日産 “最終的損益 800億円の赤字” 今年度決算見通し修正
日産自動車は13日、今年度の決算見通しを修正し、これまで未定としていた最終的な損益が800億円の赤字となる見込みだとしました。
販売不振のアメリカでてこ入れのための費用が膨らんでいることに加えて、人員削減などのための損失を計上したためです。
また、売り上げについてもこれまでの見通しより2000億円少ない12兆5000億円、本業のもうけを示す営業利益も300億円少ない1200億円を見込んでいます。
一方、去年4月から12月までの9か月間の決算については、売り上げは前の年の同じ時期より0.3%減って9兆1432億円、営業利益は86.6%減って640億円、最終的な損益は98.4%減って51億円にとどまるとしています。
ホンダと日産 経営統合協議の打ち切り決定
ホンダと日産は13日、それぞれ取締役会を開いて去年12月に結んだ基本合意書を撤回し、経営統合に向けた協議を打ち切ることを決めました。
両社は協議打ち切りの理由について「意思決定や経営の施策実行のスピードを優先するためには、経営統合の実行を見送ることが適切であると判断した」としています。
両社は持ち株会社を設立したうえで、両社を傘下におさめる形での経営統合を目指して協議を始めました。
しかし、ホンダはその後、経営の主導権を強めるため、この枠組みとは別に日産の株式を100%取得して完全子会社化する案を打診した上で、この案を受け入れなければ協議の継続は難しいという考えを示し、この案に強く反発した日産が経営統合の協議を打ち切る考えをホンダ側に伝えていました。
一方で、両社は去年8月から続けてきたソフトウエアの研究開発やEV分野での協業については、引き続き連携していくとしています。
両社の経営統合には、規模の拡大を通じて、EV=電気自動車やソフトウエアなどの開発力の強化や協業によるコスト削減などを進めるねらいがありましたが、統合協議の打ち切りによって、両社とも戦略の見直しを迫られることになります。
とくに業績が悪化している日産は、経営の立て直しが差し迫った課題で、収益性の改善に向けて具体策を実行していけるかが大きな焦点です。
ホンダ 三部敏宏社長 会見
ホンダの三部敏宏社長は記者会見で、協議を打ち切った経緯について、「12月の会見でもお伝えしたとおり、あくまでも検討をスタートした段階であり経営統合自体を決めていたわけではない。両社のトップマネジメントを中心に第三者も交えた統合準備委員会を開催し、経営統合による効果について議論を重ねてきた。両社の経営統合によりプラットフォームや購買、研究開発といった領域から間接部門まで、さまざまな領域での統合が図れれば期待できる効果、ポテンシャルは非常に大きいことを確認することができた。しかし、同時にその実現には痛みを伴う判断をスピーディーにかつ果断に実施する必要があるということも改めて認識した」と述べました。
※記事後半では、ホンダ 三部社長会見のノーカット動画を掲載しています
ホンダ 三部敏宏社長 会見冒頭【動画】27秒
※動画はデータ放送ではご覧になれません
子会社化を提案した理由について「株式交換による経営統合を提案した理由は、ワンガバナンスでの体制を早期に確立することが可能であり、これが現在の環境下において両者にとって最優先事項であると考えたからです」と述べました。
「日産にとっても相当厳しい判断になるであろうことも想定はしていた。場合によっては合意が撤回される可能性も考えてはいた。しかし、それ以上に恐れるべきことは両社の統合が遅々として進まず、将来、より深刻な状況に陥るということであり、そうならないためにもいま、このタイミングで提案することにした。この経営統合を必ず成功に導きたいという強い決意、覚悟を込めた提案だった」と述べました。
“合意点を見いだせず大変残念”【動画】37秒
また、「合意点を見いだせず、経営統合が実現に踏み出すことができなかったのは大変残念ではあるが、今回の検討を通じてホンダと日産の協業によるシナジー効果のポテンシャルは相応にあるということを両者で認識できたことから、昨年8月に発表し現在並行して進めている三菱自動車を含めた3社での戦略的パートナーシップに引き続き生かしていくということで、知能化、電動化の時代に向けたプランの検討とその実行に結びつけていきたい」と述べました。
さらに、「経営統合実現までの当初の共同持株会社の設立、あるいは株式交換、どちらの手法をとったとしても 事業会社、ブランドは存続することが前提だったし、2社の間で融合を図る中でも、日産の従業員についても変わらずさまざまな活躍の機会があることから経営統合における重要な部分には当初から変化はないと考えていた」と述べました。
“敵対的TOB考えず”【動画】26秒
敵対的TOBという選択肢がなかったかという問いに対して、「日産自動車を手中に収めたいという考え方よりも、われわれが本当にやりたかったのは競争力になるSDVのビジネスをつくるというところが上位の概念で、敵対的TOBというのはわれわれは考えたことがないし、これからも、その予定はない」と述べました。
