあわせて4人が死亡しました。
乗用車の運転手は危険運転致死傷の罪で起訴されましたが、裁判では「制御困難な速度で運転していたことは認められるが、被告がその危険性を具体的に思い描いていたとは言えない」などとして過失運転致死傷の罪が適用され、懲役7年の判決が確定しました。
大西さんは「146キロというスピードは危険だと決まっていると思うが、今の法律では危険運転と認めらなかった。息子の判例を基準にほかの交通死亡事故でも過失運転を適用した判決が出ている。息子の死を悲しいだけで終わらせるのではなく、法律を改正しなくてはならない」と話しています。
大西さんはこれまで、ほかの遺族とともに署名活動を行い、有識者検討会に要望書を提出したり、ヒアリングを受けたりしていて「法定速度の1.5倍を超えたら危険運転と認められる、というように数値基準を設けてほしい。危険運転にあたる基準を明確にすることで事故の抑止になる」と訴えてきたということです。
大西さんは今回の諮問について「『危険な運転は危険だ』という判決が出るよう法改正してほしい。息子もおかしいと思っているはずだ。法改正されるまで活動を続けることが遺族の使命だと思う」と話していました。
【政治部記者リポート】どこまで要件を明確にできるかが焦点
危険運転致死傷罪をめぐる議論は、具体的な法改正に向け、新たな段階に移りました。
法律の適用要件のあいまいさは、各地の裁判で指摘されていて、見直しを求める遺族らの強い訴えが国を動かしたと言えます。
審議会では、処罰対象となる飲酒運転や高速度での走行を、一律に判断できる数値基準を設けることも含め、議論が行われます。
ただ基準の設定をめぐっては、どの程度なら間違いなく危険で悪質と言えるのか、専門家の間でも意見がわかれていて、どこまで要件を明確にできるかが焦点となります。
(政治部 山澤実央記者)