また、子会社化の提案について、「持ち株会社は新しい会社になるということで ガバナンス体制をつくることが当初のわれわれの想定よりもはるかに相当な時間と労力を必要とすることがわかってきた。今、スピード感が重要な時期なので危機感を感じ、その期間を脱するための方法としてワンガバナンス体制が必要だろうということで提案した」と述べました。
“今後は戦略的パートナーシップを”
日産と再び経営統合の協議を行うのか問われたのに対し、「今後については経営統合という形には至りませんでしたけれども、戦略的パートナーシップをつくっていくというMOU=基本合意書は生きておりますので、その中でシナジー効果を最大化していく。当然、経営統合よりはシナジー効果は少なくなると考えていますけれども、今後はそういう形でメリットを最大限出していく。日産、さらには三菱自動車も含めて、戦略的パートナーシップを結ぶということで3者間での理解も深まりましたし、戦略的パートナーという立場で最大限の効果を出していき、新しいSDVの時代にも競争力のある車サービスを構築していきたいと考えています」と述べました。
さらに、「日産自動車だけではなく、三菱自動車も含めた3社のアライアンスをうまく活用して、競争力のある新しいモビリティ社会に向けたビジネスを作っていきたい」と述べました。
“国の関与は一切ない”
経営統合をめぐって国の関与がなかったのか問われたのに対し、「日産とホンダの経営トップ、つまり私と内田社長の2人の話の中で決まって検討を始めたということが事実であり、そこに国の関与は一切ない」と述べました。
スケールメリットを得るために今後、ほかの提携先を探すのか問われたのに対し、「経営統合によるメリットには及ばないものの、3社での戦略的パートナーシップによって、一定程度のスケールメリットは得られると考えている。そのほか現在もGM=ゼネラルモーターズともいろいろな意味で協業の検討みたいなものもやっているので、今後、ウイン・ウインの関係が築けるのであれば、そういう可能性は考えていきたい」と述べました。
日産との間で意思決定のスピードに違いがあったのかと問われたのに対し、「最初に提案した形では、統合会社ができて両方の事業会社がぶら下がるということで、意思決定においてスピード感のある時代に非常に危機感を感じた。日産自動車の判断が遅いとかホンダが遅いとかそういうことではなく、新しい会社の体制、形態はあまりにも複雑すぎてそこに労力や時間を使っている場合ではないと考えた」と述べました。
【ノーカット動画】ホンダ 三部社長 会見(31分9秒)
※動画はデータ放送ではご覧になれません
三菱自動車 “ホンダ・日産が進める協業 参加検討続ける”
日産自動車が筆頭株主になっている三菱自動車工業は、ホンダと日産の経営統合に向けた協議の枠組みにどのように加わるか検討を進めてきましたが、両社の協議の打ち切りを受けて、この協議に関する覚書を解約すると発表しました。
一方で、ホンダと日産が進めているソフトウエアの基礎技術の共同研究などの協業については、参加の検討を続けることにしています。
統合 なぜ見送りに
ホンダと日産が経営統合に向けて本格的な協議を始めてからわずか1か月半で行き詰まったのは、協議を進めるにつれて両社の考えの隔たりが大きくなったことがあります。
当初は持ち株会社を設立した上で、両社を傘下におさめる形での統合を目指していました。
しかし、ホンダはその後、日産の株式を100%取得して完全子会社化する案を日産側に打診するなど、経営の主導権を握ろうとする動きを強めてきました。
ホンダがこうした動きを強めた背景には、経営統合の前提条件となっている日産の経営立て直し策の実効性や経営陣の意思決定のスピードに対する不満があり、ホンダの関係者からは「危機感に乏しく、踏み込んだ改善が行われていない」という声が聞かれていました。
子会社化によって、ホンダが日産の経営についても主導権を握ることで、業績の立て直しを含めて意思決定を迅速に進めたいというねらいがあったとみられます。
一方、日産にとってもホンダ主導の経営統合を受け入れて協議を進める中で、「統合相手を尊重する姿勢が見えない」といった根強い反発があり、そうした中で合意していた枠組みと異なる子会社化の提案が出されたことが両社の溝を深めました。
今回の経営統合の協議は、EVシフトや車のソフトウエア開発で存在感を高める米中の新興メーカーとの競争が激しくなり、巨額の開発費を含めて、1社単独では対抗できないという危機感から始まりました。
しかし、協議を進めていくにつれて、両社の意見の隔たりや社内での反対の声も大きくなり、互いの不信感も募った形で、日本を代表する自動車メーカーどうしの歴史的な経営統合は実現しませんでした。
専門家 “経営陣の交渉に稚拙さを感じざるをえない”
自動車業界に詳しい、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、両社が経営統合に向けた協議を打ち切ったことについて、「目標に向かってのお互いの努力が欠けていて、100年に1度の変革の時代における交渉としては、拙速だったかもしれず、極めて惜しい結果だった。両社の経営陣のビジネス交渉における稚拙さを感じざるをえない」と指摘しました。
その上で、今後の日産自動車の課題については、「単独で将来に向けての成長投資の電動化や自動運転、IT投資を行うのはばく大な費用が必要で、難しいと思うので、新たなパートナー探しは必然的なものになってくる」と述べました。一方、ホンダについても「四輪事業は収益性の低さが問題で、経営統合というカードを切るくらい大変なことが今回浮き彫りになり、コストダウンや投資の見直しを加速する必要がある」と指摘しました。
ホンダ 今後の課題
経営統合の協議が打ち切りとなったことでホンダは今後、戦略の見直しを迫られることになります。
ホンダは足元の業績は堅調ですが、自動車事業の収益性の向上が長年の課題となっているうえ、EVやプラグインハイブリッド車の普及が進む中国では、苦戦が続いています。
ホンダは米中の新興メーカーが存在感を高めているEVやソフトウエアの分野で競争力を強化するための手段として、規模の拡大に向けて日産との統合協議に踏み切っただけに新たな提携戦略をどう進めていくかが課題となります。
EVや燃料電池システムの開発などで提携しているアメリカのGM=ゼネラルモーターズとの関係も注目される一方、そのGMは2024年9月、韓国のヒョンデ自動車と新車の開発生産からサプライチェーンまで包括的な業務協力に向けた覚書を結び、提携関係を深めています。
海外を含めて大手の自動車メーカーの間ではすでに提携の動きが広がっていて、新たな提携相手を探すことは難しいという指摘もあるだけに、今後どのような戦略をとるのかが注目されます。
日産 今後の課題
業績が悪化している日産は経営の立て直しが差し迫った課題で、過剰な生産体制の見直しや固定費の削減などを着実に実行し、収益性を改善していけるかが問われています。
まずは2024年11月に公表した世界で生産能力を20%削減し、9000人の人員削減に向けた具体的な計画を実行していけるかが焦点で、そのうえで、将来の成長投資に向けた基盤を築いていけるかが課題です。
また、単独での生き残りが難しくなる中で、競争力の強化に向けて、新たな提携先の検討を含めて戦略の見直しが不可欠です。その日産に対しては、台湾の大手電子機器メーカー、「ホンハイ精密工業」が経営への参画を水面下で検討していたことが明らかになっていて、経営統合が見送られたことで、株式の取得に動き出すのではないかという見方もあります。
こうした中、ホンハイ精密工業の劉揚偉会長は12日、日産の筆頭株主であるフランスのルノーと協議したことを明らかにした上で、日産の株式取得についても話し合ったが、買収ではなく協力が目的だという考えを示しました。
こうしたことから日産の長年の提携相手で、多くの株式も保有するフランスのルノーの対応も焦点となりそうです。
経営統合 目指した経緯
長年競合してきたホンダと日産自動車が関係を深めようとしたのは、EV=電気自動車やソフトウエアの開発で先行する米中の新興メーカーに対抗するためでした。
2024年3月に、車の電動化などの包括的な協業に向けた検討を始め、8月にはソフトウエアの基礎技術の共同研究などで合意しました。
そして、12月には両社の技術や資金を持ち寄ることで競争力を高めようと、経営統合に向けて本格的に協議を進めることを発表しました。
この中では持ち株会社を設立した上で両社を傘下におさめる形で、それぞれのブランドを存続させる一方、統合によってEV=電気自動車や、自動運転などの鍵となるソフトウエアの開発にかかる巨額の費用を分担したり、スケールメリットを生かして車両のプラットフォームを共通化したりすることなどを打ち出していました。
経営統合が実現すれば、販売台数で700万台を超える世界有数の巨大自動車グループが誕生し、「規模の拡大」を通じて日本の自動車産業の競争力の強化につながることも期待されていましたが、実現はしませんでした。
世界の自動車販売台数 ホンダ8位 日産9位
世界の自動車グループの去年・2024年の販売台数は、1位のトヨタグループが1082万台、2位のフォルクスワーゲングループが902万台、3位のヒョンデグループが723万台、4位のステランティスが543万台、5位のGMが517万台、6位のBYDが427万台、7位のフォードが395万台、8位のホンダが380万台、9位の日産自動車が334万台、10位のスズキが324万台となっています。
世界8位のホンダと、世界9位の日産の経営統合が実現すれば、トヨタグループ、フォルクスワーゲン、ヒョンデグループに次ぐ700万台を超える世界有数の自動車グループが誕生する計画でしたが、実現しませんでした。
一方、販売を41%伸ばした中国のBYDが世界6位となり、ホンダや日産を初めて上回りました。
BYDはEVやプラグインハイブリッド車が普及している中国市場を中心に販売を伸ばしていて、世界トップのEVメーカー、テスラとともに自動車産業で急速に存在感を高めています。
ホンダ・日産の両社は1社単独では新たな競争の時代を生き残れないという危機感から統合統合の協議に踏み切りましたが、協議が打ちきりとなる中で、経営戦略の見直しと、その実行が求められます。